スポーツカーのエンジンとしては、スペック的に特筆すべき点はない。しかし、渡辺陽一郎さんがスバルBRZとトヨタ86が搭載する2.0Lフラット4を推薦するのは、「ズボラな運転にも対応してくれる」から。フレキシブルなエンジン特性が、クルマとしての価値を高めているという。
TEXT●渡辺陽一郎(WATANABE Yoichiro)
1台目:スバルBRZ&トヨタ86(6速MT仕様)【エンジン:FA20】
スポーツカーのエンジンらしく、6000回転を超えた領域まで一気に吹き上がる。その一方で実用回転域の駆動力が高いことも特徴だ。「ここまで高回転型のエンジンだから、2400回転で5速に入れたら加速が鈍くなるだろう」と思って試すと、意外にも着実に加速する。
6速MT仕様の最大トルクは21.6kgm(6400〜6800回転)だから、発生回転数は、最高出力207馬力の7000回転に近い。この数値からは、低回転域で駆動力が下がるエンジンを連想するが、実際には粘り強い。
このようなエンジンは記憶に残る。スポーツカーのエンジンが鋭く吹き上がっても驚かないが、実用トルクは期待度が低い。試乗した時は「ズボラな運転にも対応してくれるんだ!」と感心した。
これは大切な機能だろう。BRZや86のユーザーでも、常に積極的な気分で運転するとは限らない。疲れている時もある。この時に低回転域の粘りは、ユーザーを優しく癒してくれる。
そしてこのエンジン特性は、クルマが持つ本質的な魅力にも繋がる。ドライバーの気分が高揚している時は、クルマはまさに「人馬一体」となって走り、気持ちが落ち込んでいる時は、自分だけが占有できる空間で安らぎを与えてくれる。エンジン特性にはフレキシブル(柔軟性)という言葉が使われ、BRZと86にも当てはまるが、それはクルマ全体にとっても大切な価値だ。
2台目:マツダ6(ディーゼル・6速MT)【エンジン:SH-VPTR|SKYACTIVE-D 2.2】
クリーンディーゼルターボでは、ランドクルーザープラドやグランエースの2.8Lも低回転域の駆動力が高い優れたエンジンだが、ここではマツダ6やCX-5の2.2Lを取り上げる。最大トルクは4.5Lのガソリンエンジンに匹敵する45.9kgmで、発生回転数は2000回転と低い。しかもCX-8を除くと6速MTも用意される。
1400回転以下では駆動力が下がるが、1500回転以上になると十分な駆動力を発生させる。この低回転域の余裕は、吹き上がりの良いスポーティなエンジンとは異質の快感をドライバーに与える。
具体的には、発進したらアクセルペダルを軽く踏み、最大トルクの発生する2000回転を少し超えたらシフトアップを行う。そうするとエンジン回転は1500回転前後まで下がり、再び上昇を開始する。このように1500〜2200回転付近を使いながら、6速MTのシフトアップを繰り返すと、余裕タップリのトルクを体感できるわけだ。
しかもこの楽しさは、日常的な市街地走行や渋滞時にも味わえる。高回転まで回すことを挑発する性格ではないから、ある意味安全で実用性も高い。軽油価格の安さもあり、燃料代がハリアーハイブリッドと同程度で済むことも魅力だ。
3台目:トヨタ・センチュリー【エンジン:2UR-FSE】
センチュリーが搭載するV型8気筒5Lのハイブリッドは、先代レクサスLS600hと同タイプだ。このエンジンにも独特の楽しさがある。
まずV8エンジンをベースにしたハイブリッドで、遮音を入念に行ったから、ノイズはきわめて小さい。加速も滑らかだ。
その一方でアクセルペダルを少し踏み増すと、遠くの方でブモモモモモ...、というV8エンジン独特のサウンドも聞こえる。モーター駆動とV8エンジンの魅力を掛け合わせたような性格に仕上げた。
そしてアクセルペダルを深く踏み込むと、高出力が一気に開放され、2.4トンのボディを猛然と加速させる。この「静と動」の二面性、走行状態に応じて見せる表情の違いも快感に繋がる。
【近況報告】
愚息が観ていた『かくしごと』というTVアニメにはまった。愉快だけどちょっと悲しいお話です。公式HPに載っている歩道橋は自宅の斜め前で(東京都目黒区)、身近な感じがするのも嬉しいです。
【プロフィール】
カーライフジャーナリスト。「読者の皆様にケガを負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)