政府専用機の運行を担当するのは、航空自衛隊の「特別航空輸送隊」である。現在の政府専用機は2代目で「ボーイング777-300ER」が使われている。「空飛ぶ首相官邸」でもある政府専用機、どのような運行されているのだろうか?
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
内閣総理大臣がタラップを上がって振り向き、笑顔で手を振る。外国訪問などの際に乗り込む専用航空機、大柄な白いボディに赤いライン、首相が立つドアの上には「日本国」そして「JAPAN」と大書されており、垂直尾翼には巨大な日の丸が輝く。
政府専用機とは、首相など要人の外国訪問や国際会議出席などのために使われる航空機。2機を保有しており、航空自衛隊が運用しているものだ。重複するが首相や天皇陛下、いわゆる日本国の要人が外交などの目的で外国へ移動する際、安全に空輸するために使われる。そのほか、いわゆる有事や緊急時に在外邦人等の輸送や、自然災害などでの国際緊急援助活動、国際平和協力活動などの際にも利用され、人員輸送を主に行なう。
運航を担当するのは航空自衛隊「特別航空輸送隊」だ。北海道の千歳基地に部隊と機材が置かれている。千歳基地は民航の新千歳空港と同居しているから(民航機も含め航空管制は空自が行なっている)、新千歳空港を訪れた際には政府専用機を目撃するチャンスがある。要人輸送の本番以外にも飛行訓練が定期的に行なわれているからだ。
パイロットや客室乗務員など、運航スタッフはすべて航空自衛官が務めている。客室乗務員とはつまりCA(キャビンアテンダント)のこと。要人など政府専用機搭乗者への各種機内サービスを行なうが、この客室乗務員を務めるのも航空自衛官なのだ。担当要員となった航空自衛官たちは日本の民間航空会社で専門教育を受ける。民航のCAさんらと同等かそれ以上のスキルを得て乗務するのだ。CAさんには保安要員としての側面も持つが、航空自衛官なのでその点の素地は高く、さらに磨かれることになる。
政府専用機の客室乗務員を経験した女性航空自衛官を取材したことがあった。専用機とは無関係の内容のインタビューで、当初は専用機客室乗務員経験者だとは当然知らずに接していたが、立ち居振る舞いが美しく微笑みを絶やさない。話題も豊富でスマートだ。なんだか『自衛官っぽくない』ので、もしやと思って聞くと、彼女はチーフパーサーにあたる役職を長く務めたという。オーラのようにやんわりと纏うプロフェッショナル臭に合点を得たものである。こうした方々が乗務する機体に、乗れるものならぜひ乗りたいと感じたが、政情不安国で難民にでもならないと筆者にその機会はないと思う。
そして専用機には機体整備担当の航空自衛官も同行する。運航時には2機の政府専用機が同時にフライトし、仮に1機がトラブルに見舞われた場合でも、もう1機がバックアップするなど、万全の態勢を敷いている。
要人に随行する政府スタッフや同行記者団などで大人数になることも多いので機体は居住性を重視した大型旅客機が使われる。
そもそもの政府専用機導入決定は1987年だった。そして1991年に購入し、翌92年に当時の防衛庁に配備された。最初の政府専用機は「ボーイング747-400」、あの「ジャンボジェット」である。
当時、空自は「臨時特別航空輸送隊」を編成、運用試験や運用態勢の整備を始めた。93年6月には『臨時』を取り去った「特別航空輸送隊」を新しく編成、その本拠地を千歳基地に置いた。この初代となる専用機「B-747-400」は現在では退役し、2代目となる「ボーイング777-300ER」が就役、2019年4月より同部隊で運用されている。
初代専用機「B-747-400」は世界中の民航で使われた機材と同じジャンボジェットだ。原型機の初飛行は1969年。経済性と長距離飛行性能を備えた機体として設計・開発された。以来、飛行を続け、時代に合わせて仕様や装備を最新化し、改良を加え続け名機となる。そのシリーズで85年に登場した当時の最新仕様が「B-747-400」だった。
一般旅客機ベースだが政府専用機として改修された点も多い。まず通信システムのグレードアップ、衛星通信装置をはじめとした各種通信装置が搭載された。機内には内外の要人や政府閣僚との会議を行なうための会議室も作られていた。こうした専用機としての基本機能や設備の設置・搭載は2代目の「B-777-300ER」でも踏襲されている。つまり政府専用機は首相官邸の機能を持っており「空飛ぶ官邸」ということができる。ちなみに米国の「エアフォースワン」は「空飛ぶホワイトハウス」などと表現される。しかし、エアフォースワンは合衆国大統領専用機という位置付けだそうだ。大統領個人の運用度合いが強いものと思われる。一方、我が国の政府専用機は文字通り「政府の専用機」という位置付けと運用体制にあり、誰かひとりの要人のための機体というものではないという。
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