日産GT-RのVR38DETTは、3.8ℓV6DOHCターボは、専用工場でひとりの「匠」が1基のエンジンを手作業で組み立てるというスペシャルなエンジンだ。今回は、そのGT-Rのエンジン、VR38DETT型の「補機」に注目してみる。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
世界各地のスポーツカーが性能を磨く鍛錬の場として訪れるニュルブルクリンク北コースを連続周回しても、音を上げないよう設計されたエンジンである。最高速度が300km/hに達するだけでなく、高回転・高負荷の状況で、強烈な前後左右方向のGにさらされる。吸気も排気も冷却も潤滑も、音を上げることは許されない。
特集の分類に則ってGT-Rのエンジンを観察すると、吸排気系は左右で完全に独立した設計(クロスフロータイプ)。インタークーラーは当初、横長の一体タイプを用い、上下で左右の吸気を分割する設計を検討したが、レスポンスを重視するため、左右独立式に改めた。空冷式オイルクーラーはサーモスタット付きで、オイルを適正温度まで素早く温める。
V型6気筒エンジンのヘッド上に横たわるインテークマニフォールドはクロスし、右側に見えるパイプの空気が左側のシリンダーに送り込まれる。サーキット走行や超高速巡航に対応するため、カルソニックカンセイ製ラジエーターの冷却水圧力は従来の乗用車のレベルを大きく超えて、2kg/㎠になるという。強度を確保するために板厚を増すなどして対処。一方、通気率を優先するため、ACコンデンサーのフィンピッチは粗くしている。通常1.4~1.6mmのところ、GT-Rは2.2mm。ピッチを粗くし、その後方にあるラジエーターの冷却を助けるためだ。
排気系の見どころはターボチャージャー一体のエキゾーストマニフォールド。エキゾーストポートからタービンコンプレッサーまでの容積を減らし、レスポンス向上を狙った措置。開発・製造はIHIが担当。電子制御による過給圧コントロールは日産が受け持った。ステンレス鋳鋼の薄肉設計としたことで、エンジン始動時の触媒活性化に貢献。エキマニ/ターボ別体型との比較では、始動15秒後の温度で40℃の向上効果が現れたという。
その触媒は、GT-Rがトランスアクスルのレイアウトを持つこともあってエキゾーストマニフォールド直下に置くことができている。