20年ぶりとなる全面刷新を図った第4世代のジムニーの登場したのは、2018年7月のこと。もう登場から2年近いの歳月が経過しているにも関わらず、未だ長納期化は解消されていないという人気車だ。歴代ともに、熱心なファンを抱え、オフロード走行を楽しむ人も多い。しかし、新型を購入する多くのユーザーは、やはり街乗りが中心なのではないだろうか。そこで、街乗りでのジムニーの実力を検証してみた。
REPORT&PHOTO 大音安弘(Yasuhiro Ohto)
受け継がれるクロカンの伝統
全面刷新が図られた新型ジムニーの発表直後に、私は、3世代目(現行型のひとつ前)のジムニーを借りたことがある。先代といえ、20年前のクルマだ。内外装は、まさに質実剛健(2代目と比べると大進化であったが……)。
街中に連れ出せば、高速巡行は煩いし、乗り味も固め。クロカンとは無縁の生活を送っていたこともあり、正直、ジムニーを日々の愛車にするのは覚悟が必要というのが、私の本音であった。ただ未舗装路に持ち込むと、ジムニーの印象は一変。道にある凹凸も水たまりも、ものともせず、グングンと突き進んでいく。なんとも頼もしい相棒を手にしたような興奮に包まれ、ジムニーの素顔に感動を覚えたのだった。
その後、新型ジムニーの試乗会にも参加することができ、本格的なオフロードコース走行も体験。小ささと軽さを活かし、身軽に悪路を突き進んでいく姿は、私の冒険心を刺激し、このままジムニーと旅に出たいと思わせてくれた。
その一方で、ジムニーと暮らす生活についても、気になった。もちろん、軽自動車ベースのクルマなので、扱いに困ることはないだろう。ただ多くのユーザーは、ジムニー1台を所有し、ほとんどの時間を街中で過ごすだろう。その視点で検証してみたかったのである。
街中でも映えるスタイル
ジムニーの人気の秘密は、そのクロカンらしいスタイルだろう。原点回帰ともいえる直線を強調したスクエアなデザインは、オフロードカーらしい柏陵に満ちている。それでいながらも、愛嬌ある丸目ライトのマスクやポップなカラバリなど、懐かしさと共に、新しさもしっかりと表現されている。それが、SUVが溢れる街中でも、埋もれない個性となっているのだ。
登録車となる「ジムニーシエラ」は、シャシーやボディ共にジムニーと共有するが、ワイドフェンダー化とタイヤのサイズアップにより、迫力を増強。よりクロカンらしさがある。大径タイヤや1.5ℓの自然吸気エンジンなどのメリットもあるが、このスタイルに惚れ込んでという人も多いはずだ。
もちろん、このデザインは雰囲気だけのものではない。見切りの良さや走破性の確保、降雪時の雪がたまりにくい、外板の剛性アップなどの明確な理由に裏付けられている。そうした配慮が、クロカンらしさへと結び付く。
割り切りも必要なキャビン
実用面から見ていくと、キャビンの広さは、軽のジムニーも登録車のシエラも共にまったく同じで、搭載される車内の装備や機能にも差はない。
ダッシュボードもエクステリア同様に直線基調となるが、これは傾斜路を走る際に、傾きを直感的に掴む狙いもある。助手席でもしっかり身体が保持できるよう、大型グリップハンドルが備わる。かっちりとしたメーターベゼル、シンプルな操作系統などタフさを強調したデザインでもあり、軽自動車っぽさは薄い。
機能を見ていくと、ナビ位置も最上部となったことで、視線移動も少なて済むようになり、メーターパネルもスピードメーターとタコメーターを独立させ、大型化したことで、操作系の視認性も向上されている。一方で、パワーウィンドウの操作ボタンは、ドアからシフト前へと移設。この点は、好みが分かれそうだ。
意外だったのは、トランスファーレバーが復活したこと。先代は電気式でボタン操作による切り替えが可能だったが、新型は、アナログなシフト式に。これはトランスミッションにかかわらずだ。ただ本物であること示すアイテムとして、ユーザーには受けそうだ。
前席は、直線的なスタイルの恩恵により、シート周りのスペースもしっかり確保。ガラスエリアも広いので、開放感もある。座面も、しっかりしており、幅も確保されている。これならば、長距離ドライブでも疲れは少ないだろう。
一方で、後席は、シートがシンプルな点は良いとしても、足元スペースが狭いことは気になる。やはり姿勢正しく座っていても、移動時間が長ければ、少しは足を崩したりしたくなるもの。ただ、サイズに制約のあるジムニーに、そこまで望むのは酷かもいしれない。また後方は窓も開かないので、開放感もやや薄れ、大柄な人は、後席のアクセスもやや面倒となる。
日常使用での最大の課題は、ラゲッジスペースだ。4名乗車モードでは、ちょっとした物しか詰めない。スーパーの買い物でも、まとめ買いとなれば、後席を荷物置き場として使うことになる。ただゲートが横開きなので、狭いスペースでも、ラゲッジにアクセスできるのは便利だ。
ジムニーで快適性や積載性を重視するならば、2名乗車、最低でも3名までに留めておくべきだ。使い勝手の良さだけは、今の考え抜かれた他の軽自動車には、まったく及ばない。また小物入れなども、必要最小限となる。
どこでもドアの感覚は街中でも変わらない
道を選ばず、どこへでも連れていってくれる。まさに「どこでもドア」といえるジムニーだが、それは街中でも同様だ。軽自動車基準のコンパクトさは、都市部の狭い路地も、ものともしない。
唯一注意すべきは、全高が1730mm(ジムニーは1725mm)あることだ。機械式立体駐車場では、高さ制限に引っかかることもある。ただジムニーは、タイトな駐車場にも適応できる強みがある。試しに、路上パーキングを利用してみたら、このサイズなら、前後にクルマがいる縦列駐車でも、楽々と行なえる。これは出先の駐車場探しでのアドバンテージとなる。
運転席からの視界は良好で、見切りも良い。前後のオーバーハングも短いので、狭い場所での方向転換も楽々だ。ステアリング操作も、大型クロカンのような癖がないのも美徳といえる。また時代が求める、先進の安全運転支援機能も採用されたのも朗報だ。
エンジンについては、静粛性では1.5ℓの4気筒エンジンであるシエラに分がある。660ccの3気筒ターボだと、軽快さがあるが、エンジン音も大き目。これも味と言うこともできるが。ここも好み次第といったところだ。組み合わされるトランスミッションはATだと、今どき珍しい4速となる。信頼性と耐久性を重視してのことだが、街乗りだと、やはり5速は欲しい。MTが5速となるだけに、ここは進化が望まれるところだ。
高速走行を苦手とするジムニーだが、この点も改善が図られたようだ。80km/h程度までなら、新型ジムニーは、かなり快適である。但し、高速などの100km/h巡行となると、高さがある分、やはり横風の影響は受けやすい。また悪路走破性を高めるための駆動系の低めのギヤ比も、高速走行では走行音を高める要因となる。
自慢の4WDは、悪路や雪上などのための作りとなっていて、舗装路では使用できない。普段は、FR車だ。このため、高速走行の安定性向上などには活用できないのである。
それでも従来型と比較すると、乗りやすくなり、車内へ伝わる音は抑制されている。ただ他の乗用SUVのイメージとはまったく異なるので、ジムニーの購入前には、街中だけでも試乗はしておくことをおススメしたい。
不器用さもまた魅力
全面刷新された新型の人気は、未だ衰えることを知らない。SUV人気も後押ししているに違いないが、消費者の本物志向も影響しているのだろう。
クロカンが故、街乗りでは、不便や不足を感じる点は、きっとある。今回は、そんな視点で、ジムニーを観察し、あえて不利な点にも触れた。しかし、それもすべて理由があってのこと。ジムニーの主戦場は、悪路や豪雪地などの厳しい環境下であり、そこで命を預けられる存在であることが宿命なのだ。
ジムニーは、あくまでクロカンであることを忘れてはならない。小さくとも本物であることが大きな魅力。それが理解出来れば、これほど頼もしい相棒はないだろう。
スズキ ジムニー シエラ(4AT)
全長×全幅×全高:3550×1645×1730mm
ホイールベース:2250mm
車両重量:1090kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
排気量:1460cc
ボア×ストローク:74.0×84.9mm
圧縮比:10.0
最高出力:75w〈102ps〉/6000rpm
最大トルク:130Nm/4000rpm
燃料タンク容量:40L
トランスミッション:4速AT
駆動方式(エンジン・駆動輪):フロント・4WD(※パートタイム式)
サスペンション形式:Ⓕ3リンクリジッドアクスル Ⓡ3リンクリジッドアクスル
ブレーキ:Ⓕディスク Ⓡドラム
乗車定員:4名
タイヤサイズ:195/80R15
WLTCモード燃費:13.6km/L
車両価格:205万7000円