スーパー耐久レースでも優勝するなど、モータースポーツ経験が豊富な瀨在仁志さん。当然、クルマのハンドリングには一家言あるわけだが、そのお眼鏡にも適うのが、NSXと同様にSH-AWDを搭載するスーパーハンドリングセダン、ホンダ・レジェンドだ。残りの2台は、「一度はその性能を身近に楽しんでみたいが、なかなか一歩踏み出せない」というスズキ・ジムニーと三菱アウトランダーPHEVをチョイス。そのいずれもが、後ろ髪を引かれて試乗を終えたクルマである。
TEXT●瀨在仁志(SEZAI Hitoshi)
1台目:ホンダ・レジェンド
クルマの運転が好きでこの世界に入っているわけで、じつは動けばなんでも良いんですよ。所有願望もあまりないし、ドヤ顔して人前を流すっていうのもちょっと、ねぇ。こっぱずかしいじゃないですか。そんなわけで「死ぬ前に一度は乗っておきたいクルマ」ってなると、なかなか試乗のチャンスに恵まれないなかで、もう少し長く乗っていたかった、ドライブしてみたかったクルマ。触れる機会は極めて少なかったけど、後ろ髪を引かれて試乗を終えたクルマか。
購入するにはコストパフォーマンスが悪かったり、非日常的であったり、あれば便利だろうけどここまで必要?っていう、普通のワクからちょっと外に飛び出ちゃったクルマが、自分の最後に乗りたいクルマなんだろうと思う。乗り残しを解消して、頭のモヤモヤをスッキリさせてから三途の川を渡りたいって感じでしょうかね。
その代表モデルが『ホンダ・レジェンドSH-AWD』。街中で見かけることは少ない(ほとんどない)けれど、その実力は3.5ℓV6エンジンに加えて前後にモーターを3つレイアウト、4輪の駆動力を自在にコントロールする素晴らしいモノ。リヤのふたつのモーターが左右駆動力配分を個々に行なうことで、旋回性能と安定性を両立するハイテクマシーンなのだ。
2018年のモデルチェンジでは、さらにシャシー性能の強化を行なうことで、大きなボディを感じさせないハンドリングを実現。雪のなかだって、ワインディングだって、レールの上をピターッと張りつくように走って行くさまは、欧州車にだってなかなかできない芸当だ!
なによりも日本に唯一存在するスーパーカー、NSXのSH-AWDと基本システムは同じ。モデルチェンジ以降は乗り心地も良くなって、クルマに求められる性能を全方位カバーとくれば、なぜ注目されないのが不思議なほど。
と、言っている自分も高価で、あの厳ついデザインを見ると「お金出してまではなぁ」となってしまうのも事実。でも...死ぬ前くらいにならないと覚悟が決められないよねぇ。せめてあの顔つきだけでも何とかならないもんかねぇ。
2台目:スズキ・ジムニー
3台目:三菱アウトランダーPHEV
2台目は、「都会では不要でもこの性能を一度は身近で楽しんでみるのも良いかも」の、オフロード編として『スズキ・ジムニー』。3台目はそのオンロード編で、こんな大きなボディはガレージに入らないけれど、死ぬ前くらいはちょっと使ってみるか、と思えるのがレジェンド同様にモーター駆動のサポートを得て、ランサーエボリューションの系統を受け継ぐ『三菱アウトランダーPHEV』。モデルチェンジ後はとくにリヤモーターを大型化したり、ボディ強化によってランエボ譲りのS-AWD効果がアップ。メーカーがいまできることを満載した至極の一台であることは、レジェンドと同じ。
どのモデルも性能や見た目などが少しばかり尖っているばかりに、喰わず嫌いを起こしてしまっているモデルでもある。ホントは死ぬ前ではなく、しっかりと乗ってみたいクルマのはずなのに、一歩を踏み出せないあたりが、メーカーにとってのクルマ作りの難しさなんだろう。
是非、いますぐ乗りたくなるクルマをホンダと三菱には作っていただきたい。隙間商法のスズキは、これでいいと思います。
■瀨在仁志(せざい・ひとし)
日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)2020-2021選考委員。子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にカート、その後国内外のラリーやレースに多数参戦。スーパー耐久レースではふたつのクラスで優勝経験をもつ。モータージャーナリスト活動は30年以上で、得意とするジャンルはサーキット試乗やタイヤインプレッションなどの走り系。クルマ以外に愛しているものはラーメンと瓶ビール。
人生で、あとどれだけクルマに乗れるだろうか。一度きりの人生ならば、好きなクルマのアクセルを全開にしてから死にたいもの。ということで、『乗らずに後悔したくない! 人生最後に乗るならこの3台』と題して、現行モデルのなかから3台を、これから毎日、自動車評論家・業界関係者の方々に選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)