日産は7月15日、新型クロスオーバーEV「アリア」を世界初公開した。2021年中頃の発売が予定されており、実質購入価格は約500万円からの見込み。新生日産の象徴的な役割も担うアリアは、最新テクノロジーのショールームでもある。ついに明らかになったその全貌をご紹介しよう。
PHOTO●中野幸次(Nakano Koji)/NISSAN
日産の新しいエンブレムを採用した初の市販モデル
日産が「新時代の100%電気自動車」と称するアリア。2019年の東京モーターショーでは「アリア コンセプト」が展示されていたが、市販版アリアのデザインはほぼそのまま。日産の新たなデザインが具現化された最初のモデルとなるわけだが、素直に「スタイリッシュ」と称えることができるものだ。
見どころはたくさんあるが、まずはフロント部のデザインに注目したい。EVであるため冷却のためのグリルは不要となり、その代わりにスモークパネルが顔の大部分を覆っている。そして、その中央にはLEDによって光り輝く日産の新しいブランドロゴが鎮座する。日産のデザインシグネチャーであるVモーションは継承されるが、白い光によって表現されており、ウインカー点灯時にはシーケンシャルウインカーとして機能するなど、フロント部だけをとっても目新しい要素が多数盛り込まれているのが分かる。
Cセグメント級のボディサイズだが室内の広さはDセグメント級
アリアのボディサイズは、全長4595mm×全幅1850mm×全高1655mm。日産エクストレイルが全長4690mm×全幅1820mm×全高1740mmなので、アリアはエクストレイルよりもやや幅が広い一方で、全長と全高は一回り小さい。また、ルーフラインもなだらかに下降したクーペフォルムなこともあり、実車を間近に見た印象は、「意外とコンパクト」というもの。それでいて、ドアを開けて室内を見てみると「意外と広い」のである。今回の撮影ではアリアに乗り込むことができなかったので正確なことはお伝えできないが、後席のニースペースは全長から想像する以上の余裕があるように感じた。
真横からアリアを見ると、特にフロントのオーバーハングが切り詰められているのがよく分かる。そのおかげで、全長を抑えながら広い室内空間を確保することができたというわけだ。そんなアリアの効率的なパッケージングの構築に貢献したのが、新開発のEV専用プラットフォームである。
新開発のEVプラットフォーム&パワートレーンを採用
このプラットフォームの特徴は、重量物であるバッテリーを中央に配置することで低重心かつ前後の重量配分が均等になるよう配慮されていることだ。バッテリーケース内にはクロスメンバーが配されており、高剛性を確保しつつトンネルのないフラットなフロアを実現している。また、通常は室内に配置する空調ユニットをモータールーム内に配置することで、室内空間の拡大が可能となった。日産では「Cセグメントのボディサイズでありながら、Dセグメントレベルの広い室内空間」と謳っているが、その言葉に誇張はないように思えた。
そんな新プラットフォームに搭載されるのは、これまた新開発のEVパワートレーンだ。ユーザーのニーズに合わせて、2種類のバッテリーサイズと2種類の駆動方式(FWD/AWD)が用意されている。
■65kWhバッテリー搭載・FWD車
→アリアのエントリーモデル
・バッテリー総電力量:65kWh
・使用可能電力量:63kWh
・最高出力:160kW
・最大トルク:300Nm
・加速性能(0-100km/h):7.5秒
・最高速度:160km/h
・航続距離:最大450km
■90kWhバッテリー搭載・FWD車
→アリアの中で最長の航続距離を持つ
・バッテリー総電力量:90kWh
・使用可能電力量:87kWh
・最高出力:178kW
・最大トルク:300Nm
・加速性能(0-100km/h):7.6秒
・最高速度:160km/h
・航続距離:最大610km
■65kWhバッテリー搭載・AWD車(e-4ORCE)
→4輪制御技術「e-4ORCE」を搭載したAWDモデル
・バッテリー総電力量:65kWh
・使用可能電力量:63kWh
・最高出力:250kW
・最大トルク:560Nm
・加速性能(0-100km/h):5.4秒
・最高速度:200km/h
・航続距離:最大430km
■90kWhバッテリー搭載・AWD車(e-4ORCE)
→e-4ORCEとプロパイロット2.0が標準の最上級モデル
・バッテリー総電力量:90kWh
・使用可能電力量:87kWh
・最高出力:290kW
・最大トルク:600Nm
・加速性能(0-100km/h):5.1秒
・最高速度:200km/h
・航続距離:最大580km
※各モデルの航続距離は、WLTCモード社内値
上記の通り、アリアの一充電あたりの最大航続距離は610kmを実現。これは、高速巡航時の消費電力を低減する新開発のモーターも貢献している。
また、アリアのバッテリーには水冷式の温度調節システムが搭載されている。そのおかげで、最大130kWの急速充電の利用時には、30分で最大375km分を充電することが可能となった。
快適な乗り心地を実現する4輪制御技術「e-4ORCE」
アリアで初搭載となった「e-4ORCE」とは、前後に搭載された計2基のモーターのトルクを個別にコントロールするのが特徴だ。
そのシステムが効果を発揮するのがブレーキ時だ。通常、走行中にブレーキをかけるとクルマのフロント部が沈み込む。その際、アリアは前後のモーターの回生量を個別に調整することで、ノーズダイブを抑えることが可能だ。また、コーナリング時は前後のトルク配分だけでなく4輪のブレーキも個別に制御して、ドライバーの意に沿ったリニアなハンドリングを実現しているという。
ちなみに、「e-4ORCE」の「e」は電気自動車、「4ORCE(フォース)」は物理的なパワーと四輪駆動を表す「4」を掛け合わせたネーミングとなっている。その技術には、GT-RのアテーサET-S(電子制御トルクスプリット4WD)と、エクストレイル等のインテリジェント4×4システムから得たノウハウが生かされているという。
自車位置把握がより高精度に進化したプロ・パイロット2.0
アリアは運転支援技術も充実しており、日産自慢の「プロパイロット2.0」も搭載している。2019年にスカイラインで初採用となり、「手放し運転」が可能ということで多いに話題を呼んだことは記憶に新しい。アリアではそれがさらに進化し、準天頂衛星システムなどからの高精度測位情報を受信し、自車位置をより高精度に把握することが可能となった。
アリアでユニークなのは、プロパイロット2.0の作動状況に連動して、車内のライン照明が変化すること。通常は白色だが、ハンズオン時には緑色に、そしてハンズオフ時には青色に光る。こうした演出は、運転者だけでなく同乗者もアリアの運転状況を把握しやすいというメリットがある。
日本の「間」をイメージしたシンプルなインテリア
そんなアリアのインテリアは、日本の「間(ま)」をキーワードとしてデザインされたという。「間」とは、モノとモノとの間にある空間や、連続するコトとコトとの間の時間を意味する。やや観念的なコンセプトだが、そんな難しいことを抜きにしても、アリアのインテリアは新しさを感じさせる魅力的な空間に仕上がっている。
木目調のフィニッシャーがあしらわれたダッシュボードには物理スイッチがない。イグニッションをオンにすると、エアコンなどのアイコンが浮かび上がるという仕掛けだ。これらのスイッチはハプティックタイプとなっており、押すと振動で操作感を伝えてくれる。
ダッシュのセンターとメーターには、それぞれ12.3インチディスプレイが並ぶ。通常、センターのディスプレイには地図や音楽情報が表示されるが、スワイプ操作することで、それらの情報をメーターのディプレイに移動させることもできる。
Amazon Alexaに対応し、家の照明や空調も音声で操作できる
アリアには、「ハローニッサン」と呼びかけることで起動するパーソナル・アシスタンス技術も搭載される。音声で空調やナビゲーションで操作が可能だが、アリアではインターネットをつなげることでより自然な言語での音声認識を実現しているという。
また、Amazon Alexaも搭載されており、こちらで音楽の再生や天気予報の確認なども行える。スマートホームデバイスにも対応しており、Alexaに呼びかけることで自宅の照明やエアコンのスイッチを入れることもできるのは目新しい。
さらにアリアは、リモート・ソフトウェア・アップデートにも対応する。これは無線でクルマのソフトウェアをアップデートする機能だ。ソフトウェアはデュアル・バンク・メモリに記録されるのだが、まずサブメモリにダウンロードしておき、その後、メインメモリと切り替えることで、アップデートを短時間で完了することが可能となっている。
期待の新EV、日本発売は2021年の中頃を予定
世界初の量産型EVであるリーフを作り出した日産の技術とプライドがすべて投入されたと言っても過言ではないアリア。日本の路上でその姿を見ることができるのは、2021年の中頃になりそう。補助金などを差し引いた実質購入価格は約500万円の見込みだ。
■日産アリア・主要諸元(日本仕様)
全長×全幅×全高:4595×1850×1655mm
ホイールベース:2775mm
重量:1900kg-2200kg(モデル、装備によって異なる)
荷室寸法:466L(FWD)、408L(AWD)
タイヤサイズ:235/55R19または225/45R20(グレード別設定)