CX-30には、マツダが世界に誇る革新的な新世代エンジンであるSKYACTIV-Xがある。ところが、X搭載車の販売台数は現状では国内ではわずか5%だという。それはなぜか? これからどういう戦略を考えているのか? 開発主査の佐賀尚人さんに訊いた。インタビュー後編である。

Interviewer◎鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi)

前編はこちら

SKYACTIV-Xが国内でやや苦戦している理由をどう分析するか?

佐賀尚人(さが・なおひと)1967年茨城県出身。1992年マツダ入社。車両実研部でトリビュート、初代MAZDA3(アクセラ)の開発に携わったあと、プログラム開発推進本部でCX-7の開発スタッフとなる。その後、2009年に北米のMNAO(Mazda North American Operations)へ出向。2013年から車両実研部 商品性実研Gr.マネージャー。2017年から商品本部でCX-30の開発主査を務める。趣味はゴルフ、スキューバダイビング。現在の愛車はCX-30(G2.0)



M F:さきほど日本でSKYACTIV-Xがやや苦戦ということでしたが、欧州はX、結構いいんですよね?



佐賀:SKYACTIV-X、多いですね。国内と欧州市場のいわゆるニーズというかレギュレーションがかなり違うので、一概に比較してどうこうは言えませんが、やはり欧州はCO2のペナルティが非常に厳しくて国によってはCO2をお客様が燃費として換算してそれを払わなくてはいけない国もあります。たとえば、オランダは、ほぼ100%SKYACTIV-Xです。そういう市場もあります。それらも踏まえるとまぁ実際、欧州では40-50%くらいがSKYACTIV-Xです。



M F:日本はどうですか?



佐賀:日本は、いま実質5%くらいがSKYACTIV-Xです。



M F:MAZDA3と比べると?



佐賀:MAZDA3と同じくらいです。欧州では、SKYACTIV-Xは燃費規制の違いも含めて評価が高い。国内は、どちらかというと……これはこれから僕らも頑張らなくてはいけないかなと思っているのが、SKYACTIV-X自体の価値の訴求が少し技術寄りだったもので、技術の話をしたときに一般のお客様がどれだけそれを受け止めていただけたかな、というも反省材料があります。ただ、買っていただいたお客様の評価は高いです。非常に扱いやすいというところも評価していただいています。今後そのあたりをどうやってお伝えしていくか、もしくは次世代エンジンとしてSKYACTIV-Xをどういうふうに育成していくか、そのあたりが勝負になると思います。



国内のCX-30でSKYACTIV-X搭載車は全体の5%。MAZDA3でも6%程度にとどまっている。

欧州(ドイツ)では40%がSKYACTIV-Xだ。ちなみに北米はいまのところ2.5ℓ(SKYACTIV-G2.5)のみとなっている。



M F:欧州だと、燃費規制が厳しくてCO2規制でペナルティを払うくらいなら、もしかしたら車両価格を下げたほうがお客様のためになるんじゃないかみたいな戦略も、たぶんあるかと思うんですが、正直、日本だとSKYACTIV-X、価格が高いじゃないですか?



佐賀:(苦笑)そうですね。2.0ℓのSKYACTIV-Gと比べるとそうですね。



M F:SKYACTIV-Xは、運転するとすごくエンジンが精密に回っていく感じとか加速感とか気持ちがいいんです。でも、「じゃあ燃費はどうなの?」となると、お客さんにとっては、トヨタのハイブリッドのようなわかりやすさはない。トヨタの新型ハリアーの場合、THSⅡがコンベのエンジンとより60万円高です。この60万円がハイブリッド代ね、と明瞭会計みたいになっています。60万円プラスして払うと燃費がこのくらいよくなる、と。60万円は燃料代の差額では取り返せないけど、ハイブリッドを買っている満足感があって、たぶん選ばれているんだと思います。SKYACTIV-Xだと、僕らみたいなちょっと偏屈な人たちはすごく喜ぶかもしれませんが、あ、偏屈じゃないな、クルマ好きです(笑)。だけど普通の人には、ちょっとわかりづらい。気持ちよさとか感触みたいなものを、「じゃあこれ、いくらなの?」という金額に換算しにくい。そこが、SKYACTIV-Xが苦戦している理由だと思います。僕らとしては次世代エンジンなので、すごく応援したいですし、どんどん増えていってコストが下がってくというのが一番理想的だと思うんですが……。



佐賀:比較対象になる、いわゆる記号性的なわかりやすい価値とか、あとは『これを買った!』というジャンルがないので、それをうまく我々が準備をできなかったというか、お客様の後押しをうまく意味づけすることが難しかったことは大いに反省しないといけないと思います。いっぽうで、今回のXの導入で日本のお客様の欲するものに対する理解は深まりました。そういう意味では、ジャーナリストの方のご意見、お客様の声のフィードバックもかなりあるので、それを踏まえて今後どういう意味づけをしていくかは、先ほどの進化の方向性と結びつくといいんじゃないかなと思ってます。





M F:いわゆる『エンジンヒエラルキー』というもとがあるとすると、MAZDA3、CX-30では下からSKYACTIV-G1.5(CX-30は搭載なし)>G2.0>SKYACTIV-D1.8>SKYACTIV-Xという序列になります。でも、X(最高出力180ps/最大トルク224Nm)は、D1.8(116ps/270Nm)にパワーこそ上回るものの、トルクも燃費も適わない。でも、価格はXの方が高い。G2.0とD1.8の間にXが位置すれば、もっとわかりやすかったと思うんです。



佐賀:おっしゃることは、わかります。



M F:さらに言わせていただいてもいいですか?



佐賀:(笑)どうぞ。





M F:完全に新規開発で、本当に革新的なSPCCIエンジンであるSKYACTIV-Xが高価なのはわかります。24VのM HYBRIDもスーパーチャージャーもついている。だとしたら、ラインアップの頂点にSKYACTIV-D2.2を置いて、SKYACTIV-G2.0>SKYACTIV-D1.8>SKYACTIV-X>D2.2という序列にするっていうアイデアはどうですか? D2.2はターボ2基で450Nm。わかりやすく「スゴイ」ですから。「GTD」みたいな位置づけで。



佐賀:(笑)アイデア、承っておきます。D2.2については、CX-30にはちょっと過剰なんじゃないかと思っています。エンジンコンパートメントのスペースやパッケージングがなかなか搭載するのは難しいんです。CX-30のコンセプトを考えてのことです。



M F:よくわかります。わかったうえで勝手なことを申し上げているのですが……(笑)。D1.8搭載のCX-30は燃費も走りもすごくいい。でも、たとえば大人3名+荷物を積んだときに圧倒的な余裕があるわけじゃない。頂点にD2.2があれば、売れる数はあまり多くはないかもしれませんが、Xが「D2.2とD1.8の間」ってことになって、わかりやすくなると思ったんです。



SKYACTIV-X エンジン形式:2.0ℓ直列4気筒DOHCスーパーチャージャー+Mild Hybrid エンジン型式:HF-VPH型 排気量:1997cc ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm 圧縮比:15.0 最高出力:180ps(132kW)/6000rpm 最大トルク:224Nm/3000rpm 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) 使用燃料:プレミアム

SKYACTIV-Xのみに備わるエンジンカバー。エンジン全体をカプセル化するためのカバー。
カバーを開けるとこう見える。スーパーチャージャーをはじめ、エンジンコンパートメントはぎっしりだ。



M F:さて、SKYACTIV-Xです。圧縮着火燃焼を火花点火で制御するという革新的なSPCCI 燃焼を実現したエンジンを世に出した。革新的ゆえに不具合も出ているのではないかと推測しているのですが、いかがですか?



佐賀:いいえ。不具合はほとんど出ていません。SKYACTIV-Xには、これまでのエンジンより多くのセンサーを付けていて、そこからのデータがかなり集まっていますコネクテッド技術で繋がっていますから、膨大なデータを収集できています。それを分析していますが、不具合はほとんどないですね。



M F:逆に言えば、まだかなり安全マージンをとっているってことでしょうか。SKYACTIV-Xのポテンシャルはまだまだあると思うのですが、今後はどうしていくお考えですか?



佐賀:方向性はふたつあると思っています。ひとつは、新世代エンジンとしてこれをマツダのスタンダードエンジンにしていくという考え方です。もうひとつは、もっとパワーとトルク、気持ちよさを追求したハイパフォーマンスな方向です。Xにはエアサプライとしてスーパーチャージャーが付いています。いまは送風機として使っていますが、スーパーチャージャーですから過給もできるわけです。



M F:レスポンスが自然吸気エンジンみたいで過給エンジンのトルク感があるSKYACTIV-Xなら、わかりやすいですね。今日は、SKYACTIV-Xがわかりづらい! という話ばかりしてしまいました……。



佐賀:たとえば、SKYACTIV-Xの『気持ちよさ』は、ある程度運転の技術をお持ちでクルマをコントロールできる方はわかりやすいんだけど、結局そのいわゆる解釈する分解能っていうとちょっと話が難しくなっちゃいますが、そういうところが正直解釈しにくいのであれば、それを解釈しやすいようにしてあげる。たとえば、それはサウンドかもしれないし、メーターの針の上がり方、そういった演出のところもある。もしかしたらトルクとかパワーの出し方とかね。そういったところにもあるのかもしれないです。そのあたりは当然いまもいろいろと考えています。今後うまく開発を進めて、かつ、どうにか、いま乗っていただいているお客さまにもなにか還元できないかなって考えています。



M F:いまSKYACTIV-Xに乗っているかたにも、ですか。それ、興味ありますね。



佐賀:あぁ! これ以上は言えません! ついついしゃべりすぎてしまいそうになる(笑)。SKYACTIV-Xは新技術なので、じつはデビューしたあともいろんな技術的な知見がたまっています。毎月いろんな技術報告を受けているなかで、マイナーチェンジとかこのあとどうするかを議論をしているので、ぜひ楽しみにしていてください。



M F:ありがとうございました。





インタビューを終えて

MAZDA3、CX-30から始まった新世代商品群は、SKYACTIV-Xエンジンだけでなく、さまざまな領域で、大きな進化が見られる。乗り心地、ハンドリング、燃費性能、NVH、オーディオの音質などそれは本当に多岐にわたっている。技術の進化を商品に展開していくスピードはマツダならではと言っていい。ただし、それがやや「技術オリエンテッド」に傾きすぎている(個人的には大歓迎なのだが)きらいもある。佐賀さんのお話を伺って、マツダ自身もそれに気づいていることがわかった。商品の魅力を、的確にわかりやすく伝えることは、技術開発とおなじくらい重要だ。佐賀さんがCX-30を今後どう育てていくのか、楽しみになった。



情報提供元:MotorFan
記事名:「 『SKYACTIV-Xはどう進化させる?』マツダCX-30開発主査に訊く「CX-30のX比率は現在国内では約5%、欧州では40-50%です」(後編)