東芝デジタルソリューションズ(TDSL)は、自動車メーカーや部品サプライヤーで普及が進んでいるモデルベース開発を進化させ、サイバー空間上で企業の枠を超えた車載システムの共同デジタル試作を可能にする「分散・連成シミュレーションプラットフォーム」(VenetDCP)の販売を開始する。
近年、車載システム開発では開発効率を高めるためにモデルベース開発が急速に普及している。モデルベース開発とは、車載部品のモデルや、自動車を取り巻くさまざまな交通環境(道路、歩行車、自転車、標識、他の車など)を模擬した外界のモデルによるシミュレーションを用いた開発のことで、開発の前倒しや後戻りの抑制を実現できることから、車載部品単体の開発における活用が先行して進んでいる。
一方、自動運転のように多数の部品やシステムを相互連携して機能を実現する近年の自動車では、実車評価段階ではじめて「仕様の不備」や「仕様の誤解や見落とし」などがわかり、開発の後戻りが発生することもある。そのため、各部品のシミュレーションだけでなく、各企業が保有する複数のモデルを集めて接続し、車両全体をシミュレーションするニーズが高まっている。
TDSLのVenetDCPは、自動運転や先進安全システムなどの大規模で複雑な車載システムの開発において、自動車メーカーと部品サプライヤーが “分散” して保有するモデルとシミュレーションツール同士を、サイバー空間上で一つにつなぎ “連成” させることで、開発の初期段階からシミュレーションを繰り返し実施することを可能にし、設計の手戻り作業の削減、品質の改善、生産性の向上を実現する。
VenetDCPは、米国マスワーク社製のMATLAB/Simulinkなど、車載システム開発で使われる多くのシミュレーションツールをつなぐことができる。異種のシミュレーションツールの間でモデルを相互利用するための世界標準規格であるFMI(Functional Mock-up Interface)に準拠しており、ツール間接続の親和性を高め、大規模な分散・連成シミュレーションが可能だ。
TDSLは、企業間でのモデルの流通と連成シミュレーション活用の仕組みやプロセスの標準化活動団体である、ドイツのprostep ivip associationに加盟した。また、日本国内においては2018年4月に経済産業省が発表した「SURIAWASE2.0の深化」に賛同し、この活動に協力するとしている。これらの活動を通して、自動車メーカーと部品サプライヤーが共同で車載システムのデジタル試作を行うための標準プラットフォームの整備と確立を目指す。
また、TDSLは株式会社電通国際情報サービスとの間で、VenetDCPに関する共同マーケティングの実施とVenetDCPおよび関連サービスに関する両社の役割分担等の協業ストラクチャーの検討をすることで基本合意した。VenetDCPと、株式会社電通国際情報サービスが提供するiQUAVIS(アイクアビス、設計開発の見える化ツール)やクラウドCAEソリューションなどのソリューションを融合させることで、車載システムの開発コスト削減や効率化の実現を目指すとしている。
なお、今回販売開始するVenetDCPは、2019年11月の東芝グループ「2019年度技術戦略説明会」の場で新たに提供開始予定と紹介した、インダストリアルIoTサービス「TOSHIBA SPINEX」の一つだ。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な社会およびビジネスの環境変化の中で、さまざまな企業がネットワークを介して有機的につながり、設計情報や知識を互いに共有し協働することが、企業活動を継続・発展させるためにますます重要になっていくと考えられる。当社は、サイバーとフィジカルを融合させるCPSテクノロジーにより、自動車メーカーと部品サプライヤーがサイバー空間上で車載システムの共同デジタル試作を行うための世界標準プラットフォームを提供し、アフターコロナの自動車産業の発展に貢献していくとしている。