かつて、いすゞの自動車設計者だった安藤眞さん。自身が開発に携わった車両には、やはり思い入れも強いようだ。
TEXT●安藤眞(ANDO Makoto)
第3位:三菱ミニカ(最終型のバン・5MT)
自家用車を整備に出したときに、貸してもらった代車がこのクルマ。何の期待もせずに走り出したら、痛快そのものだった。
アクセルを全開にしてもたいしたスピードは出ないので、郊外なら公道でも吹けきるところまで使えるし、パワーバンドに載せればけっこう気持ちよく加速する。非力さをカバーするために、MTを頻繁にシフトチェンジするのも楽しい。高回転を維持しても反社会的でない速度で走れるから、普段使いでヒール&トウはが不自然なくできる。タイヤのグリップも大したことないので、ワインディングでタックイン気味にノーズを巻き込ませ、アクセルオンでアンダーステアをコントロールしながら立ち上がるなんていう運転も、法定速度の範囲内でできてしまう。クルマが軽いから向き替えは軽快だし、車重やパワーに対してリヤのスタビリティも高いから、「崖の上のポニョ」の走りが安全に楽しめる。
改めて「軽くてシンプルっていいなぁ!」と思わせてくれたクルマです。
第2位:レクサスRC 350(2014年-)
僕のライフスタイルにクーペはあまり似合わないけれど、試乗した最初に「気負いなくずっと乗れそうだなぁ」と思ったのがこのクルマ。
スポーツセダンでも良いのだけれど、実用性を考えると、後から「ワゴンのほうが良かったかなぁ」とか思ってしまいそう。ならば潔く2ドアクーペにしてしたほうが、他に目移りすることもなさそうだ。2ドアクーペなら他にもあるけれど、フェアレディZやスープラは熱血過ぎるし、86やBRZが似合うほど若くはない。その点、あまり存在感のない(ゴメン!)RCならば、人目を気にしたり、他車から挑まれたりすることもなく、ぼんやりと移動を楽しめそうだ。
実はこの「ぼんやり」できるのが重要なポイント。少しでも運転に違和感があったり雑味があったりすると、そこばかり気になってしまうし、操舵応答や加減速応答が過敏でも、それに応えようと運転そのものに向き合ってしまう。RC350は本気で走れば速いクルマだが、穏やかな操作をしている限りは穏やかそのもの。簡潔に言えば「何のストレスも感じない」ということで、実はこれ、けっこう凄いことなのだ。
第1位:いすゞビッグホーン ロングベーシック(UBS55型)
2.2L副室式ディーゼルターボ(C223型)から、2.8L直噴ターボ(4JB1型)に換装された最初のモデル。
当初はNOx規制の関係で4ナンバーしかなかったが、EGRで去勢されていないおかげで、むしろパンチがあって良かった(ターボラグが大きくて発進トルクは情けないほど低かったとも言える)。設計に関与したクルマでもあり、実際に所有もしていた(職権濫用してロータス仕様のダンパーに交換)。
全幅は1650mmしかないスリムなクルマだったけれど、4人分のファルトボート(折りたたみ式カヌー)とキャンプ道具を積んで大人4人で出かけることもできたし、後席を畳めばロードバイクが立てたまま積めた。
17万km乗った後、NOx法に引っかかって泣く泣く手放した(ボディも錆びて穴が開き始めていた)。ハンドリングにクセはあったが(今から思えば間抜けなジオメトリー設定だった)、それを把握してうまく走らせるのもまた楽しかった。欠点も多いクルマだったけれど、実用性はピカイチだったなぁ。
【近況報告「最近、ハマっているもの」】
すだちの炭酸水割りと、香川名物「骨付き鶏」。前者はコップに氷を入れ、すだちを1個絞って炭酸水で割るだけ。アルコール入っていなくても満足できるし、罪悪感なく昼間から飲めます。後者は鶏もも肉を醤油だれとスパイスで数日漬けておき、皮がパリッとなるように焼いたもの。老舗「一鶴」さんのものを参考に自作したらけっこう美味しくできたので、定期的に作っています。
【プロフィール】
国産自動車会社のシャシー設計部門に約5年間勤務の後、退職。建具屋の修行や地域新聞記者を経て、自動車ジャーナリストとなる。メーカー在職中はSUVの担当だったことから、車歴は最初の2台を除いてSUVかMPV。UBS55型ビッグホーン(いすゞ)のパッケージングとサイズを現代の技術で蘇らせたら、絶対買おうと思っている。
『私の人生最高国産車・ベスト3』は毎日更新です!
これまで所有したり、試乗したりと運転してきたクルマの中で、最も心に残った3台は? そんなお題を、自動車評論家・業界関係者の方々に毎日選んでいただきます。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)