陸上自衛隊の普通科連隊を中心に配備されているブルドーザーとパワーショベルがひとつになった土木建設機材、それが「小型ドーザ」だ。全長約4m、幅約2mのサイズだから大型トラックの荷台に容易に積み込んで現場へ向かえる。今回は小型ドーザを紹介する。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
小型ドーザとは、いわゆるブルドーザーとパワーショベルがひとつになった土木建設機材だ。車体前方に排土板のドーザブレードを、後部にパワーショベル(バックホー)を搭載する。ともに油圧式だ。製造は三菱重工や小松製作所、最近ではクボタ建機やヤンマー建機等によるものもあり、施設器材の範疇に入る。施設器材の枠であるが歩兵部隊である普通科連隊を中心に配備されている。普通科の人員と連携した作業が求められるからだ。
本装備は民生品(民間版)をほぼそのまま流用するのが基本的なあり方。操縦席に小銃用の架台が設置されていることと、管制灯火用の照明系統を装備する点など、変更箇所はごく少数だ。防弾のための装甲は無い。
積雪地や寒冷地で使うため運転室を鋼製とし、排土板にチルト機能を備えた仕様の一般部隊向け「A型」と、これらの機能を省略し軽量化した空挺部隊向け仕様「B型」の2タイプが配備されているという。
全長約4m、幅約2m程度のサイズだから大型トラックの荷台に容易に積み込んで現場へ向かえる。この輸送性の良さは資材運搬車の回でも紹介したように、防衛現場は当然として、災害派遣での運用でも光るキャラクターだ。小型だから被災地の奥深くまで素早く運び込め、行方不明者の捜索や瓦礫の撤去、現場の復旧など機械力を活かした迅速効率的な人力以上の作業が行なえるのだ。ドーザブレードで瓦礫を押しのけ、後部のパワーショベルのバケットで対象を掘り出す。連携して素早く行なわれるこうした作業は被災地のあちこちで行なわれる。痒いところに手の届く、ちょうどいいサイズの装備だ。
オペレーションするのは陸自内で訓練し専門課程を修了した専門員、いわゆる軍曹の階級にある陸曹があたる。陣地構築などの作業現場では多くの人員と複数の重機が同時稼働することから周囲を監視し安全を確保する安全係を置くことが特徴だ。災害派遣の現場でも信号手旗や笛などで指示する安全係員は必ず配置されている。これは救助に没頭するあまり、人員・重機ともに相互の危険性に関しておろそかになりがちな状況をなくすためだ。
一方、小型ドーザより大型の油圧パワーショベルは「油圧ショベル」と呼ばれる。いわゆる「ユンボ」だ。日立や小松など建機メーカーの民生品をほぼそのまま使っている。小型ドーザと同様に防弾等の装甲は持たない。本装備は戦闘工兵である施設科部隊を中心に配備されている。
油圧ショベルは全長約10m、幅約3m、重量約20tと大型だ。作業性も大きいが嵩張るため現場へはセミトレーラーなど大型輸送機材に乗せて輸送する。積み込みや輸送性は小型ドーザより大掛かりな分だけ手間がかかるのは当然。しかしその手間をかけるだけの作業性が求められる現場では必須の力を発揮する。パワーショベルのアーム先端を交換することができるから、たとえば2本の大型爪である「グラップル」に付け替えると、倒壊家屋の撤去作業はごく短時間で完了できる。本装備は多様な作業内容に対応できるものだ。
東日本大震災直後の行方不明者捜索活動などで、こうした重機が大量に現場投入された。行方不明者捜索の局面では、津波が運んだ大量の土砂等により地中に閉じ込められた不明者の救出に使われた。たとえば、倒れた電柱が土中の不明者に折重なり簡単には掘り出せない状況で、油圧ショベルがアームを使って倒れた電柱を吊り揚げて支え、堆積した土砂を撤去、そこから人力で掘り出すことが何度も行なわれた。
当然だが、救出作業は慎重さが絶対必要だ。家族が作業を見守ることもある。これは倒壊した家屋の撤去作業時も同様だ。一般に「瓦礫」と書くが、その家族にとっては「自宅」である。オペレーターとなる操縦担当隊員の技術は高度だ。大きなバケットを自在に操り、細かな作業を行なうこともできる。しかし、現場の指揮官は現場に入る前、技術以上に自分の家族と思う気持ちを大事に作業せよと打ち合わせる。自衛官も夫や妻であり、人の子であり親である。気持ちは同じだ。当事者の気持ちを想定、重視した作業のあり方は徹底されていた。これはまた自衛隊のみならず、民間建設業者が作業に当たる場合にも同じ状況、心構えで作業に当たっていた。