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アバルト595C Turismo「サソリのエンブレムこそつけているが、うなり声(排気サウンド)はまるで猛獣のそれだ」


アバルト595のラインアップのなかでTurismo(ツーリズモ)は、パワー&トルクを向上させながらも、ロングツーリングの快適性を重視したモデルである。「C」は電動スライディングルーフモデルのことだ。アバルトの魅力を味わうには最高の舞台、箱根で試した。


TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

アバルト595の「595」の名前の由来をご存じだろうか

左はFIAT Abarth 1000TC Radiale Berlina Corsa コンパクトな595と比較しても小さい!

FIAT Abarth 1000TC Radiale Berlina Corsa 全長×全幅×全高:3530mm×1420mm×1200mm ホイールベース:2000rpm エンジン:982cc直列4気筒OHV(113ps)最高速度215km/h

 アバルトのエンブレムはサソリである。サソリの一刺しは象をも倒すといわれる。小さいけど、強い。なめてかかると痛い目に遭うよ。こちとらジャイアントキラーなんだからね。というイメージをクルマに重ねてのサソリのエンブレムかと思いきや、アバルトの創業者であるカルロ・アバルトがサソリ座の生まれだったことに由来することを知った。教えてくれたのは、アバルトの販売元であるFCAジャパンが制作した「ABARTH BRAND BOOK」だ。




 1949年に設立された「アバルト」がモータースポーツやチューニングと強い結びつきがあることは知っていたが、カルロ・アバルト(Carlo Abarth)が実はオーストリア・ウイーンの生まれで、もともとはカール(Karl)と名乗っていたこと。イタリアに帰化した際にカルロに改名したことは、ブランドブックで知った。この程度の知識で、筆者はアバルト595と初めて対面した。そしてこの程度だから、「なぜ595?」と臆面もなく質問してしまうのである。

ここにも
そこにも
あそこにも
サソリのマークが

「正解はウェブで」と書いてごまかそうと思ったが、ブランドブックに答えが書いてあるので参考にしつつまとめると、1950年代にフィアット500をベースにチューンアップしたアバルト595に由来する。排気量を595ccに拡大してパワーアップしたのだ。そうして、大きくハイパワーなマシンと互角に戦い、ジャイアントキラーぶりを発揮したのである。現在の「595」はエンジンの排気量を示しておらず、高性能であることを示す象徴として機能している。




 アバルト595には3つのバリエーションがある。3660×1625×1505mmのスリーサイズと1.4ℓ直4ターボエンジンを搭載していることに変わりはないし、ジャイアントキラーらしい強面のムードは通底しているが、エンジンのスペックや装備は異なり、それぞれに個性がある。




 もっともベーシックなのは「595」だ。エントリーモデルの位置づけだが、そこは595である。アグレッシブな造形のフロントバンパーと、左右2本出しのテールパイプを収めつつディフューザー風に処理されたリヤバンパーが、ただ者ではないムードを強烈に振りまいている。595には5速MTとATモード付き5速シーケンシャルトランスミッションの設定がある。

電動スライドルーフが「C」

 最初に乗りだしたのは、アバルト595Cツーリスモだった。ツーリスモ系には「C」がつかない595ツーリスモもあり、違いはルーフの仕様である。Cがつかない595ツーリスモはクローズドルーフ。Cがつくほうは電動スライディングルーフを備える。トランスミッションはどちらもATモード付き5速シーケンシャルのみだ。一般的な技術用語に置き換えれば5速AMTで、5速MTをベースにクラッチの断接とシフト操作を自動化したユニットである。クラッチ操作とシフト操作はシステムが代わりに行なってくれるので、ドライバーはアクセルとブレーキの操作に集中することができる。AT限定免許でオーケーだ。

トランスミッションは5速オートメーテッド・マニュアルトランスミッション。5AMT 1速:3.545 2速:2.238 3速:1.520 4速:1.156 5速:0.872 後退:3.909 最終減速比:3.353

 ではコンフォート系の位置づけかというとそうとも言い切れず、エンジンのパワー&トルクはエントリーモデルの595に対して引き上げられている。595の最高出力は107kw(145ps)/5500rpm、最大トルクは180Nm/2000rpmなのに対し、595ツーリスモ&595Cツーリスモの最高出力は121kW(165ps)/5500rpm、最大トルクは210Nm/2000rpmである。14kW(20ps)/30Nmのアップだ。

形式:直列4気筒DOHCターボ 型式:312B3 排気量:1368cc ボア×ストローク:72.0mm×84.0mm 圧縮比:9.0 最高出力:165ps(121kW)/5500pm 最大トルク:210Nm/2000rpm 燃料供給:PFI 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:35ℓ

大きなターボチャージャーが見える。

 アグレッシブなフロントバンパーの造形も、ディフューザー風に処理された大胆なリヤバンパーの造形も595と共通だ。エンジンのパフォーマンスを引き上げたうえでイージードライブ性を付与したのがツーリスモである。ネーミングが示すとおり、ロングドライブを意識したバリエーションだ。

アバルトらしい勇ましいサウンドを響かせる。

 キーをひねって衝撃を受けた。別に感電したわけではない。ヴォォォンと勇ましい排気音が後ろから耳に飛び込んできたからだ。まったく想像だにしなかったボリュームである。排気サウンド好き(つまり筆者)なら、この音を聞いただけでイチコロだ。サソリのエンブレムこそつけているが、うなり声(排気サウンド)はまるで猛獣のそれである。走り出す前から臨戦態勢であることが伝わってくる。




 アクセル、ブレーキ、クラッチの3ペダルの場合はほぼ同じ大きさのペダルが3つ並んでいるが、2ペダルの場合はブレーキペダルを大きくするのが一般的だ。595ツーリスモもその例に漏れないが、大きなブレーキペダルの中央にサソリがいる。「これ、踏んでもいいの? 刺されない?」と、一瞬ひるんだのは事実だ(もちろん、問題ない)。

ブレーキペダルにも「サソリ」が。

左上にあってこちらを向いているのが、過給圧計だ。

 ホワイトのボディカラーを選ぶと、レザーシートのカラーはレッドになる。サイズはたっぷりしており、サポートはそれほど強くなく、快適だ。まさにツーリング向きである。シフトセレクターは初見だと一瞬戸惑うが、「1」は1速固定ではなく、いわゆる「ドライブ」である。走り出すと、状況に応じて2速、3速とシフトアップしていく。メータークラスターの左にあってドライバーに向いているのは非接触式体温計ではなく、ブースト(過給圧)計だ。1.4barから上がレッドゾーンになっている。

1.4barから上がレッドゾーンになっている

リヤシートは広いとはいえない。乗車定員は5名ではなく「4名」である。
対するフロントシートはたっぷりとしてる。

 AMTの弱点はアップシフト時に引き込み感が出ることだが、595ツーリスモの場合はそのクセが弱めで、快適なドライブを邪魔するほどではない。ドライブを能動的に楽しみたいときは、マニュアルモードがおすすめだ。セレクターの「A/M」ボタンを押すと、トランスミッションはオートからマニュアルモードに切り替わる。ステアリング裏にあるパドルを操作して任意に変速すると、エンジンとの一体感が高まって気分がいい。




 電動式スライディングルーフの開閉は簡単だ。ルーフにあるボタンを押すだけでいい。風の巻き込みは少なく、開放感のみが存分に味わえる。排気サウンド好きにとってたまらないのは、テールパイプが発する勇ましい音がよく聞こえるようになることだ。刺激的な重低音をBGMに、空と風を感じながらのドライブは相当に贅沢で、そんな贅沢な気分が気軽に味わえるのが、アバルト595Cツーリスモの魅力である。

電動スライディングルーフの開閉ボタンはここ。

リヤサスペンションは、このクラスのスタンダードであるトーションビーム式。
フロントはマクファーソンストラット式。
タイヤサイズは前後とも205/40R17。
ピレリ PZERO NEROを履く。

トレッド:F1410mm/R1400mm

アバルト595C TURISMO


全長×全幅×全高:3660mm×1625mm×1505mm


ホイールベース:2300mm


車重:1160kg


サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式


駆動方式:FF


エンジン


形式:直列4気筒DOHCターボ


型式:312B3


排気量:1368cc


ボア×ストローク:72.0mm×84.0mm


圧縮比:9.0


最高出力:165ps(121kW)/5500pm


最大トルク:210Nm/2000rpm


燃料供給:PFI


燃料:無鉛プレミアム


燃料タンク:35ℓ


燃費:JC08モード 12.9km/ℓ


トランスミッション:5速AMT


車両本体価格:396万円

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