どれほど技術が進化しても、法規や市場環境の変化など様々な要因が影響するため、最新のモデルが最良とは限らないのが、クルマの面白い所。さりとてモデル末期のクルマは、熟成が進んでいるとはいえ、その後現れる新型車で劇的に進化する可能性を考慮すると、実際に購入するのはなかなか勇気がいる。
そこで、近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されている、モデル末期の車種をピックアップ。その車種がいま“買い”か“待ち”かを検証する。
今回採り上げるのは、新型では新世代のSGP(スバルグローバルプラットフォーム)×フルインナーフレーム構造と、新開発の1.8L直噴ターボエンジン、新世代アイサイトなどの採用が確実視されている、スバルのミッドサイズステーションワゴン「レヴォーグ」。その最上級グレード「2.0STIスポーツアイサイト」をベースとした特別仕様車「ブラックセレクション」に、高速道路とワインディングを中心として総計約300km試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、SUBARU
なお、2代目レヴォーグはすでにプロトタイプが2019年10月の東京モーターショーで、2020年1月の東京オートサロンではさらにその「STIスポーツ」が発表されている。概要を列挙すると、
・SGP×フルインナーフレーム構造
・新開発の1.8L直噴ターボエンジン
・新世代アイサイト
・新開発の高精度マップ&ロケーター
・SUBARU国内初のコネクティッドサービス
・SUBARU初の電子制御ダンパー(STIスポーツ)
・パワートレイン、ステアリング、ダンパーの特性をスイッチ操作一つで変更できる「ドライブモードセレクト」(STIスポーツ)
・2020年後半に日本市場で発売予定
上記の通りとなるのだが、一言で言えば新型レヴォーグではほぼすべてが一新される。このことを踏まえたうえで、現行レヴォーグの最終モデルを見てみたい。
まず内外装のデザインは、至ってオーソドックスなもの。近年は好き嫌いがハッキリ分かれるデザインを意図的に採用するクルマが多い中で、この王道を往く方針には好感が持てる。
ただし、レヴォーグに限らず近年のスバル車全般に言えることだが、クーペライクなフォルムと空気抵抗の低減を狙っているのか、後半の落とし込みが深いルーフラインと、ガラスエリアの傾斜が強いバックドア形状は、このオーソドックスなデザインに馴染んでおらず、格好良さを高めるのにもほとんど寄与していない。
むしろ後席ヘッドクリアランスと荷室容量に少なからず悪影響を及ぼしているため、素直にスクエアな形状とすべきだろう。ただし後方および側方、斜め後ろの視界は充分以上に確保されており、スバルが主張する通りゼロ次安全の向上に寄与しているのは間違いない。
そしてもう一つ、スバル製ターボ車のシンボルである、ボンネット上のエアスクープ、これが車両前端を見切るうえで大きな妨げとなっている。特にレヴォーグはダッシュボードが低く前方視界が広いだけに、新型では廃止されるのを願ってやまない…のだが、残念ながら新型にも残るようだ。
なお、テスト車両の「ブラックセレクション」には、レヴォーグで初のメーカーオプション設定となるレカロ製セミバケットシートが装着されていた。これはWRXに設定されているものの色違いで、座面のサイドサポートが不足しているのは変わらない一方、ヒップポイントを限界まで高めに設定すればヒップから太股にかけてのフィット感は改善されることが分かり、以前WRX STIに試乗した際よりも快適に過ごすことができた。
だが後席はWRXよりも背もたれの傾斜が強く、しかも角度調節が不可能なため、むしろ不快だったというのが率直な印象。こうした寝そべりポジションが良しとされている所にこそ、設計の古さを感じずにはいられない。
とはいえ後席の良し悪しなど、もしかしたらレヴォーグを購入するオーナーには些末なことなのかもしれない。荷室は後席を倒さずとも1m以上の置く幸男があるのだが、倒せば1.8mものフラットな床面が得られるため、プロカメラマンなら撮影機材、ミュージシャンなら楽器や周辺機器を大量に積み込むのに重宝することだろう。
なお後席背もたれは、荷室手前のスイッチで倒すことも可能。さらに床下には二つのサブトランクがあり、転がりやすい小物を安全に収納できるうえ、それぞれにフロアボードが設けられるなど、長年ステーションワゴンを作り続けたスバルのノウハウが凝縮されている。
ただし、腕に自信のあるドライバーでも、いやむしろ腕利きこそ、油断しない方がいいかもしれない。
ハンドリングはいたって安定志向で、ターンイン時に後輪が不自然に動く感覚はなく、旋回中に大きなギャップを乗り上げても、フロントが倒立式とされたビルシュタイン製ダンパーは素早くサスペンションの上下動を吸収してくれる。
さらにコーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込んでいっても、通常は45:55に設定されている前後トルク配分を状況に応じて変化させる2.0L車用の「VTD-AWD」は挙動を安定させる方向に制御するため、ワインディングでも安心してコーナリングを楽しめる。
だが裏を返せば、特にドライ路で限界を超える時は相応の速度域に達しており、制御不能に陥る可能性が高いとも言えるだろう。
さて最後に、水平対向エンジンを搭載するスバル車が長年課題としている、燃費について言及したい。
今回は高速道路でアイサイト・ツーリングアシストを使用した場合と使用しなかった場合、ワインディング、市街地でそれぞれ燃費を計測したが、高速道路はいずれも12.8km/Lと、性能の高さを考慮すればまずまずの数値。だがワインディングは6.9km/L、街乗りでは5.7km/Lと落ち込みが大きく、トータルでは10.7km/Lと振るわなかった。これは、低速トルクが細いうえターボラグも大きいため、ワインディングや市街地では中~高負荷域に入りやすい特性を、如実に反映したものと言えるだろう。
こうして見てみると、現行レヴォーグは「GT TOURER」というキャッチコピーの通り、高速道路をそこそこのペースで長距離長時間走るのが最も得意で、とりわけ今回の「2.0STIスポーツアイサイトブラックセレクション」はその傾向が強いことが分かる。しかしながら、走行ステージを問わず乗り心地は快適で操縦安定性は高く、取り回しにも優れている。そして荷物の積載能力は非常に高く、トータルバランスに優れたGTワゴンと言えるだろう。
それでは新型はどうか。SGPに新開発の1.8Lターボエンジンとアイサイトで、走りに関してはより一層洗練されたものになると期待できる。だが、よりクーペライクになるボディ形状を見るにつけ、居住性と積載能力に対する不安を拭えない。そして、少なくともデビュー直後は、エンジンが1.8Lターボに一本化される可能性が高く、これが現行の2.0Lターボほどハイスペックな仕様になるとは考えにくい。
また、スバル広報部によれば、2019年4月~2020年5月のグレード別販売台数および構成比は下記の通りとなっている。
・1.6GTアイサイト…883台・7.4%
・1.6GTアイサイトスマートエディション…1604台・13.4%
・1.6GTアイサイトVスポーツ…1617台・13.5%
・1.6GT-Sアイサイト…1431台・12.0%
・1.6GTアイサイトアドバンテージライン…512台・4.3%
・1.6STIスポーツアイサイト…976台・8.2%
・1.6STIスポーツアイサイトブラックセレクション…2127台・17.8%
・2.0GT-Sアイサイト…514台・4.3%
・2.0STIスポーツアイサイト…678台・5.7%
・2.0STIスポーツアイサイトブラックセレクション…1617台・13.5%
・総計…1万1959台
2.0Lエンジン搭載グレード合計の販売構成比は23.5%。このデータを見れば、スバルにとってこのような高性能モデルの優先順位は決して高くなく、むしろ新型で廃止しても何ら不思議ではないのが見て取れる。
従って、「モデル末期のスバル・レヴォーグ2.0STIスポーツは“買い”か“待ち”か?」、この答えはズバリ“買い”だ。
現行レヴォーグは5月末で受注生産の受付を終了しており、すでに在庫車のみの販売に移行している。そして、新型レヴォーグの最終確認テストが開始され、テスト車両が公道で見かけられるようになった。ということは、日本市場で発売予定の「2020年後半」とは、ごく近い時期と考えた方が自然だ。
もう迷っている時間はない。欲しければすぐにでも販売店へ駆け込むべきだろう。
■スバル・レヴォーグ2.0STIスポーツアイサイトブラックセレクション(F-AWD)
全長×全幅×全高:4690×1780×1490mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1580kg
エンジン形式:水平対向4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
最高出力:221kW(300ps)/5600rpm
最大トルク:400Nm/2000-4800rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:ストラット/ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:225/45R18 91W
乗車定員:5名
JC08モード燃費:13.2km/L
車両価格:412万5000円