自動車に求められる性能が上がり達成すべき基準が複雑化すると、開発にかかる時間とコスト、工数が膨大になる。そこで注目されるのが、シミュレーションを駆使したモデルベース開発(MBD)である。圧縮比14.0のSKYACTIVエンジンで度肝を抜いたマツダ。その開発にはdSPACEシミュレーターとASMが大きな役割を果たした。
コンピューターの進化にともなって、自動車開発の様相が大きく変わってきている。従来型の開発では、安全性・快適性・環境適合性を短い開発サイクルの中で達成した上で魅力的なクルマ作りをするのは難しい。そこで、いわゆる「モデルベースの制御設計手法」と呼ばれる開発手法が注目を集めているわけだ。
この分野のトップランナーであるdSPACE社が2014年6月に開催したジャパン・ユーザー・カンファレンス2014で、その最前線の様子が披露された。ここではマツダのSKYACTIVにおけるモデルベース開発(MBD)を例に挙げて見ていこう。プレゼンターは原田靖裕氏(マツダ株式会社パワートレイン開発本部パワートレインシステム開発部部長)である。
SKYACTIV開発プログラムではdSPACEシミュレーターによるMILS:Model-In-the-LoopおよびHILS:Hardware-In-the Loopを活用し、ASM:Automotive Simulation Modelを使用することで開発を効率的にかつスピーディに進めることができたという。「SKYACTIV開発では通常の目標の4倍くらい高い目標を掲げて開発がスタートしました。当時は、みんなが『不可能だ。どうやってやるんだ?』と思っていました。これを実現するには、なにか新しい取組みが必要。それがMBDです」(原田氏)
圧縮比14.0を実現したSKYACTIV-Gエンジンの開発は、いまではサクセスストーリーとして語られるが、開発当初は困難の連続だった。「開発を進める上で、ふたつの大きなポイントがありました。ひとつは、進むべき方向を絞ったということ。あれもこれもやる時間も予算も私たちにはありませんでした。だから一番効くけれどもっとも困難な高圧縮比を実現することに方向を絞りました。もうひとつが、プロセスの革新です。実機で試行錯誤する時間はない、ということでコンピューターに相当な投資をしたんです」(原田氏)
これが奏功した。「従来だとアイデアが浮かんだら電機メーカーさんにコンピューターを作ってもらい3ヵ月待ってやっと検証できる。それがMBDだと朝思いついたらその場でプログラムを作ってすぐに試せる。HILSやMILSを駆使したことで、出図前に徹底的に技術検証ができました」(原田氏)
エンジンのプログラムは膨大なコードで出来ている。MBD導入前ではECUが出来上がってから3ヵ月くらいエンジンがかからないのは当たり前だったという。それが「SKYACITVは毎回のように一発でエンジンがかかった」という。
開発はすべてに渡って効率が大幅に上がった。しかも、効率だけでなく品質も上がった。SKYACITVでは制御プログラムをすべてマツダ内製にしたが、初めてにもかかわらず品質も大きく上げることができたという。
「MBDの最大の価値は、最適な答を机上で見つけることができるということ。究極的には世界で最初に答を見つけて、世界で最初にその山に登ること、それがMBDの価値だと思います」と原田氏は述べる。ただし、「MBDは若いエンジニアだけではだめなんです。超一流のエンジニアが使ってこそ価値がある」と付け加えた。そこが自動車開発の醍醐味なのかもしれない。