ドライバーの監視のもと、車両の操舵を制御することで車線変更に必要な車両制御動作を自動化するシステムに関する、日本発の国際標準が発行された。これにより、車両制御システムを搭載した自動車が普及することで、高速道路などにおける交通事故の減少につながることが期待される。
自動車による接触事故のうち、多勢を占める直進中の事故被害を軽減する目的で、衝突被害軽減ブレーキ装置の性能要件を定めた国際標準として、ISO 22839:2013(前方車両追突被害軽減ブレーキ装置)や、 ISO 19237:2017(歩行者検知・衝突被害軽減ブレーキ装置)などが発行されており、これらの装置を搭載した普通乗用車が市販されている。一方で、自動車による接触事故は車線変更中にも発生しており、2015年の統計では、7,000件を越える死傷事故が発生している*1。また、一般的に車線変更動作を苦手とするドライバーは多く(図1)、特に進行方向に加え隣接車線の後方を確認しながらの運転操作は、ドライバーの大きな負担となっている。
このような背景を受け、車線変更操作の一部を自動で行い、ドライバーの負担を軽減するシステムを搭載した車両が市販されている。今般、自動車線変更システムの要求性能を明確化することで、一定の性能を有したシステムがより広く普及することを目指し、日本から国際標準の提案をした。
今回発行された国際標準 ISO 21202(*2)(部分的自動車線変更システム)では、ドライバーによる車線変更の指示に基づきシステムが車線変更動作を行うタイプ1と、システムによる車線変更の提案に対しドライバーが承認するとシステムが車線変更動作を行うタイプ2に分類され、それぞれに要求される要件やその検証試験方法が定義されている。タイプ1においては車両近傍のドライバーの死角となるエリアを、タイプ2においてはより後方のエリアに対する障害物検知機能を備えることを本規格では要件としている。
本規格は、日本が国際議長を務めるISO(国際標準化機構)/TC204(ITS 高度道路交通システム)/WG14(走行制御)に、日本から2017年8月に提案し、2020年4月27日に国際規格として発行された*3。
ドライバーが苦手とする車線変更操作の大部分をシステムが行うことで、ドライバーは周辺の安全確認に集中することができる。本規格の発行により、一定の性能を有したシステムを搭載した車両が世界に普及し、自動車による交通事故の減少につながることが期待される。また、国連SDGs*4の一つである2020年までの世界道路交通事故死傷者半減にも寄与することが期待される。
*1 引用:平成29年3月 一般社団法人日本自動車工業会、公益財団法人交通事項分析センター 四輪車が車線変更中に発生した死傷事故の分析
*2 正式名称:
ISO 21202:2020 Intelligent transport systems — Partially automated lane change systems (PALS) — Functional / operational requirements and test procedures
*3 今回発行された国際規格は、経済産業省の委託事業である省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費(省エネルギー等国際標準開発(国際標準分野))(高度道路交通システムに関する国際標準化・普及基盤構築)の成果の一部によるものです。
*4 国際連合広報センター(持続可能な開発のための2030アジェンダに関連する統計委員会活動)
持続可能な開発のための2030アジェンダに関連する統計委員会の活動について(http://www.unic.or.jp/files/a_res_71_313.pdf)