長いこと導入が望まれていたシトロエン・ベルランゴが、ついに日本へやってきた。それも、兄弟車であるプジョー・リフターと同時に上陸するという、フランス車ファンならずとも諸手を挙げて大歓迎したくなるビッグニュースである。最大のライバルは、もちろん王者ルノー・カングー。しかし実際に乗ってみると、見事にカングーとは異なるキャラクターが与えられていたわけで……。
REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
ディーゼル+8速ATがもたらす上質な走り
日本でルノー・カングーが独自のマーケットを切り拓いたのは周知の通りだ。もともと商業バンに出自を持つが、その豪華さを追い求めない潔さがタフな道具感を醸し出し、さらにフラフランス生まれならではの異国情緒が日本人の心にを揺さぶり、日本におけるフランス車としては驚異的と言ってもいいほどの人気を博している。そしてこのカテゴリーは、日本ではカングーの独占的なマーケットとなっているのである。
一方で世界に向ければ、欧州はもちろん、南米や北アフリカやロシアといった多くの市場にカングーのライバルが存在している。その代表的な存在がシトロエン・ベルランゴとプジョー・リフターだ。
その両者が2019年に日本への導入を果たした。正規ラインナップとされるのは20年の秋以降だが、19年末に「デビューエディション」が上陸し、このほどテストドライブの機会を得たというわけである。
実際に対面したベルランゴは、想像していた以上に「乗用車」然としている。カングーが意図的に商業車らしさを色濃く残し、とくにメガーヌやルーテシアなどとの近似性を感じさせないのに対し、こちらはC3やC3エアクロスやC5エアクロスと同じ流れを汲むアピアランスを与えられている。
インテリアに乗り込むと、その印象は一層強くなる。スポーツカーのような異形ステアリングやダイヤル型シフトセレクターなど、もはやプレミアム感すら漂う仕立てだ。上を見上げれば大きなガラスルーフ越しに空が広がっている。
しかしベルランゴの上質さを決定的なものにしているのは、最新のスペックが与えられたパワートレインがもたらす走りである。
エンジンは1.5Lディーゼルターボで、トランスミッションはなんと8速ATだ。1.2Lガソリンターボに6速DCTもしくは6速MTを組み合わせるカングーのみずみずしい走りにもクルマ好きとしてはおおいに惹かれるものがあるが、テクノロジーとしての先進度、贅沢さは圧倒的にベルランゴが上回る。
低速域から十分すぎるトルクを発生するのはもちろん、きめ細かく制御されたトランスミッションが一瞬のタイムラグも許さない。アクセルを踏めば、すぐさまドライバーが望むだけの加速力を生み出してくれるのだ。
そしてタップリとしたクッションが奢られたシートの快適さとホールド性はカングーと甲乙つけがたい。今回は限られた時間での試乗だったが、ぜひとも2台をロングドライブに連れ出してみたいものである。
こんなチョイ乗りドライブでもわかったのは、ベルランゴとカングーは、確かに広い意味で言えば真っ向勝負のライバルだが、カングーを良く知るドライバーが乗れば、明らかに異なるキャラクターを持っているということ。
カングーはシンプルかつタフな道具感が魅力で、ベルランゴはパワートレインも含めて最新スペックが与えられ、上質感や高級感すら味わえるシトロエンならではの前衛的サルーンなのだ。
どちらがいいとか悪いという話ではない。価格はカングーの方が60〜70万円も安く、それだって無視できない魅力のひとつだ。
我々にしてみれば、魅力的な選択肢がひとつ、リフターを含めればふたつも増えたことが喜ばしい。……なんて言っているうちに、なんとオペル・コンボライフも日本に導入することが決まったではないか!
20年から21年にかけ、いよいよ日本でもフルゴネット カテゴリーが盛り上がる予感である。
■シトロエン・ベルランゴ デビューエディション
全長×全幅×全高:4405×1855×1840mm
ホイールベース:2785mm
車両重量:1590kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1498cc
ボア×ストローク:75.0×84.8mm
圧縮比:16.4
最高出力:96kW(130ps)/3750rpm
最大トルク:300Nm/1750rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式(エンジン・駆動輪):FF
ハンドル位置:右
燃料タンク容量:50L
サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトーションビーム
ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡディスク
タイヤ:ⒻⓇ205/60R16
車両価格:325万円(完売)