多点点火すれば、燃焼効率が飛躍的に上がることは、理論的にはこれまでも知られてきた。しかし「、多点点火をどう行なうか?」という壁に実現を阻まれてきた。そこに挑戦したのが総合環境企業のミヤマである。
TEXT:高橋一平(TAKAHASHI Ippey)
*本記事は2011年6月に執筆したものです
火花点火を用いる内燃機関において、多点点火という技術概念は決して新しいものではない。しかし、問題はその実現性で、「それができれば......」という類の、発想はできても実現は難しいという「絵に描いた餅」的なものとされてきた。実際に、量産製品として存在していないのはもちろんのこと、実験的な試みとしても多くの目に触れる機会が得られるほどの成果を挙げた例はなかったといっていいだろう。苦労して形になったとしても、バルブ配置や燃焼室形状などに大きな影響を及ぼす複雑なものとなってしまうというのが、今までの「定説」であった。
しかし、ミヤマによる多点点火装置を目の前に
してみると、この「定説」が先入観というものに
囚われていたものであることに気付かされる。既
存型のスパークプラグを用いる発想では避ける
ことのできなかった、物理的なレイアウトの問題
を、ミヤマのそれでは「ヘッドガスケット型」と
も言える、革新的な「スパークプラグ」の発明に
よって極めてシンプルに解決。ひと昔前なら電極
の消耗などといったメインテナンス性が問題に
なったかもしれないが、21世紀を迎えた今、電極
の消耗については耐熱性の高い金属を用いるこ
とで、既に解決しているのだ。
燃焼室外周上に複数の点火装置を配置するという、火花点火式の内燃機関としては革新的といえる点火環境を、複雑な機構なしに実現。点火装置の数や形状は、試行錯誤の結果、得られたノウハウからきている。その汎用性の高さを生かし、現在は既存型エンジンを用いた実証実験を行なっており、ここに紹介しているSR20DE型エンジンで、すでに44%というディーゼルエンジンに迫る熱効率を実現している。
既存型エンジンの構成要素を大きく変えることなく、最小限の加工で組み付けが可能というこのシステムは、すでに熱効率44%を超えるという驚くべき結果を得るに至っている。しかも注目すべきは、この数字が1点点火型の既存型エンジン(現在はSR20DE型を使用)をほぼそのままに用いて達成されているということ。そこには多点点火を前提とした専用エンジンを用いるという、さらなる向上の余地がまだ残されているのだ。「コロンブスの卵」的な発想が可能としたミヤマの多点点火装置は、誰も見ることのできなかった内燃機関の新境地を切り拓こうとしている。