一部でやや沈静化の動きは見られるものの、SUVは依然として日本を含め全世界的に人気が高く、その裾野も徐々に広がりつつある。
「売れ筋国産SUV長距離実力テスト」と題したこの企画では、2020年1~3月の販売台数ランキングで上位につけた国産SUV4台をピックアップ。SUVユーザーに多いであろうアウトドアレジャーや帰省での使用を想定し、各車とも約500kmを走行して長距離長時間での疲労度を測るとともに、都心の町中や高速道路、郊外の一般道やアウトドアスポット近隣の荒れた路面で走りの実力をチェックする。
最後の4本目は、CセグメントのCX-5と、BセグメントのCX-3との中間に位置するパッケージングが与えられた、マツダの新たなクロスオーバーSUV「CX-30」。横浜市内の市街地から首都高速道路と東名高速道路、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)を通過して、埼玉県秩父市内の一般道とワインディングを走り、関越自動車道経由で横浜市内に戻るルートを走行した。
今回テストしたのは、世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を実現したSKYACTIV-X(スカイアクティブX)エンジンを搭載し、本革シートなどを装着する最上級グレード「X Lパッケージ」の6速AT・4WD車。
メーカーオプションのソウルレッドクリスタルメタリック、スーパーUV+IRカットガラス&CD/DVDプレーヤー&地デジチューナー、360°セーフティパッケージ、ボーズサウンドシステム+12スピーカー、電動サンルーフに、ディーラーオプションのナビゲーション用SDカードなど、約60万円分のオプションが装着されていた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、マツダ
マツダが近年掲げているクルマ作りの思想は、筆者が抱いている理想のクルマ像に極めて近い。
「引き算の美学」の考え方に基づいてプレスラインや分割線を極力減らし要素を削ぎ落とした内外装デザイン、自然な感覚で運転できることを追求した「人間中心」の運転環境、統一感を持たせたスイッチの操作感、ドライバーにクルマの存在を意識させないほどの「究極の人馬一体」を目指したパワートレイン・ボディ・シャシー等々、ほぼすべてにおいて全面的に賛同できると言ってよい。
無論これらの考え方は、個別に見ればマツダが初めて掲げたものとは限らず、個々のブランドや車種においてはすでに実現されていることも少なくない。だが、これらをまとめて体系立て、一般ユーザーにも明言したうえで、全車種共通の設計思想として展開していることにこそ、大きな価値があると思う。
しかし、言うは易く行なうは難し。掲げる理想と実車の仕上がりとのギャップに首を傾げることはままあるものの、それでもマツダは、車種によっては年に1回以上の頻度で改良を重ね、着実に理想へと近づいていった。
そんなマツダの最新モデルが、2019年9月に発売されたCX-30である。そして2020年1月、待望のSKYACTIV-X搭載車が追加された。
実車を太陽光の下で目の当たりにすると、並のプレミアムブランドのクルマが裸足で逃げ出すほどの美しさと高級感に、ため息をつかずにはいられない。特に、「余白」「反り」「移ろい」をテーマとして、光と陰のゆらめきを表現したサイドビューは、深みのある陰影とともに車体の造形が鮮明に現れるソウルレッドクリスタルメタリックのボディカラーによって一層際立ち、観る者の視線を釘付けにする。
なお、マツダが「深化した魂動(こどう)デザイン」と呼ぶこのテーマは、先にデビューしたマツダ3より打ち出され、今後発売されるマツダ各車に共通して用いられる見込みだが、マツダ3とCX-30とでは決定的に異なる点がある。それは、マツダ3はあくまで美しさ最優先でデザインされているのに対し、CX-30はパッケージングありきで設計されている、ということだ。
前述の通りCX-30はCX-5とCX-3の間に位置するモデルとして企画され、その中で日本の立体駐車場に入庫できることも設計要件として盛り込まれたため、全長4400mm以下、全幅1800mm以下、全高1550mm以下に収めることが至上命題となっていた。また、後席を含めて大人がくつろげるキャビンと、ヤングファミリー日常的に積む荷物を載せやすいラゲッジスペースを、美しいデザインと両立させることも、CX-30では大きな開発テーマに掲げられていた。
そうした課題を解決するうえで要となっているのが、居住性確保のためバックドアウィンドウを後退させるとともにDピラーを寝かせたアッパーボディ、塗装部位=車両全体をスリムに見せるボディ下部の無塗装樹脂パネル、荷室開口部を拡大しつつ軽快に見せるためキャビンから大きく張り出させたリヤフェンダーとバックドアパネル中央のくびれである。このうち無塗装樹脂パネルは、ピンポイントで観ると分厚く感じるのが正直な所ではあるが、擦ってしまった際の修理費を低減できるという点では大いに歓迎すべきだろう。
また、これらデザイン上の工夫が、車両感覚の掴みやすさに直結していることも、筆者は賞賛すべきポイントとして最大限強調したい。マツダ3はセダン・ファストバック問わず車両感覚の掴み所が皆無に等しく、絶対的な視界も狭いため、非常に運転に気を遣うクルマになっていた。それだけに、「深化した魂動(こどう)デザイン」がCX-30ではデザインのためのデザインに堕すことなく、機能に裏付けられたものへと“進化”したことに、筆者はほっと胸をなで下ろしている。
インテリアはCX-30に限らず近年のマツダ車に共通して、その優美さと質感の高さに感嘆させられるものだが、従来のマツダ車に対する数少ない不満が、ファブリック内装におけるカラーバリエーションの乏しさ、具体的にはブラックしか用意されないことだった。
テスト車両は「Lパッケージ」のリッチブラウン内装×ブラック/チャコール本革シートだったが、CX-30の場合、同じ「Lパッケージ」にはピュアホワイト本革シートもある。そして他のグレードは、内装色がネイビーブルーとなり、ファブリックシートはブラックまたはグレージュから選択できるようになった。
テスト車両の組み合わせも充分にエレガントだが、より攻めているコーディネートという意味でも、筆者はネイビーブルー内装×グレージュファブリックシートの組み合わせを一推しとしたい。
シートは前後とも座面が若干短いものの背もたれは大きく、サイドサポートは硬く大きいためホールド性は良好。一方、中央のクッションと本革の表皮は柔らかめで、フィット感も優れている。後席は身長176cm・座高90cmの筆者が座っても頭上・膝回りとも10cmほどの余裕があり、まさに“必要充分”と言うべきその絶妙なパッケージングにまたも感心させられてしまった。
それでは、肝心の走りはどうか。プラットフォームを共有するマツダ3では、ボディタイプ・グレードを問わずリヤが常に跳ねる傾向にあった。CX-30はそれをベースに最低地上高を35mm上げ、ホイールベースを70mm短縮される一方、車重は40kg重く、タイヤサイズは215/45R18 89Wから215/55R18 95Hとなるなど、プラスマイナス双方の要素があり、試乗前に大きな懸念材料となっていた。
旋回そのものは、全高1540mmとはいえやや腰高感があり、大きなロールを許容する味付けにはなっているものの、ロールのスピードは抑えられているため、ロール量にさえ慣れればターンイン時の恐怖感は少ない。また、旋回中に大きなギャップに見舞われても、破綻の予兆すら見せることなく姿勢変化が素早く収束するため、全幅の信頼を置いてコーナリングを楽しめる。
こうした走りの良さには、エンジントルクとブレーキの個別制御を利用して操縦安定性向上を図る「G-ベクタリングコントロール」と、電子制御多板クラッチ式4WD「i-ACTIV AWD」の助けも大きく寄与していると思われるが、これらもやはり存在を意識させることは全くなく、運転そのものに集中することができた。
では、エンジンの性能やフィーリングはどうかと言えば、「SKYACTIV-G 2.0」よりすべてにおいて上回っているのは間違いない。が、誰もが乗った瞬間に気付き感動するほど大きな差があるかといえば、疑問符が付く。「SKYACTIV-D 1.8」と比較すると、トルクと燃費では敵わないうえ、「SKYACTIV-D 1.8」もディーゼルとしては並外れたレスポンスの良さを備えているのが、また難しい所だ。
マツダがCX-30で掲げている開発思想やセールスポイントは、ほとんどすべて実現されているのは間違いない。だが「SKYACTIV-X」に限定すれば、少なくとも現時点では「SKYACTIV-G 2.0」に対し70万円弱、「SKYACTIV-D 1.8」に対し40万円強もの出費を上乗せしてまで選ぶ価値はない。筆者がもし購入するなら、選ぶのは間違いなく「SKYACTIV-D 1.8」を搭載する「XDプロアクティブ ツーリングセレクション」の4WD車だ。
せめて「SKYACTIV-X」搭載車が「SKYACTIV-D 1.8」搭載車と同等の価格になるか、「SKYACTIV-X」搭載車にしか与えられない特別な装備が大幅にプラスされれば、もっと積極的に薦められるようになるのだろうが。
■マツダCX-30 X Lパッケージ4WD
全長×全幅×全高:4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車両重量:1550kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1997cc
エンジン最高出力:132kW(180ps)/6000rpm
エンジン最大トルク:224Nm/3000rpm
モーター最高出力:4.8kW(6.5ps)/1000rpm
モーター最大トルク:61Nm/100rpm
トランスミッション:6速AT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:215/55R18 95H
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:16.4km/L
市街地モード燃費:13.4km/L
郊外モード燃費:16.5km/L
高速道路モード燃費:18.1km/L
車両価格:371万3600円