starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

これでいいのか? 日本学術会議の問題を自動車から考えてみる。「日本最高の学識経験者集団は自動車を相手にしていない!」


菅総理大臣が、日本学術会議が決めた新会員候補のうち6人を指名しなかった問題で国会も世論も揺れている。「日本学術会議側の決定を拒否しないことが通例」であり、拒否は「法律違反」だというのが会議側の主張である。この件はさて置き、日本学術会議の会員204人と連携会員1901人の専門分野を調べてみると「自動車のエキスパートがいない」ことに気付く。日本最高の学識経験者集団は自動車を相手にしていないのだ。


TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

日本学術会議に自動車のエキスパートはいない!

令和2年10月1日に始まった日本学術会議の「第25期」は204人の会員で構成されている。名簿は日本学術会議のインターネットホームページに掲載されている。同会議が会員と決定した210人のうち6人の任命が拒否されたので204人だ。




同時に、日本学術会議には1901人の「連携会員」がいる。国の任命権はおよばず、同会議が自由に選び、同会議の会長が任命することのできる「準会員」のような存在であり、その名のとおり「日本学術会議と連携して活動する」人びとである。その活動は会員と一体化されているそうだ。




会員204人と連携会員1901人。合計2105人が「第25期」の構成メンバーである。しかし、2105人のうち首相任命は204人、見方を変えれば全体の90.3%が政府の任命外である。これが日本学術会議の現状だ。

日本学術会議専門分野別会員(敬称略)

筆者の興味の対象は、日本学術会議に自動車のエキスパートがいるかどうか、だ。そこで調べてみた。




結論を先に言えば「まったくいない」のだ。

日本学術会議専門分野別割合

たとえば内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の自動車内燃機関部門に設置された「革新的燃焼技術」プロジェクトで、ラボ(研究室)段階とはいえ「熱効率50%」実現したスーパーリーンバーンエンジンプロジェクトに関わった大学教授や研究者諸氏は、日本学術会議会員にも連携会員にも入っていない。自動運転を運動力学側から研究している方、自動運転のためのAI(人工知能)を開発している方も入っていない。




ビジネスに直結するものはアカデミアではない? 商売と研究は切り離している?




興味深い点は、分野別で集計すると法学と医学の関係者が日本学術会議会員には多いことだ。下世話な表現での無礼をお許しいただくと、筆者が生まれた昭和33年のころの将来的理想像である「弁護士と医者」だ。これは立派にビジネスだと思うし、そもそもビジネスにならない学問はほぼ皆無と言える。




基礎医学と臨床医学の日本学術会議会員は合計32人。全体で204人だから15.7%に相当する。連携会員で見ても、この両分野の合計は283人となり全体の14.9%を占める。医学は重要だが、偏り過ぎではないだろうか。




医学界の比率が多くても構わない。では、この方々は、今般のCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)流行に当たって、何か行動を起こしたのだろうか。筆者なりに調べてみたが、行動は起こしていない。ナゼだ?




日本学術会議が何をする団体かというと、その目的は日本学術会議法という法律に定められている。「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」「科学に関する研究の連携を図り、その能率を向上させること」が目的だ。これはつまり「国の機関」である。




日本学術会議法は1949年(昭和24年)に制定された。まだ日本が第2次世界大戦の連合国側に占領されていた時期(日本の独立は1951年9月8日のサンフランシスコ講和条約締結、その発効は1952年4月28日)にできた法律であり、武器についての研究は忌避されている。以来ずっと、この方針は堅持されてきた。

日本学術会議連携会員専門分野別割合

では、武器以外の分野については自由に研究されているのかというと、いろいろなレポートを読んでも、いまひとつこの会議の存在意義がわからない。同時に、筆者が調べたかぎりでは、いま必要な自動車技術に関する研究を行なっている会員はいらっしゃらない。内燃機関も、電動モーターも、車両運動も、自動運転も、そのエキスパートである会員はいらっしゃらない。自動車の内燃機関は化学反応とその利用であり、分類するなら化学と機械工学になるが、自動車の専門家はいらっしゃらない。車両運動も機械工学だが、この分野の専門家もいらっしゃらない。




日本学術会議会員の専門分野と、各分野の会員名は表にまとめた。ホームページに掲載されている編集不可のPDFファイルから手作業で集計した。同時に連携会員は分野ごとの人数だけまとめた。これも編集不可のPDFファイルからの手作業での書き出しのため、±1人の誤差はお許しいただきたい。最終的に人数が1901人になった(なんとこの人数は明記されていない!)ので、ほぼ正確だと思う。




この名簿振り分け作業と気になった会員・連携会員各位のプロフィールを調べる(当然、ホームページには記載がない)だけで14時間を要した。時間はかかったが、やってみると「ほぉ〜」という結果だった。ちなみに名簿内には1名だけ分野記載がなかったので、その方は「分野不明」の欄に入れた。

どの分野が重要で、どの分野が不要ということは言えない。すべての分野が重要である。たとえば「政治学」「史学」「地域研究」は、世界のある特定の地域との政治問題、通商問題、文化交流を考えるとき、セットで役に立つ。「哲学」「史学」「言語・文学」もセットで活用できる。政府に対して必要な提言を行なえるエキスパート集団は、国益の面からも必須である。




自然科学分野では、「農学」「食料科学」「基礎生物学」「統合生物学」のセット利用が重要な国益を担う。食糧危機に瀕している地域、つねに食料不足の問題を抱えている地域に対し、ただ「分け与える」のではない、将来につながる支援を行なうときに必要だ。中国の資金力に対抗し日本の国際的プレゼンスを高める効果もある。




筆者は「地球惑星科学」と「環境学」の連携にも注目している。欧州が主張する「CO2悪玉論」を科学的に検証できるのは、いまやニュートラルな立場にいる日本だけだ。福井県の水月湖湖底から採取された7万年分の堆積物である「年縞」の知見をほかの分野と共有できれば、地球という天体がそもそも抱える気候変動メカニズム解明の一助となるはずだ。

こうしたもろもろの研究促進を日本学術会議会員諸氏にはお願いしたいのだが、そもそもが政府からの諮問に対する答申および提言が同会議の趣旨だから、自由に身動きが取れないのかもしれない。だとしたら機構改革を行なえばよいのではないかと外野の筆者は考える。




日本学術会議会員の各分野について、表に平均年齢を記した。単なる興味本位だ。これも筆者の手計算である。筆者は今年9月で62歳になった。まだまだ知力は充実すると思っているから、70歳定年という現在の日本学術会議の「縛り」にも特例が必要だと思う。半面、若い会員が少ない点はそれ以上に問題だ。




45歳以下の「若手の意見も聞く」という意味で、日本学術会議は2011年に「若手アカデミー」を設立した。しかし「そうじゃないだろ」と筆者は思う。若手を会員に抜擢する道を拓くべきだ。30歳代の天才が中国でもアメリカでも頭角を現している。




さらに言えば、日本学術会議は日本全国に多数ある分野ごとの「学会」との連携を図るため2005年に「日本学術会議協力学術団体」という制度を作った。自動車に関係の深い日本機械学会も協力学術団体のひとつだが、筆者はなんとなくここに支配構造の強化という意図を感じてしまう。「頂点に立つのは我われだ」と。

話を戻す。日本学術会議会員の医学の専門家の皆さんが、今般のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)流行に当たって何か政府に対し勧告したかというと、何も行なっていない。政府が諮問(意見を伺うこと)していないから、それに対する答申(訊かれた要件について意見を述べること)はできないというのはそのとおりだが、日本学術会議には政府への「勧告」という権限がある。この権限を行使すれば政府に何らかの意見具申を行なうことができる。しかし、それはやっていない。




調べてみれば、政府は日本学術会議に対し2006年度以降は諮問を行なっていない。日本学術会議が政府に対し勧告を行なったのは2010年が最後だった。東日本大震災や台風被害に対しても、何も意見を述べていない。国民がなんとかしてほしいと考える問題には、ほぼノータッチである。




日本学術会議法のなかに、この会議が政府に勧告することができる内容が書かれている。それは

一 科学の振興及および技術の発達に関する方策


二 科学に関する研究成果の活用に関する方策


三 科学研究者の養成に関する方策


四 科学を行政に反映させる方策


五 科学を産業および国民生活に浸透させる方策


六 その他日本学術会議の目的の遂行に適当な事項

……である。いっぽう日本政府は以下の事項について日本学術会議に諮問することができる。

一 科学に関する研究、試験等の助成、その他科学の振興を図るために政府の支出する交付金、補助金等の予算およびその配分


二 政府所管の研究所、試験所および委託研究費等に関する予算編成の方針


三 とくに専門科学者の検討を要する重要施策


四 その他日本学術会議に諮問することを適当と認める事項

日本学術会議ホームページ

以上はすべて法律に明記されている。しかし、この10年以上、日本学術会議は政府機関であることを忘れたかのように、何もしていない。政府も諮問していない。この無風状態は何が原因なのだろうか。




今般の菅総理による任命拒否問題に対し、日本学術会議は菅総理に要望書を提出した。これもホームページに掲載されているので取り上げる。ふたたび無礼な物言いになるが、もし、この書面を提出したのなら、筆者が新聞社時代に労働組合副委員長をしていたときに会社経営陣に提出した要望書より品がない。筆者はそう思う。大人が、しかも日本の学術界を代表する政府機関が一国の総理大臣宛てに提出する書面ではない。



今回の問題については「任命拒否は法律違反」「法解釈を変えたのか」という問題と、菅総理が理由も述べずに任命拒否したことが問題視されているが、人事についてはいちいち説明などしないのが官公庁でも民間企業でも当たり前だ。筆者が知る方は、日本学術会議連携会員に所属学会から推薦されたが、日本学術会議に却下された。「却下の理由なんて言ってこなかった」と、その方はおっしゃる。これと同じことだ。

日本は欧米に比べて産学官連携プロジェクトが極めて少ない。自動車に限って言えば、かつて自動車排ガス公害が社会問題になったときに排ガスの健康被害研究に政府予算が投じられた程度であり、2014年度から5カ年で実施された前述のSIP「革新的燃焼技術」プロジェクトは、排ガス公害問題以来ひさびさの国費投入だった。同様の予算の自動車関連プロジェクトは、欧米にも中国にも数多く存在する。




政府と日本学術会議の内紛は、野党とメディアにとっては存在意義を示すチャンスかもしれないが、自動車ユーザーにとっては無関係だ。両者の思惑はいろいろな方面から耳にするが、そんなことよりも日本学術会議と政府は前向きな議論へと方向転換していただきたいと願う。

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.