モーターファン.jpに初登場となったモータージャーナリストの岡崎五朗さん。今回選んでくれた3台のエンジンは、パワーだけでなく、レスポンスやトルク特性、サウンドなど多彩な魅力を併せ持ったものばかり。そうした「ニュアンス」こそが、優れたエンジンには欠かせないのだ。
TEXT●岡崎五朗(OKAZAKI Goro)
ますます厳しくなる燃費規制と騒音規制の影響でエンジンは牙を抜かれる一方だ。ただしここで言う「牙」とはスペックのことじゃない。上を見ればオーバー500psの怪物級エンジンは珍しくない。とりわけハイパフォーマンスカーの世界では依然として過給を使ったパワー競争が繰り広げられている。
けれど、クルマ好きはパワーだけを求めているわけじゃない。始動直後の身震い、右足の動きに即応するレスポンス、レブリミットに向け上り詰めていくドラマティックなトルク特性、痛快なサウンド、有機的な鼓動、クルージングしているときの囁くようなハミング音...といったニュアンスを味わいたいのだ。
そう、エンジンの魅力とは多岐にわたり、かつ深い。いくら時代の流れとはいえ、それが失われていくのは惜しい。逆に言えば、いま味わっておかなければ二度と味わえなくなるかもしれない。いや、そうなる確率はかなり高い。
実際、編集部のリクエストを受け思いを巡らせてみたが、いま新車で購入できる珠玉のエンジンは意外に少ない。ただひたすらエンジンを味わうためだけに買ってもいいなと思わせるクルマ(エンジン)はすでに絶滅危惧種と言っていいだろう。
1台目:ポルシェ・718ケイマン/ボクスターGTS 4.0
そんななか、真っ先に挙げたいのが自然吸気4Lフラット6を積むポルシェ・718ケイマン/718ボクスター「GTS 4.0」だ。911で自然吸気エンジンを選ぼうとすると2000万円オーバーのGT3系になってしまう。その点、約1000万円で自然吸気を積んだ現行モデルが手に入るGTS4.0は貴重な存在。組み合わせるのがMTというのも嬉しい部分だ。乗ってみればサウンド、レスポンスともに4気筒ターボとの違いに愕然とし、買うならこれしかないなと思うに違いない。
2台目:フェラーリGTC4ルッソ【エンジン:F140GA】
フェラーリもV8系はすべてターボ化されてしまった。488ピスタのV8などはターボとしては異例に鋭いレスポンスを誇るもののの、458時代までのあの甲高いサウンドがマイルドになってしまった。
その点、GTC4ルッソ(と812スーパーファスト)には伝統の自然吸気12気筒が残っている。6Lオーバーだけに低中速トルクはそれなりに太いが、それでも繊細さが感じられるのは自然吸気ならでは。回していったときの音色の変化や艶やかな回転フィール、そしてトップエンドに向かって上り詰めていくドラマ性にはいつ乗っても惚れ惚れさせられる。エンジンを「エンターテインメント性を生みだすための機械」と定義するなら、おそらくこの12気筒は人類の最終到達点だろう。
3台目:BMW M340i xDrive【エンジン:B58B30B】
現実的なところではBMW3シリーズが積むストレート6が僕のお気に入りだ。ターボ化されてなおBMW製ストレート6ならではのシルキーさは健在だし、サウンドや回転フィールにも硬質感とか艶やかさといった「ニュアンス」と呼べるフィーリングがちゃんと残っている。
3シリーズは4気筒ターボが主流になり、6気筒モデルは1000万円近いプライスタグを付けているが、BMWらしさを余すところなく味わいたいならM340i xDriveを選びたい。
【近況報告】
90年式メルセデスベンツ300E(W124)と14年式ポルシェ911(991前期)の2台持ちを楽しみつつも次期愛車候補は常に物色中。とはいえまだ電気じゃないな、とは思ってます。
【プロフィール】
1966年東京生まれ。モータージャーナリスト歴は今年で30年。海外出張がぱったりとなくなったにもかかわらず何かと忙しくさせてもらっていることには感謝しかない。このサイトは今回が初登場。よろしくお願いします。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)