日本政府が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」方針を掲げこと、トヨタが「MIRAI」を6年でフルモデルチェンジしたことなどから、水素燃料に注目が集まっている。そこで今回は、ポルシェとシーメンスエナジーを中心とした国際企業連合がチリで推進している「ハルオニ」プロジェクトをご紹介しよう。合成気候中性燃料「eFuel」を製造する世界初の商業用大規模プラントを生み出すことが期待されている。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)
現場は南米チリのマガジャネス州
「ハルオニ」パイロットプロジェクトでは、2022年には約13万LのeFuelが生産される。さらに2つの後の段階では、2024年までに年間約5,500万Lに、2026年までに約5億5,000万Lにまで生産量が増加する予定である。
「ハルオニ」パイロットプロジェクトは、チリ南部の優れた風力条件を活用。グリーン風力を利用して気候に中立な燃料を生産するプロジェクトである。風力条件が優れている結果として、チリは国際的にみて電気料金が低い。だからグリーン水素の生産、現地での使用、それに燃料輸出の可能性が非常に高いと見られている。「ハルオニ」プロジェクトでは、それを液体燃料の形で輸出しようと考えている。これはドイツの国家水素戦略の一環であり、シーメンスエナジーはドイツ連邦経済エネルギー省から約800万ユーロの助成金を受け取る。シーメンスエナジーのCEOであるクリスチャン・ブルッフ氏は語る。
「持続可能なエネルギー経済を確立するには発想の転換が必要です。再生可能エネルギーは、必要な場所で生産するだけではなく、風や太陽などの天然資源が大規模に利用できる場所で生産される必要があります。すると再生可能エネルギーを運ぶために、新しいサプライチェーンが世界中で誕生することでしょう。これはドイツにとって特に重要です。ドイツはエネルギーを輸入する必要があるからです。水素はエネルギーの貯蔵と輸送において、将来ますます重要な役割を果たすでしょう」
またポルシェのCEOであるオリバー・ブルーメ氏は、以下のコメントを発表した。
「EVはポルシェの最優先事項です。自動車用「eFuel」は余剰な持続可能なエネルギーを利用できる世界の何処かで生産される場合には、特に利用する価値があります。それらは脱炭素化への道の追加要素となるからです。その利点は適用の容易さにあります。「eFuels」は燃焼エンジンおよびPHEVで使用でき、ガソリンスタンドの既存のネットワークを利用できます。高性能で効率的なエンジンのメーカーとして、私たちは幅広い技術的専門知識を持っています。世界初の商用大規模「eFuel」プラントへの参画は、将来の代替燃料の開発に繋がると考えています」
eFuelは水素を活用したエネルギー生成技術
オリバー・ブルーメ氏のコメントを読んで、筆者は少なからず混乱した。「eFuel」を水素燃料と早合点していたのが、どうやら違うらしい。水素燃料は燃焼エンジンやPHEVでは利用できないし、ガソリンスタンドの既存ネットワークを活用することはできない。その答えは、リリースの後半とシーメンスエナジーのウェブサイトに記載されていた。
シーメスエナジーは、シーメンスガメサ風力タービンを使用した発電からグリーン水素の生産まで、バリューチェーン全体をカバーするシステムインテグレーターとしての役割を果たす。最初にグリーン水素を生産するために、電解槽は風力を使用して水を酸素と水素の2つの成分に分解する。ここで使われるシーメンスエナジー製のPEM(プロトン交換膜)は高効率であり柔軟性を備えており、風力と太陽エネルギーを利用するのに理想的であるという。2番目のステップでは、計画では、空気からCO2をろ過して、それを緑色の水素と組み合わせて合成メタノールを形成する。これでメタノールが得られる。これにエクソンモービルのライセンスとサポートを受けるMTG(メタノールからガソリン)技術を適用して、気候に優しい燃料に変換できる、という仕組みである。再生可能エネルギーを利用して生み出した水素を活用して燃料を作る、というのがeFuelなのであった。