陸上自衛隊の機甲科偵察隊は優れた機動力を備えている。彼らの主務は戦車部隊や陸自主力部隊の「耳目」となること。敵部隊の発見と監視、戦域の地形的特徴の把握、主力部隊の活動を支援する偵察情報を獲得し、届けることが役目だ。偵察隊が装備する装甲車両が87式偵察警戒車である。
TEXT &PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
兵器を機械化し、車両を防弾化・装甲化することを表す言葉が「機甲(きこう)」だ。そして機甲とは多くの場合に戦車や戦車部隊などのことと、そのありさまを表す。つまり機甲は戦車や装甲車、そして機械化された歩兵(普通科)、砲兵(特科)とを総称したもので、これらの各部隊を組み合わせた勢力を装甲部隊や機械化部隊と呼んでいた。この呼び方は過去の世界大戦時代に生まれたものだったが、用語や意味は現在でも通じている。
陸上自衛隊では戦車部隊や偵察部隊が機甲科職種と呼ばれ、これらの部隊は戦車や装甲車に加えて、戦闘部隊を支援する戦車回収車やオートバイなどの各種車両を装備する機械化部隊を形作る。
今回はこの偵察部隊の装備のひとつを紹介したい。
まず、機甲科偵察隊は優れた機動力を備えているのが特長だ。彼らの主務は戦車部隊や陸自主力部隊の「耳目」となること。敵部隊の発見と監視、戦域の地形的特徴の把握、主力部隊の活動を支援する偵察情報を獲得し、届けることが役目だ。
偵察隊が装備する装甲車両が87式偵察警戒車だ。6輪の装輪(タイヤ式)装甲車で、スイス・エリコン社製25mm機関砲を装備する。これはエリコン社製のものを日本製鋼所がライセンス生産しているもので、主武装品になる。副武装として車載式7.62mm機関銃も装備している。必要な場合この機関砲で射撃、小規模攻撃を行なって敵の反応を探る。これは「威力偵察」と呼ばれる手法だ。
87式偵察警戒車は小松製作所が製造、1987年に制式化した。乗員は5名で、車長と操縦手、砲手、前部偵察員と後部偵察員が乗る。
本車の部内での通称は「87RCV(はちななアールシーブイ)」、もしくは短縮して「RCV」と呼ばれる。RCV は「Reconnaissance Combat Vehicle」の意味で、「Reconnaissance」は偵察を意味する。防衛省は愛称を「ブラックアイ」としているが、そう呼ぶ隊員に会ったことはない。
先述したとおり87式偵察警戒車は威力偵察を行なう。威力偵察とは、敵を攻撃し、その反撃規模で敵の勢力や能力を確認することだ。87式偵察警戒車の配備以前の威力偵察任務では、小型トラックや偵察用オートバイが使われてきた。しかしトラックやオートバイには装甲が無いから、銃砲弾の飛び交う前線や交戦地域では偵察自体が困難だった。そうした危険地域で隊員の身を装甲で守りながら、火力投射が可能な威力偵察をともなう行動ができる本車の登場は画期的だった。従来にない深い偵察が可能となった。
87式偵察警戒車は82式指揮通信車という陸自初の国産装輪装甲車をベースとしている。82式指揮通信車は70〜80年代の6輪式装輪装甲車の基礎となったもので、これを基に87式偵察警戒車や化学防護車などが作られた。共通設計や部品の共用によるコスト抑制開発、ファミリー化構想というものだった。
しかしこの6輪式装輪装甲車ファミリーは車高が高く、横転するなどの事例もあり、走安性ではイマイチな感が大きく、拡大することはなかった。やがて8輪タイヤの96式装輪装甲車が登場し、これもまたファミリー化を標榜したが拡大していない。ひとつの装甲車を基に、用途に合わせてさまざまなタイプの車両を生み出す試みはどうもうまくいかない。
現在、96式装輪装甲車の後継となる新世代の装輪装甲車の開発が進められており、派生モデルの開発も行なわれているものと思われる。必要な装甲車群とは、兵員輸送車、指揮車、偵察車、火砲や迫撃砲を積んだ自走砲、装甲救急車などだけでいいのではないかと思う。二の轍を踏まず、開発を成功させて欲しいと思う。