もはや日本の国民車になりつつある、スーパーハイト軽自動車。そのカテゴリーの最新モデルである日産ルークスは、渾身の力作だ。先進の運転支援システム、広々として質感の高さも感じさせる室内、豪華絢爛な装備類の数々…。これが本当に軽自動車なのか…!? 最近の新型車にすっかり疎くなっていた編集部員は、大いに驚かされたのであった。
最新の軽自動車がこんなに進化していたなんて...
私は日産ルークスに乗った際、昔テレビの洋画劇場で観たSF映画『タイム・アフター・タイム』を思い出した。この映画では、主人公のH.G.ウェルズが自身の製作したタイムマシンに乗り、1893年から1979年にタイムトラベルするのだが、ウェルズは初めて目にするテレビやファストフードなどにショックを受ける。現代人にとっては当たり前のものでも、約80年前の過去から来たウェルズにとっては、すべてが未知のものだったのだ。
今春からモーターファン編集部員になった私は、恥ずかしながら、久しく最新の軽自動車に乗る機会がなかった。新車情報誌の編集部に席を置いていた5年ほど前までは、毎週のように新型車に触れる機会があったのだが、その後、二輪雑誌の編集部に異動となり、仕事でクルマに乗るのはバイク運搬用のハイエースばかり、という日々が長く続いていたのだ。
そんな二輪雑誌編集部時代を経て、私は今、『モーターファン』編集部員となり、再び四輪の世界に戻ってきた。しかし、光陰矢の如し。日進月歩の自動車業界において、5年という時間は短くない。私はすっかり、四輪の新車事情に疎い時代遅れの人間になってしまっていたのである。
だから、モーターファン編集長から日産ルークスの試乗記を書くように命じられた際は、困惑した。一体、『タイム・アフター・タイム』のウェルズ状態の私に何がわかるのだろうか、と。しかし、やるしかない。編集長の命令は、絶対だ。そこで今回は、浦島太郎が最新の軽自動車に乗って感じた素直な驚きをお届けしたい。高尚なインプレッションは無理なので、どうか気楽にお読みいただけると幸いです。
運転席からの眺めは、とても軽自動車とは思えない
前置き(=言い訳)が長くなってしまったが、駐車場に停めてあるルークスに、いよいよ乗り込んでみる。そして、さっそく最新軽自動車の実力に驚かされてしまった。これは…なんと立派なインパネなのだろうか! 試乗車にはオプションの「プレムアムグラデーションインテリア」が装着されていたため、インパネはステッチがあしらわれたレザー調となっていることもあり、華やかな印象。クルマに詳しくない人に「これはイタリア車だよ」と言えば信じてしまうのではないだろうか。助手席ダッシュボードを指で押してみると、ムニュッと柔らかな感触が心地良い。
横方向の寸法に余裕がないことを除けば、運転席に座っていると、ルークスが軽自動車であるための不便さを感じさせる要素は皆無だ。強いて挙げるとすれば、ハンドルにテレスコピック調整機構が付いていないことくらいだろうか。
こんまりもビックリ!? 収納上手なルークス
そして、ルークスの収容力の高さにも驚かされた。今回試乗したルークスにはカップホルダーが11個もついていた!
いや、ルークスがすごいのはカップホルダーの数だけではない。用途に合わせた収納スペースが用意されているのがじつに便利なのだ。グローブボックスの上にはティッシュボックスがすっぽりと収まる引き出し式トレーがついていたり、助手席のシートバックにはスマホを差しておくのにピッタリなポケットがついていたりと、いちいち気が利いている。
また、助手席の座面下にはアンダーボックスが付いているのだが、そこには取扱説明書や車検証が収納できるトレイが備わっている。普段は使わないけど結構嵩張る書類のために、グローブボックスのスペースを割かなくて済むようになっているとは、なんて収納上手なのだろう。片付けが得意でない人もこれなら安心、ルークスは軽自動車界の「こんまり」さんだ!
そして、助手席シートバックに、USBソケットがあるのも素晴らしい。スマホやタブレットなど電子機器を常に持ち歩く現代人にとって、USBソケットは砂漠のオアシスなのである。カーボンセラミックブレーキやアクティブサスペンションといったハイテク装備よりも、USBソケットが一つある方が助かるという人は少なくないかもしれない。
スライドドアは両側にハンズフリーオート機構付き!
ルークスのリヤスライドドアにも驚かされてしまった。手を触れることなく車体下に足をスッと出し入れするだけで、自動的にドアが開くではないか。軽自動車のスライドドアに電動開閉機構がついただけで「なんと贅沢な…」と思っていた時代が懐かしい。今やオートスライドドアは当たり前、スライドドアを開けるのにわざわざ手を使う必要すらない。しかもルークスのハンズフリードアは、開閉の両方に対応するだけでなく、助手席側と運転席側の両方に備わるのだから、もう参りましたというほかない。
この手のドアは、センサーの反応が悪いと何度も空振りしてしまいがちだ。フラフラと片足立ちをしながら、もう片方の足を何度も出し入れしている姿は、あまり他人には見せたくない。しかし、ルークスの場合、にわかオーナーの私が操作しても、ハンズフリードアの打率はなんと10割であった。カタログを賑わせるだけの新機能ではなく、日常的に使用する気になる便利な装備だ。
それでは、いよいよルークスの試乗スタートだ。駐車場から出発しようと思い、シフトをDレンジに入れ、左足でパーキングブレーキを解除する。が、パーキングブレーキのペダルが見当たらない。なんと、ルークスのパーキングブレーキは電動式だ! 出発する前から、私はルークスの先制パンチを喰らってしまった。BMW3シリーズだって現行型(G20)になってからようやく電動式になったというのに…。
とはいえ、軽自動車ではルークスだけが電動パーキング式ブレーキを採用しているわけではない。ホンダN-WGNやダイハツ・タフトでも採用済みだ。そう遠くないうちに、軽自動車でも珍しい装備ではなくなるのだろうか。
プロパイロット初体験! 付いてないクルマにはもう乗りたくない!?
お次は、プロパイロットの出番だ。プロパイロットは、TVコマーシャルや自動車雑誌で散々目にしてきたので、一度でいいから試してみたいと思っていた。いよいよ、プロパイロット童貞を捨てるときがやってきたのだ。この日に備えて、ホットドッグプレス…ではなく、取扱説明書をしっかりと読んで操作方法は予習済みだ。
ちなみに、プロパイロットとは、アダプティブクルーズコントロール(ACC。日産はインテリジェントクルーズコントロールと呼ぶ)と、ハンドル支援を組み合わせた運転支援機能のこと。ルークスの兄弟車であるデイズで軽自動車に初採用されたが、ルークス版はミリ波レーダーを新たに追加したことにより、より遠くの先行車の状況を検知して、スムースな制御が可能になったという。
私が遥か昔、新車雑誌にいた頃は、「ぶつからないクルマ」のキャッチフレーズとともにスバルがアイサイト2.0で注目を集めていた。衝突被害を軽減するという自動ブレーキを初めて体験したときは、大いに驚いたものだ。今や、自動ブレーキはすっかり当たり前の装備になっている。そして、2021年11月からは新型車に装着が義務化されるのだから、時の流れは早い。
プロパイロットは、取扱説明書には「一般道では使用しないでください」と明記されており、使用は高速道路や自動車専用道路に限られている。高速道路の料金所をくぐった私は、ステアリングに設けられた作動ボタンに続き、おもむろにSETボタンを押してプロパイロットを始動させた。プロパイロット、セ〜ット!(水木一郎の声で) すると、ハンドルに手をそっと添えているだけなのに、コーナーに合わせてルークスのハンドルが勝手に切れていくではないか。
好印象なのは、その制御の巧みさだ。特にハンドル支援機能は、パチンコ玉のように車線の左→右→左をフラフラすることもなく、車線の中央をしっかりとキープして走行してくれる。ハンドルの動きは結構カクカクしているのに、クルマはスムーズに曲がっていくのが不思議だ。
また、前走車への追従もスムーズだ。急ブレーキや急加速などすることなく、しっかりと一定の距離をキープして走ってくれる。前が開けて前走車が加速した場面でも、かなり頑張って加速して追いつこうとしてくれるので、「自分でやった方が手っ取り早い」的なストレスがない。あれこれ考えることなく、馴染みの居酒屋のように、お任せでお願いできちゃうのがプロパイロットの強みだ。
私の場合、自分で運転していると、ちょっと車の流れが悪くなったらイライラしがち。でも、プロパイロットをセットしていると、チマチマした速度調整の必要がなくなり、鷹揚な気分でいられる。日本のすべてのクルマがプロパイロットを装着していれば、あおり運転の問題もなくなるのではないだろうか!?
プロパイロットに感動する一方で、考えさせられることも...
最新軽自動車の満漢全席ぶりに驚いた今回の試乗だったが、不安に思ったこともあった。それは他ならぬプロパイロットについて、である。いや、その使い勝手はもちろん悪くない。もし知り合いがプロパイロット付きのルークスの購入を検討しているならば、その背中をそっと押してあげることだろう。
しかし、自分がプロパイロット付きのルークスのオーナーになったら、プロパイロットに頼りすぎてしまいそうな気がして怖い。高速道路を走っているとき、プロパイロットがあるとリラックスできるから疲労感は少ない。長距離を運転する場合は、とても助かることだろう。その反面、運転に対する緊張感も薄れてしまっていないだろうか。路上に障害物が落ちていたりと、プロパイロットでは対応できないような突発事態が発生した際に、のほほん状態で運転席に座っている自分は迅速に対応できるだろうか、と少し不安になった。
また、プロパイロットがあると、「運転を上手になろう」という意欲がなくなりそうな気がして、これも寂しい。自分が免許を取得した約25年前は、『GOLD CARトップ・実践ドラテク教室』や『中嶋悟の交通危機管理術』を読んだり、夜の峠道に出かけたりして、少しでも運転技術を磨きたいと思っていた。高速道路を走る際も、ドラテク教本に書いてあった「スピードメーターの針を動かさないよう、アクセルペダルを繊細に操作してできるだけ一定速度で走る」という課題に一生懸命取り組んだものだ。
プロパイロットが付いているクルマに乗っていると、便利だから絶対に頼ってしまう。こんなにスムーズに高速道路を走ってくれるのならば、自分で苦労して運転するよりもプロパイロットにお願いした方がよっぽどいい。だったら、運転なんて上手くならなくていいや…そんな風に思ってしまわないだろうか。
AIの能力が人類を超えることを「シンギュラリティ(技術的特異点)」といい、2045年にはそれが訪れると言われている。「自分が運転するよりもプロパイロットの方が上手」というクルマ版シンギュラリティは、もはや未来の話ではない。日産ルークスを運転しながら、そんなことを考えたのでした。