なんと贅沢なことか。2010年代初頭のBMWはまさに「直6屋」だった。4機種を取り揃えていたそれぞれのエンジンの特徴は。
直列6気筒エンジンはBMWの存在意義となっている。直4/直6ファミリーを設計するうえでの軸となっているだけでなく、世の中の趨勢がV型に移行するなかで、インラインを守っているという意味においても。パッケージング面、衝突安全性面などでV型にアドバンテージがあることは理解しつつも、回転バランスの良さや、回転数を上昇させたときに感じさせるフィーリングの良さを「BMWらしさ」として守りたいのだろう。
2010年代初頭にはその直6がファミリーを形成していた。4機種をそろえ、自然吸気仕様とターボ仕様で大別することができる。先にデビューしたNA系のN52(2001年)とN53(2007年)は、アルミ合金とマグネシウム合金を用いた複合構造を採用する。6連のシリンダー部分はアルミ合金、それをマグネシウム合金が包む構造で、従来比24%の軽量化を果たしたとBMWは説明する。
一方、ターボを装備するN54、N55はオールアルミ合金のクランクケースを採用。過給によって増大したトルクを受け止めるための材料変更だ。N52系と2006年にデビューしたN54系のクランクケースのディメンジョンは共通。ベッドプレートとその上で2分割する構造も同じだ。アルミ合金製シリンダーヘッドを採用する点も共通。ただし、ポート噴射+バルブトロニックのN52に対し、(N53と)N54はバルブトロニック・レスの直噴なので、構造は異なる。
N54系の登場にともない、シリンダーヘッドカバーの材質は変更された。N54登場以前はマグネシウム合金製カバーを使用していたが、N54以降はプラスチック製に変更されている。直6がBMW製エンジンの軸である証拠に、バルブトロニックやリーンバーンといった、最新テクノロジーはまず直6に投入され、熟成されたのち、直4など、その他のシリーズに展開されるのがならわし。N54は1980年に745iに搭載されて以来となるBMW製ターボエンジン。続いて、直噴にバルブトロニック+ダブルVANOSを備えるN55が「全部載せ」として登場した。