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よくわかる自動車技術:第24号 素材の貴賤


自動車をはじめとした工業製品には多種多様な素材が使われている。金属が一般的だが、プラスティックもあれば、ゴムもあれば、ガラスもある。様々な素材はそれぞれに物性という「個性」を持っていて、その個性こそが使用箇所と用途を決めている。


TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 技術者は特定の箇所に使われる素材として何が適切か、様々な角度から吟味するのだが、その指標はケースバイケースである。強さを求められる場合もあれば、耐熱性が大事な場合もあるし、下世話なハナシで価格が一番重要だったりもする。すべての項目で満遍なく優れた個性を持つ素材があるわけではないので、技術的な優劣だけでなく、商品性、つまりは見た目やネームバリューで選択する場合もなきにしもあらず。




 だから、一般消費財については「カーボン製」だの、「チタン製」だの、使われている素材が如何に優秀かということが、キャッチコピーとして謳われることがしばしば発生する。素材の物性など大して関心のない大多数の消費者には、これが案外効くらしく、プラだからダメ、金属だから素敵、という風評が立つことになる。装飾品のように機能性がないものならそれでもよいのだろうが、機能を重視される製品では、こうした風評を真に受けて無駄に高いモノを買わされるケースもあるだろう。自転車やゴルフクラブ、釣り竿、カメラ等々、素材の「貴賤」が商品価格を決定づけているものは多いから、由々しき問題ではないか、と思う。




 自動車もまた多分にそういった側面を持つ商品であり、技術を紹介するメディアとしては、純粋に技術的見地に立った素材の長短を示し、冷静に商品を選んでもらいたいと、願うばかりなのである。

(PHOTO:HYUNDAI)

 自動車に使われる素材の代表は、鉄とアルミであろう。


 エンジンのシリンダーブロックは鉄かアルミだし、ボディは鉄が大多数だがアルミ製もある。ホイールは今ではアルミ製の方が多くなった。




 数多く存在する金属の中で、最もポピュラーなのは鉄だ。ビッグバンで宇宙が誕生した時に存在した元素は水素だけだったようだが、それが冷やされていく内に固まって次第に重い(元素番号の大きい)元素が生まれてきた。鉄の元素番号は26。つまり宇宙で26番目に誕生した元素であり、高熱の水素が冷えて固まる過程で最後に生成される物質だ。これ以上重い元素は星同士の衝突(隕石落下もその一部)のような極めて大きいエネルギーが加わらないと自然には作られないので、少なくとも地球上では存在量が極めて少ない。逆に言えば、鉄は最後に出来るだけあって大量に存在する。




 鉄だけでなくあらゆる金属は、地中に埋まっている原材料そのものは素材として無意味であり、加熱して不純物を取り除き、物性を純粋に安定させてはじめて製品化される。鉄はこうした精錬の工程が他の金属に比べて比較的単純で、ぶっちゃければドロドロに溶かしてから冷まして固めれば素材として出来上がる(実際はもっと複雑だが)。あらゆる金属の中で最も入手しやすく、木材や土器に比べれば遙かに硬くて強い。だから鉄を最初に使った製品は刀だった。強い素材は武器になる。自動車や船や飛行機も、発展する契機は兵器として優秀だったからで、当然強い金属が使われる。




 自動車のボディは最初馬車の制作技術がそのまま転用されたので木製であった。けれどもエンジンは木では作れない。産業革命以降、石炭を使って鉄鉱石を精錬する方法が確立し、自動車用のエンジンとして鉄が使われる素地は整備されていたので、エンジンは当然鉄製になった。

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