スバルのイメージは日本では水平対向エンジンやシンメトリカルAWDだが、メインマーケットであり、屋台骨を支えるアメリカでは、異なるイメージで捉えられている。スバルはどこを向いてクルマを開発しようとしているのか。どこを向くか、なにを目指すかによって、取り組むべき技術も影響を受ける。まずは、スバルの強みを自己分析することから始まった。次の10年もスバルが「らしい強み」を維持し続けるために。1月に開催された「技術ミーティング」を読み解いてみる。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO&FIGURE:SUBARU
アメリカでスバルが売れている理由は「安全」「AWD」「FUN to DRIVE」
アメリカにおけるスバルの強みのひとつに安全機能を挙げているが、これについては数字が示している。販売台数100 万台あたりの死亡事故数を調査すると、スバルはアメリカにおける主要販売ブランドの平均に比べて断トツに事故率が低い。日本でも死亡重傷事故低減をリードしていることがわかる。
「スバルは安全のルールや評価方法が決まる前から、お客様の生命を守る衝突安全性能に力を入れてきました。90 年頃からは、開発部門のなかで『衝突安全世界一』をスローガンに取り組みを強化してきました。『安全にはお金を払っていただけない』と言われるなかで、地道に性能改善を行なってきました。そうすると、ときおり海外のお客様から、『ひどい交通事故に遭ったが、スバルに乗っていたから助かった』と感謝のお手紙をいただくことがあり、それを我々のモチベーションとして取り組んでいます」(大拔氏)
アイサイトはどう進化させるのか?
真面目なクルマづくりが報われた格好である。スバルは安全思想を0次安全、走行安全、予防安全、衝突安全の4つに分類している。0次安全は視界の良さ(運転者から見やすいこと)やパッケージング(疲れにくいこと)を指す。視界の良さが「そう言っているだけ」でないことを、筆者はスバル車の試乗で何度も体感している。おそらく、スバルに熱くなる人たちにとっても、お気に入りのポイントのひとつだろう。
走行安全はクルマが運転者の思いどおりに動いてくれること。例えば、「目に前の落下物を正確に避けられるか。避けた後に破綻して横転しないよう制御できるか」といった内容を指す。予防安全はスバルのお家芸であるアイサイトに代表されるプリクラッシュセーフティだ。人間の見落としを機械が補う考えである。
今後はどうしていくのか。前述した4つの安全性能を強化していくのに加え、「つながる技術」と「知能化技術」を活用することで、「30年に死亡事故ゼロ」の達成を目指す。日米の死亡交通事故(日本は重傷事故を含む)を分析したところ、日本ではアメリカに比べて歩行者の比率が高いという顕著な違いはあるものの(歩行者事故の通報やサイクリストを保護するエアバッグを開発中)、自車起因か他車起因かで分類すれば、日米とも6~7割は自車起因で、残りは他車起因のもらい事故であることがわかった。
死亡交通事故ゼロに向けたスバルのシナリオは、ADASの進化によって交通事故全体を削減。残りの35%はスバルが得意とする衝突安全性能を強化して乗員の傷害を軽減したいとする。さらに、コネクトを活用したAACN(事故自動通報)によって救命率を上げる。ADAS の進化を代表するのが、アイサイトの進化だ。20 年代前半に投入される新世代アイサイトは、事故回避機能を強化する。これまでのアイサイトは直線に近い状況での飛び出しや追突を防止する機能だったが、次世代は、交差点や市街地事故の対応を強化する。例えば、右折先の横断歩道を渡る自転車や歩行者、出会い頭の事故などだ。これらの事故を回避する。
また、ドライバーの状態の変化や操作ミスへの対応も強化する。次世代アイサイトは路肩に白線がなくても通れる範囲を認識し、路肩から落ちて横転事故に至るケース(アメリカに多い)を防ぐ。運転者が意識を失った際は、ハンドル操作を行なう機能も追加する。
さらに、こだわりのステレオカメラを次世代化するとともに高精度地図ロケーターを配置し、フロントにはコーナーレーダーを追加することによって、車線変更の支援を行なったり、カーブを予測して自動減速したりする機能を付加する。高速道路上の渋滞時ハンズオフは実現を目指す。「皆さまに買っていただける価格帯で提供するのが我々の使命であると考えている」と、大拔氏は強調した。
スバルらしさを際立たせる技術に位置づける「安心と愉しさ」については、スバルグローバルプラットフォーム(SGP)を知能化と融合させて進化させると説明する。SGP で本格的に取り入れた「動的質感」に関しては、車両応答の速さ、車両応答の正確性、外乱に対する直進性の高さに加え、「人体構造にも着目していく」との説明があった。マツダしかり(マツダ3以降)、ホンダしかり(新型フィット)で、人体構造への着目は、シートの構造に限定せずクルマの動きを突き詰めていくうえでのトレンドとなっているのを、スバルの情報発信からも感じる。
車両応答の速さについての解説があった。ステアリングを切ってからリヤタイヤが横力を発生するまでを実測したところ、ステアリングギヤボックスや車体、サスペンション、タイヤと力が伝わるのに0.45 秒かかったという。このうち65%がハードウェア起因であり、この応答遅れの短縮を目指しているのがSGPだ。20年代前
半の投入を見込む仕様は、ボルトの締結を見直してステアリングシステムの摩擦を減らすこと。さらに、車体のヒステリシスを改善すること。これらの改善により、レーンチェンジでの収束時間が短縮され、振幅も減るという。
車両応答の正確性は車体やサスペンションの精度向上により行なう。これは、AD/ADAS の安心感を高めるためにも必要だ。直進性の高さについては空力を活用するが、イギリスのCARFと協力し、2.74kmの直線を持つ実走風洞で試験を行なう計画が興味深い。
スバルらしさを際立たせるもうひとつの技術は環境技術だ。「ガソリンエンジンについては、スバル特有の技術である水平対向エンジンをさらに進化させる」との言及があったが、20 年中の発売が予定される新型レヴォーグへの投入が決まっている、新設計の1.8ℓ水平対向4 気筒エンジンがそれだ。「リーンターボ」という興味深いワードを聞くことができたいっぽうで、詳細の説明はお預けだった。どのような技術でリーン燃焼を実現しているのか、NOx 後処理はどうするのかといったさまざまなことが気になる。本誌で詳細を追いかけていくことになるだろう。新設計のこのエンジン、最大熱効率は40%を超えるそう。30年には45%を目指すという。
その30年には、EVとハイブリッド車の比率が40%になる予定だと、電動化のロードマップについて説明があった。しかし、トランスミッションに関しては一切の情報開示がなかった。まだ隠している?(ことを期待したい)。