マニュアル・トランスミッション(MT)を選べるクルマはどんどん減っているが、出来のいいMTを操ってドライブするのは、ドライブの喜びのひとつだ。MTでのドライブが楽しめるクルマの代表格、マツダ・ロードスターのトランスミッションを見ていこう。
国産現行モデルで、MTが選べる主なモデルは
トヨタ:86/GRヤリス(未発売)/コペンGRスポーツ/カローラスポーツ/ヤリス
日産:フェアレディZ
ホンダ:S660/シビックハッチバック/シビックタイプR(未発売)
スバル:BRZ
スズキ:アルト/アルトワークス/ジムニー/ジムニーシエラ/スイフト/スイフトスポーツ
ダイハツ:コペン
マツダ:MAZDA2/MAZDA3/MAZDA6/CX-3/CX-30/CX-5/ロードスター/ロードスターRF
である。これを多いと見るか少ないと見るかは判断がわかれるところだが、変速操作そのものが楽しいモデルの筆頭がマツダ・ロードスター/ロードスターRFであることに異論がある人は少ないだろう。
マツダは、ほぼすべてのモデルでMTを選択できるようにしている。横置き6速MTも縦置き6速MT(ロードスター専用)も自社開発・自製のトランスミッションである。
ロードスターの販売台数におけるMT比率は、直近1年間で見ると
ロードスター:8割
ロードスターRF:5割
となっている。ロードスター全体では約7割がMTである。
優れたシフトフィールの基本は「ドライバーが楽しく素直にシフト操作できるか」「確実に選んだギヤに入る正確さ」。これに加えて、「しっとり感=チーズをナイフで切るような感覚」「メリハリ感=ドライバーがシフトレバーを押すのではなく、吸い込まれるような感覚」「剛性感=ポジションが明確でグニャグニャしない」「重さのバランス=どの位置からのアップシフト、ダウンシフトでも重さが変わらない」といった官能評価が入ってくる。これを実現するパラメーターが「シフトノブの位置」「シフトレバーの感触」「シフト荷重」「ストッパー剛性」「セレクト荷重」「シフトストローク」「斜めシフト性」「シフトノイズ」などをチューニングして、ベストなシフトフィールを作り上げるわけだ。
そもそも縦置きMTの技術要件は長い歴史のなかでほぼ固定化されている。2軸常時噛合でシンクロナイザー付き、シフト&セレクトを使うHパターンで、あとはエンジンのトルク、搭載するクルマの仕様・パッケージングで、あるカタチに収斂する。
マツダ開発陣がSKYACTIV-DRIVE MTを開発するにあたっては
・6速の直結化
・インプットリダクション比の低速化
・シンクロナイザーの全段メインシャフト配置
・低温時低粘度トランスミッションオイルの採用
を行なった。
ここで注目したいのが、6速の直結化だ。
NC型までは5速が直結(1.000)、SKYACTIV-MTは6速が直結。その理由は、ユーザーの調査によると「全走行距離の80%は6速で走っている」ことがわかったからだそうだ。
6速を直結にしたことで燃費の向上が図れるが、それ以上のメリットはトランスミッションケース内での5速と6速の位置の入れ替えることでシフトチェンジリンクを減らすことができたことだ。
また、6速を直結にしたことで1〜6速のステップ比を細かくしかも均一にすることができた。これもドライブしていてシフト操作が楽しくなる要因だろう。
混んだ市街地をドライブしていても、6速は「普通に使えるギヤ」で、速度とエンジン回転数に応じて、必ず最適なギヤを選ぶことができる。
そもそも、縦置きのマニュアル・トランスミッションを独自開発・自製している自動車メーカーは、いまや少数派だ。欧州には、ゲトラグ(マグナ)を使うメーカーも多い。国産勢では、86/BRZがアイシン製(旧アイシン・エーアイ)を、フェアレディZは愛知機械製を使う。
そう考えると、(現在のところ)縦置きFRモデルは、ロードスターのみのマツダが、SKYACTIV-DRIVE MTを新規開発したことは、異例と言っていい。
自社で開発・自製できるということは、ペダル配置、クラッチペダルやアクセルペダルの重さ、踏み応え、シートポジション、シフトレバーの位置、高さ、シフトノブの形状と重さなどすべてを最適にチューニングできるわけだ。
ロードスターのマニュアル・トランスミッションのフィールがいいのは、そういう背景があるからだ。