VOLVO S60から始まった新連載【エントリー
グレード漫遊記】。第二回となる今回は、ホンダ FIT e:HEV BASICを取り上げる。トヨタ ヤリス、日産 ノート、MAZDA 2……と競合が多いこのクラスだが、FITの実力や、いかに! チェックをしている皆さま、試乗はまずBACIC
グレードからですよ!
TEXT:瀬在仁志(Hitoshi SEZAI)
フルモデルチェンジで2月にデビュー
細いフロントピラーを一本増やし死角の少ない開放的な前方視界を確保。シンプルで機能的なインテリアデザインは広い室内空間の実現に一役買っている
2020年2月にホンダからデビューした4代目フィットは『心地よさ』をコンセプトに、5つの
グレードをラインアップ。これまでの装備の充実度による価格違いの
グレード構成から生活様式に合わせた
グレード体系とすることで、それぞれのモデルにこだわりの心地よさを演出している。従来のセンタータンクレイアウトと歴代磨き込んできた軽快な走りを失うことなく、ライフスタイルに合わせたクルマ選びができるようになっている。
全
グレード共通で、細いフロントピラーを一本増やして前方に伸ばすことによる死角の少ない開放的な前方視界を確保、シンプルで機能的なインテリアデザインも徹底することで、広い室内空間を実感しやすくなった。シートアレンジも従来どおり、リヤシートを座面ごと跳ね上げられるので、フロントシート後方には低床でフラットに近いラゲッジスペースを実現。ちょっとした観葉植物のプランターや背の高い箱物を運ぶことも可能で、コンパクトハッチバックモデルながらミニバンのような使い方もできる。
ドライバー目線での注目ポイントは、小さなことだがステアリングの位置を調整するチルト&テレスコピックのレバーが、コラムの奥深くから左手前に移動したことによって、シートから上体を大きく動かすことなく操作できるようになったことだ。これはホンダの多くの
モデルがそうであったように、タイプRなどでフルハーネスを締めたうえでは調整は不可能だったことを考えると、大きな進歩だ。欧州車などでは当然のレバー配置に、ホンダもようやく対応してくれた。
多彩なシートアレンジでミニバンの使い勝手も手に入れられる
リヤシートを両方上げると、かなりの収納スペースが現れる
高さのない荷物が多いときは、リヤシートの背を倒してトランクスルーに
リヤシートは6:4の分割可倒式
倒すと広々とした空間が生まれる
よく頑張ってくれた!
エンジンは1.3ℓガソリンと、1.5ℓHVの2本立て。HVモデルはe-HEVとネーミングされ、今後ホンダHVモデルの統一呼称となる。その第一歩を踏み出す記念すべきFITのHVシステムが今回フルモデルチェンジの大きなポイントで、先代モデルのシングルモーターとツインクラッチを組み合わせた『i-DCD』からアコードやインサイトなどの上級モデルに採用されていた2モーターの『i-MMD』に
グレードアップしている。
機構的には先代のシステムもホンダらしくて優れたアイデアではあったのだが、高効率化に向けてあっさりと切り捨てた。もちろん2
モーターのe:HEVは、
モーター出力も大きくEV走行できるシーンが増え、より先進的なシステムではあるものの、コストアップは確実。コンパクトボディに載せるためのサイズダウンやコストに関してのハードルが高かったであろうことは想像に難くない。ホンダの開発陣はよく頑張ったと思う。
コンパクトにまとまったエンジンルーム 形式:1.5ℓ水冷直列4気筒DOHC 型式:LEB 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0×89.4mm 圧縮比:13.5 最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm 最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
若干地味?! でも……
エントリーグレードでもチープさを感じさせることのないデザイン。これは高ポイント
さて、前置きが長くなってしまったが、今回のエントリーモデル試乗は、このe-HEVのBASIC。シンプルで自分らしい心地よさを求めるユーザ一向けのエントリー
グレードである。
乗り込んでみると、ほかの
モデルよりは幾分地味な色合いではあるものの、デザインや素材の違いはあまり気にならない。メーターやエアコンスイッチ、2本スポークのステアリングなどに変わりはないし、シートなどのタッチも悪くない。光り物が少ないぶんだけ、人で例えるなら「少々しっとり感が足りないお肌」といった程度。実際にはほかの
モデルに用意されているものとは、シートやステアリングの素材が異なっていたり、助手席の後ろにシートポケットやリヤシートアームレストがないなどの差はあるものの、走りやドライバー視点からは、粗探しをして初めてわかるにすぎない。
それでいながら価格的にはBASICのネーミングにふさわしく、2モーターHV化したにもかかわらず199.7万円と、200万円を切って、同時期にデビューしたヤリスHVの199.8万円~とガチンコで勝負。フィットのほかの
グレードとの価格差では一番高いもので232.7万円と、30万円強の範囲に5
グレードが存在する。ライフスタイルシーンとしての価格差としては妥当だし。HVシステムをはじめとする機能性能に差はないから、モデル全体としてもお値打ち感はかなり高い。
では、走りはどうだろう
WLTCモード 29.4km/ℓ 市街地モード 30.2km/ℓ 郊外モード 32.4km/ℓ 高速道路モード 27.4km/ℓ
肝心の走りは。2
モーターの効果によって走り出しからじつにスムーズ。街中で移動する範囲では1
モーター時代のように変速による加速感の波からは解放されたし、極低速域の扱い易さは
モーターならではの上質感を持つ。
残念な点は、次世代パワーユニットの恩恵をうけて、スルスルと流れるように走り出しているのに、わずかに踏み込んだ程度で、突然大きく
エンジンが回り出すことだろうか。走りはEVなのに、充電や走行サポートのためにやや高めに
エンジン回転が維持されて、まるで変速できないまま走っている初心者ドライバーのようになってしまうのだ……。
エンジンの効率的な使い方には違いないだろうが、スムーズで高回転まで軽々と回るスポーツ
エンジンを作り続けてきたホンダのユニットとはほど遠い。
エンジンのホンダといわれたプライドにかけても発電時の気持ちよさだって大いにこだわってほしかった。
インサイトと比較してみると、
エンジンは同じ1.5ℓで基本設計に変わりはないものの、形式はLEB-H4に対して、LEB-H5型となりパワーも109psから98psへと落とされている。このあたりにもノイズレベルの差が隠されていると思うが、価格差を考えるとちょっと酷かもしれない。
もちろんこのエンジンが高速域になるとモーターのアシストを行なうことで、巡航走行からの追い越し加速や、加減速のレスポンスの良さは充分に楽しめる。ワインディングでは高回転域まで回り、ノイズレベルは高めながらも伸びの良さもある。従来に比較してモーター出力があることでEVでの走りも大いに味わえるし、加速時にはレスポンスの良いエンジンがサポートしてくれていることに違いはない。このあたりはもちろん全
グレード共通と言ってよいが、足元のフィーリングは少々異なっていた。
BACICならではの良さは足元にも
「乗り味が穏やかで、モーターのスムーズな走りとの相性は抜群!」と太鼓判。瀨在仁志氏
15インチタイヤを履くBASICは同じ185サイズながらほかの
モデルの16インチタイヤ装着車に対して路面からの入力はカドがなくて、意外にも収まりが良い。足元がゆっくりと動くようにショックを吸収することでボディに多少前後の動きはあるものの、サスの機能を感じやすい。大きな入力ではこの動きがショックを吸収することでボディは快適そのもの。乗り味が穏やかで、モーターのスムーズな走りとの相性は抜群だ。
操作系は全体に軽めながらもステアリングの反応が敏感すぎず、ブレーキのタッチも後半は回生が強めに効いてきて手応えが増す。少々残圧が残るのが気になるものの、回生とのバランスを考えると、ストローク感を残していて、コントロール性は悪くない。
全体の乗り味としては、16インチタイヤを履くモデルよりも手応えや軽快さなどは薄く感じられる半面、発電時のエンジンノイズを除けば、室内の静粛性はしっかりとキープ。EV主体の2モータ-の恩恵を充分に受けることができる。乗り味が自然でクルマがお節介を焼かないというクルマとドライバーのほどよい距離感こそがBASICの立ち位置といった感じ。人に優しい
グレードに加えて、価格的にも全
グレード中、唯一200万円を切ったあたりは大いに注目すべきポイントだ。内外装から受ける印象もホイールキャップを除けば価格差はわかりづらく、上級HVユニットを積んだ今度のフィットはBASICこそ大盤振る舞いの狙い目モデルと言っていい。
ホンダからすれば出血大サービスで手痛いところだろうが、ユーザーの財布にとっては『心地良い』一台となるに違いない。この
グレード(BASIC)、お勧めだ。
全長×全幅×全高:3995×1695×1515mm ホイールベース:2530mm
車両重量:1180kg
最小回転半径:4.9m
リヤサスペンションはトーションビーム式。
フロントはマクファーソンストラット式。
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