世界中でもっとも売れているスバル車は、フォレスターだ。そのフォレスターの国内モデルは、2.5ℓの水平対向エンジン(FB25)と2.0ℓ水平対向エンジン(FB20)+モーターのe-BOXERを設定する。今回はe-BOXERをモータリングライターの世良耕太が試乗。「e」の価値を検証した。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
e-BOXERの「e」の価値は?
フォレスターには2.5ℓ水平対向4気筒エンジン(184ps/239Nm)を搭載する仕様(車両本体価格286万円〜308万円)と、2.0ℓ水平対向4気筒エンジン(145ps/188Nm)にモーター(13.6ps/65Nm)を組み合わせた仕様(車両本体価格315.7万円)がある。エンジンに電動技術を組み合わせたハイブリッドシステムを、スバルは「e-BOXER(イー・ボクサー)」と呼んでいる。
いっぽう、モーターはエンジンのように、空気量を増やして、着火してという面倒なプロセスは必要なく、信号を送ると瞬時に反応する。エンジンが不得意とする領域を応答性に優れたモーターでカバーするのがe-BOXERのコンセプトだ。
低出力ではあるけれども、モーターの力だけで車両を動かすだけの力はあり、発進から微低速では、いわゆるEV走行を行なうことができる。市街地を走っている状況でアクセルをオフにした際は、エンジンをシャットダウンし、コースティングしつつモーターで減速エネルギーを回生する。シーンは限定的だし効果は弱いけれども、高出力モーターを積むストロングハイブリッドと同様のモードを備えていることになる。
e-BOXERには2018年10月に箱根で乗っているが、そのときは交差点や信号がほとんどないルートでの走行に終始した。今回は都内近郊の自動車専用道路と幹線道路、それに細街路を走った。一般道では発進と停止を頻繁に繰り返し、冷間始動も体験した。より、日常に近い条件で走らせてみて気づいたことがある。アクセルを踏み増したときの応答性こそe-BOXERの生命線であるはずだが、モーターからエンジンへのバトンタッチが上手にできておらず、不愉快な動きが顔を出す。
発進時はモーターだけで走行するのが基本だ。だが、出力が小さいのが災いしてか、ドライバーとしてはそれほどアクセルを強く踏んでいるつもりはないにもかかわらず、浅い踏み込みでもエンジンが始動する。エンジンが始動すること自体は何ら問題ないのだが、エンジン走行に切り替わる際に、ドンというなかなか不愉快なショックをともなうのだ。
それが、発進の度に起きる。渋滞に遭遇した際に発進と停止を繰り返していると、発進の際に、「あぁ、またアレが来るのかぁ」と暗い気分になる。そして、やっぱりショックは出るのだ。フォレスターのダッシュボード中央にはインプレッサと同様にマルチファンクションディスプレイが装備されている。モードを切り替えるとスロットル開度を表示することが可能だ。発進時のアクセル開度が17%であったとしても(ごく普通に発進したつもり)、モーター走行はほんの一瞬で終わってエンジンが始動し、ドンとくる。
冷間始動時は触媒を短時間で適温まで上昇させるため、エンジン回転を高めに制御するのが一般的だ。スバル車も例外ではなく、始動直後のエンジン回転数は高い。今回の試乗では1度しか経験する機会はなかったが、フォレスター・アドバンスの始動直後のエンジン回転数は1800rpm前後で、近所迷惑レベルで騒々しかった。
あまりに騒々しいのでアイドル回転が落ち着くまで待つことはせず、Dレンジに入れて発進。すると、触媒の暖機が完了したのか、モーター走行に切り替わって途端に静かになった。「静かにしてほしいのはそのタイミングじゃないのに」というのが実感である。せっかくモーターを搭載しているのだから、冷間始動時であっても始動直後はモーター走行を基本とし、最初にエンジンが始動したタイミングで上手に触媒の暖機をできないものだろうか。
アクセルオフ時やブレーキング時は、減速エネルギーを電気に変換する回生ブレーキが働く。いまどきのハイブリッド車にしては珍しく、フォレスター・アドバンスはモーターを搭載したクルマに特有のヒューンという音が車室内に容赦なく侵入する。ハイブリッド車が出始めの頃ならいざしらず、この音を「効率の高さを象徴する未来的な音」と好感をもって受け入れる層がどれほどいるだろうか。どう受け止めるにせよノイズには違いなく、昨今のトレンドからしても聞かせないようにするのが筋だろう。
2.0ℓエンジンだけを搭載した場合に比べ、低出力であってもモーターを加えただけのメリットはあるのだろう。だが、日常使いで電動化のメリットは感じづらく、むしろモーターを追加したがゆえに顔を出してしまう、感じたくないショックや音が気になる。それらが解消されれば、もう少し気持ち良く付き合えそうだが……。
スバル・フォレスター アドバンス
全長×全幅×全高:4625mm×1815mm×1730mm
ホイールベース:2670mm
車重:1640kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
エンジン形式:水平対向4気筒DOHC
エンジン型式:FB20
排気量:1995cc
ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm
圧縮比:12.5
最高出力:145ps(107kW)/6000rpm
最大トルク:188Nm/4000rpm
過給機:×
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
モーター:MA1型交流同期モーター
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:48ℓ
最高出力:13.6ps(10kW)
最大トルク:65Nm
WTLCモード燃費:14.0km/ℓ
市街地モード11.2km/ℓ
郊外モード14.2km/ℓ
高速道路モード16.0km/ℓ
車両価格○315万7000円