まるでヴィンテージワインのように長い年月を重ねて熟成されてきた日産GT-RのVR38DETTエンジン。NISMOの2020年モデルでは新開発タービンを採用するなど、さらなる進化を遂げている。その結果、600psという大出力を右足で自在に扱えるほどの繊細さを身につけるに至った。
TEXT●橋本洋平(HASHIMOTO Yohei)
1台目:日産GT-R NISMO【エンジン:VR38DETT】
とてつもなく荒々しい加速を示すにも関わらず、それが右足の微細なコントロールで自在に扱えてしまう。GT-R NISMOが採用する、きっと最終形といっていいVR38DETTの世界だ。
タービンの形状をわずかに改め、専用チューニングされて登場したMY20のエンジンは、かつての荒々しいだけの世界とはまるで異なるスムーズさを手にしていたことに驚いた。GT-R NISMOでは狭苦しいだけだと想像していた袖ケ浦フォレストレースウェイを、レスポンス遅れなくリニアに吹け上がらせることでそうは感じさせなかった。NISMOバージョンともなればサーキットばかりがターゲットとなりそうだが、これなら一般道でも爽快さは味わえるはず。
441kW(600PS)、トルク652Nm(66.5kgf・m)の世界に扱いやすさがあり、その気になれば使い切れる調教された姿が魅力のエンジンだ。
2台目:トヨタ・スープラ RZ【エンジン:B58】
滑らかな回転フィールと直列6気筒ならではの官能的なサウンドを実現してくれる、スープラRZに搭載されるB58型エンジンは、言わずと知れたBMW製。昔からBMWのシルキー6は好みだったが、それが変わらずに現代にも受け継がれていることが嬉しい。より官能的なサウンドを味わうのであればBMW Z4という話もあるだろうが、日本人なので一応スープラ推しにしておく。軽量で軽快ということもあるので。
ファーストインプレッションは、回転フィールは良いけれどパワー感が物足りない感覚があったが、それも最新型では対策されるそうだ。まだそれは試乗していないが、きっとウイークポイントを解消してくれているのだろうと期待している。
3台目:メルセデス・ベンツ S400d【エンジン:OM656】
そもそも振動を打ち消すのに有利な直列6気筒で最新のディーゼルエンジンを造ったらどうなるのか? そこが興味深かったS400dのOM656エンジンは、ディーゼルであることを忘れるくらいの滑らかさ。車内も車外も静粛性や振動が排除されており、ディーゼルであることを知らされていなかったら思わずガソリンスタンドで「ハイオク満タンで!」と言ってしまいそうなくらいだ。
有利なのはそれだけではない。低回転から700Nmを発揮することと9ATの組み合わせで、高速巡行であっても1000~1200回転で十分にこなせるところが驚き。Sクラスの優雅さにこのテイストはマッチングが最高だ。さほど回さず気持ち良さを得られる稀有なエンジンだと思う。
【近況報告】
バイクを買い替えた。これまでは1200ccだったが今度は1800cc。別に飛ばさないが、ビッグトルクでゆっくり走る気持ちよさにハマっている。
【プロフィール】
大学在学中に某中古車専門誌編集部のアルバイトをきっかけに自動車業界デビュー。2006年からフリーランスとなり、新車の撮影に明け暮れる自動車ライター。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)