JFEスチールが開発した1.5GPa(1470MPa)級高張力冷延鋼板が、冷間プレス用途として世界で初めて(同社調べ)、自動車の骨格部品に採用された。
1.5GPa級高張力冷延鋼板は、冷間プレスによる車体骨格部品の強度としては世界最高レベル。本鋼板は、複数の自動車メーカーの部品に採用され、既に部品加工メーカーへの供給を開始している。
車体骨格部品は、衝突時の乗員保護と軽量化による燃費改善のため、高強度化が進められている。1.5GPa級高張力冷延鋼板は、バンパーやドアインパクトビームをはじめとする単純な形状の部品には、既に適用されていた。一方で、形状が複雑な車体骨格部品への高張力冷延鋼板の適用は、鋼板を高強度化すると冷間プレス性や耐遅れ破壊特性(※1)が低下することなどから、これまで1310MPa級までにとどまっていた。この課題に対応するため、熱間プレス工法(※2)による1.5GPa級高張力鋼板の適用が進んでいるが、高温への加熱・低温の保持が必要であることから、単位時間あたりにプレス可能な台数が減少してしまうため、製造コストなどの面で改善が望まれていた。
冷間プレス用1.5GPa級高張力冷延鋼板では、西日本製鉄所(福山地区)にある独自のWQ方式(※3)連続焼鈍プロセス(図1)の高い冷却能力を活用して、合金の添加と鋼板の微視組織の不均一性を極限まで低減した。これにより、1310MPa級高張力鋼板と同等の冷間プレス性を有しながら、1.5GPa級高張力鋼板でも特に高い降伏強度(※4)と耐遅れ破壊特性を両立させることで、低コストな冷間プレス工法によって、車体骨格部品に1.5GPa級高張力鋼板を適用することが可能となった。
このたび、本鋼板の強度特性、耐遅れ破壊特性、および冷間プレス性の優位性が自動車メーカーより高く評価されるとともに、共同で適用技術開発に取り組んだことで、車体骨格部品への適用が実現した。
(※1)耐遅れ破壊特性:水素に起因するプレス成形後の静的な脆性割れを発生しにくくする性質。
(※2)熱間プレス工法:素材を高温に加熱して軟質にした後、プレス金型で成形と焼入れを同時に行い、高強度な部品を得る工法。プレス成形による残留応力を小さくできるため、耐遅れ破壊特性の確保に有利。
(※3)WQ方式:水焼入れ。Water Quenchの略。
(※4)降伏強度:鋼板が変形し始める強度。部品強度に直接的に影響する。