老舗自動車雑誌『カーグラフィック』出身の女性ジャーナリスト、伊藤梓さんが選んだ「2020年の推しカー」はホンダ e、トヨタ・ヤリスクロス、プジョー208とコンパクトカーが勢揃い。特に208は運転の楽しさに太鼓判。「完璧」と言いたいくらい、クルマのバランスが優れているという。
TEXT●伊藤梓(ITO Azusa)
自動車業界のライターとして、一応若手を自負している伊藤梓です。2020年「私の推しカー」は、なるべく等身大の目線で、自分の同世代やクルマをあまり知らない方にも勧められるようなクルマをチョイスしてみました!
原動機がどうこうに関わらず、まずパッと見て、誰もが「可愛い!」と思えるデザインが◎。日本車のデザインは、たとえクルマ好きが「かっこいい!」と思っても、クルマにあまり興味がない人たちや若い世代はピンと来ないことも多い気がします。そんな中、このホンダeのデザイン! まさにそういった人たちにも刺さりそうだと感じました。
バッテリー容量が小さく、航続距離はWLTCモードで259〜283kmと、割り切ったところも個人的には好印象。バッテリー容量が大きすぎると、30分の急速充電で80%まで充電できないこともありますし、重量が重くなるので電費効率も悪く、バッテリーの劣化や交換、廃棄を考えると、現段階の技術では、環境に対してもあまり良くないように感じます。そういった意味でも、ホンダeは、今の実情に合ったEVだと言えるのではないでしょうか。
ただ、価格は高額...。どうしても車両価格が上がってしまうのは理解しているのですが、やはりまだ気軽に購入できる値段ではないので、3位に。
ヤリスではなく、ヤリスクロスというところがミソ! スポーティなクルマが大好きな私としては、コンパクトさを活かしてクイックに走り回れるヤリスは素晴らしいと感じたのですが、「良いクルマだけど、万人に勧められるものではないかな...」というのが、正直な印象でした。
その点、ヤリスクロスは、ヤリスのマイナスポイントをきちんとカバーできていると思います。使い勝手の良い広い荷室や、ゆったりとした後席、SUVらしく安心感のある4WDシステムなど。もちろんハンドリングはヤリスの方が抜群に良いのですが、ヤリスクロスのような誰でも素直に運転できる自然なドライブフィールも◯。
そして、ヤリスの力強いフロントマスクなどは、個人的にはちょっと苦手なのですが、ヤリスクロスは、つるっとしていて個性的すぎないシンプルなデザインがいいなと思いました。
ただ、ひとつ気になったのは、乗り心地が少し硬いこと。家族や友人と遠出したり、アクティブにたっぷり使いたいモデルとしては、もう少し足回りは柔らかめがいいかも?
今年、実際に触ってみてもっとも驚いたのが、このプジョー208。運転した時のフィーリングがとにかく素晴らしい! 私の中の基準では「完璧」と言っていいくらい、クルマのバランスが優れていると感じました。
かっちりとしたボディの剛性感としっとりした足回りの両立。そこから生まれる気持ちの良いハンドリング。高速道路では、ピタッと安定して直進する安心感。そして、パワフルで思い通りにコントロールできるパワーユニット。乗ってみてすぐメロメロになってしまいました。
自動車ライターが「運転していい!」というモデルは、一般的には受けにくい側面もあると思うのですが、208はそうではなく、一般の方が運転してみても「運転しやすい」「安心感がある」「長距離を運転しても苦じゃない」と、自然に感じられるクルマに仕上がっているのではと感じました。
デザインや演出も秀逸で、運転席に座ってみると、運転手が包み込まれるようなコックピットのデザインになっていたり、メーターが二重になっていてサイバー感があったり、特にガジェット好きな若い世代にも響きそうだなと感じました。
今、私はロードスターに乗っているのですが、正直ここまで買い替えを考えさせられたクルマは初めてです。自分の財力が許すなら、208とロードスターで2台持ちしたかった...。