ヨーロッパの食文化のひとつである「燻製」。ジムニーで出かけたら、アウトドアで冬のドイツを思い出しながら、薫製にチャレンジだ。使うのは、薪ストーブとスモーカー代わりのコールマンのキャンプストーブ・オーブンと桜のチップだ。さて、出来映えは如何に?
TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
12月になるとドイツのエッセン・モーターショーを思い出す。ヨーロッパでのチューニングカーの一大イベントである。チューニングカーの他にもクラッシックカーのブースもあるし、ミニチュアカーや書籍の販売ブースもあったりする。出展者とユーザーの距離がとても近いイベントで、どこも熱気で溢れている。どうしても欲しかったのだろう、大きなエアロパーツをしょって出口へ向かうユーザーを見たこともある。「あらぁ、そんな大きいのを買って、今すぐに積んで帰るんだね」身体中から喜びが溢れている。
ドイツは緯度が高く、冬は日の射す時間が極端に短い。エッセン・モーターショーの取材時の朝食は、まだ陽が昇っていない頃に済ませる。また、ドイツの朝食は温かい物が少ない、当然撮影する会場は屋内なので、取材の帰りはすでに陽は落ち、ホテルまでは暗い夜道を帰ることになる。その上にこの国の湿度は「水は少しも存在していないのか!」と思うほどカサカサに乾燥している。「日照時間が少なくて湿度ゼロ!」僕のドイツの冬はそんなイメージだ。
ドイツやその周辺の先人達はこの乾燥した大気と日照時間が少ないことを利用して、生活を豊かにする調理法を生み出した。
「薫製」である。
森の国、木の文化。長い冬。保存が効き味も豊かにする食材への加工法だ。
ドイツに限らず、各国、各地域の先人達は自分の周りの環境を利用して生活を豊かにしてきた。僕ら日本人の先人達も、ヨーロッパの先人達に負けてはいない。太陽と海水を利用して作る干物や醗酵食品などは、決して「薫製」に劣る食文化ではないと思う。
相手の文化を認めつつ、自分たちの文化も大切にしていく。これは食だけに限らない。クルマを含めてすべての工業製品にも言える事ではないかと思う。
冬のドイツを思い出しながら、今回のキャンプの食事は薫製にチャレンジだ。
「薫製」は80℃以上で燻す熱薫、30℃から60℃で燻す温燻、15℃から30℃で燻す冷薫と3種類に分けられる。アウトドアに適した方法は熱薫である。
熱薫はスモークチップを不完全燃焼させ、高温の煙で燻す。短時間で燻すので食材の乾燥をそれほど進まないため、保存食にはならない。それでも充分に「薫製」の味は堪能できるはずである。
「薫製」での食材はそのまま燻せば良い物と下準備が必要な食材に分けられる。塩さえも薫製にしてしまう強者もいる。鯛の刺身を燻した塩で頂く。いつか僕もこれは作ってみたいと考えている。
一泊2日等、短いアウトドアでの薫製作りなら、下準備をせずに燻すだけで済む食材を選ぶと良い。すでに乾燥されている干物やウインナーソーセージ等。燻すだけでも味は激変する。お昼から燻し始めても、夜の酒のつまみには余裕で間に合うだろう。下準備が必要な食材なら、自宅で冷蔵庫等を使って済ませておく方法もある。
「スモークチップ」と呼ばれている、燻すための粉砕された木材を自由に選べるのも「薫製」の楽しみ方のひとつ。食材により、肉ならこの木のスモークチップ、魚ならこれ!とベストな物が用意はされている。でも、これにこだわらず自分でブレンドしたりしてみるのも良いと思う。出来上がりは毎回違っても良いではないか。それが自分で作る楽しみのひとつでもある。
薫製作りのプロフェッショナル達の味への探求は高度であり、とても素人が追いつけるものではない。僕は塩分を極力少なくして、出来上がったベーコンに火を通し、粗挽きマスターをたっぷりと。そんなベーコン作りを目指してみよう。
今回のベーコン作りには桜のスモークチップを使う。理由はワインスタンドだ。このワインスタンドは桜の木を丁寧に加工して作られており。コンパクトに折り畳め、アウトドアの雰囲気作りにも最適だ。このワインスタンドの材質に合わせて、桜のスモークチップを選んでみた。もちろんスズキ・ジムニーで来ているので、日帰りではアルコールは厳禁である。明日の朝食は温かいベーコンエッグとバターたっぷりの厚切りトーストだ。
最後に注意点を書き添えると、作ったベーコンは必ず火を通してから食する事。殺菌が完璧にはできていないし、燻すだけでは確実に中まで火が通っているとは限らない。それと出来上がったら、最低でも1時間、出来れば一晩ほど、クーラーボックスや冷蔵庫など、冷えた場所で保管する。そうすれば味はさらにしっとりと馴染んでくる。