「渦流」を発生させ燃料液滴を撹拌、火炎伝播を促進させるのがディーゼルエンジンにおける燃焼の基本である。それらのガス流動を実現するための構造とはどのようなものか。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)
通常のガソリンエンジンは、吸気ポート内部にインジェクターの噴射ノズルを配し、シリンダー内に流入しようとする空気に燃料液滴を混ぜ込む、「予混合」方式を採用している。また、シリンダー内で圧縮された混合気は、点火プラグの電気火花によって着火され、燃焼行程へ移行する。出力の調整は、送り込む混合気全体の量をスロットルバルブなどで増減させて行う。
対してDEは、まずシリンダー内に空気だけを吸入し、圧縮行程でピストンが上死点に向かう途中で、燃料だけを直接シリンダー内部へ噴射、圧縮による温度上昇を利用して自己着火させ、燃焼行程に移行する。吸入空気量は一定で、出力調整は噴射する燃料の量で行う。
DEの燃費が良い理由は、部分負荷時で空気過剰率がガソリンの3~5倍という希薄燃焼ゆえ、燃焼ガスの比熱比が高いことと冷却損失が抑えられること、自己着火のために圧縮比を高めており膨張比が高いこと、スロットルバルブがないことによるポンプロス低減、そしてノッキングがないことによる過給ダウンサイジングの効能である。
燃焼室はピストン側にあり、ここに燃料を吹き込む。すると燃焼室中央部の突起によって、燃料液滴はスワール流に乗りながら空気と撹拌され、着火後の火炎が伝播する。
燃焼室内部の様子を、今度はインジェクター側から見る。左はノズルから噴霧された燃料液滴が着火しているところ。円環状の燃焼室内部で、噴射ノズルが位置する中央部から周辺部に向かって扇状に燃え広がっていることがわかる。こちらのノズルは5噴孔であるようだ。右はスワール流によって火炎が全体に伝播してゆくところ。中央部は噴霧が来ないので燃焼温度が低く留まっていることがわかる。