2019年11月に商品改良を受けたマツダ・ロードスター。RFは「リトラクタブル・ファストバック」で、トップは電動格納式のハードトップになる。最新のロードスター(RFとソフトトップ仕様)に連続して試乗したジャーナリスト世良耕太がロードスターRF VSの魅力を検証した。あえてトランスミッションはATを選んでみた。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
「オープン」にさほど価値を感じない筆者が考えるロードスターRFの美点
お目当てのクルマにMTとATの設定がある場合、筆者はMTに食指を動かすタイプの人間だ。マツダ・ロードスターが相手でもきっとそうする。世の中そういう人間ばかりではないことは、もちろん承知している。聞けば、ロードスター(ソフトトップモデル)のMT:AT比率はほぼ半々。RT(リトラクタブルハードトップモデル)の場合は7割がATだという。
実は筆者も「オープン」であることにそれほどの価値を感じていない。どちらかというと、いや、圧倒的に、閉じた空間にこもっているほうが好きだ。ロードスターはソフトトップとMTの組み合わせが王道で、それ以外は邪道と決めつけたものではない。ウイスキーだって、いろんな飲み方があれば好みも人それぞれだ。ストレートで飲むのが正統で、それ以外は邪道と分類したがる思考と同じである。
「どっちがいい?」と聞かれたら迷わず「MT!」と即答する筆者ではあるが、あえてATに乗ってみた(ま、後でしっかりMTにも乗るのだが)。RFの中間グレードに位置するVSである。2019年11月14日の商品改良で、VSの本革シートにはパーフォレーション(穴開け加工)が施された。また、シートのステッチカラーはグレーになり、ドアシルにステンレスのスカッフプレートが配され、上質感が増した。
実用面では、マツダコネクトがApple CarPlayとAndroid Autoに対応したのがニュースだ。先進安全性能では、アドバンスト・スマートシティ・ブレーキ・サポート(アドバンストSCBS)が夜間歩行者検知機能に対応した。
ボンネットフードの稜線がそのまま車室内に入り込み、インナードアパネルにつながる様子が印象的だ。ボディカラーがスノーフレイクホワイトパールマイカだったため、ブラックの内装色とのコントラストが際立ち、余計にそう感じたのかもしれない。Aピラーが立っているので、屋根を開けると視界の隅に空が入り、ウインドスクリーンは窓ではなく文字通り風よけの衝立に感じられる。インナードアパネルとボンネットフードの連続感がそう感じさせるのか、小型のモーターボートにでも乗っているような感覚すら覚える。
ルーフを閉じた状態でも、小型ボートの操縦室に収まっている感覚は変わらない。たまたま雨に遭遇したが、雨粒が屋根を叩く音は当然だが、ソフトトップとは違って金属質な音がする(前後に分割されたフロントルーフはアルミ製、リヤルーフは鉄製)。遮音・吸音に気を配った効果だろう。ルーフを閉じた状態では、通常のクローズドルーフ車と同様の音の聞こえかたをする。
STARTボタンを押すと威勢のいい排気音を発してエンジンが目覚める点は、ソフトトップモデルと変わらない。だが、排気量は異なる。ソフトトップモデルが1.5ℓ直4自然吸気ガソリンエンジンを搭載するのに対し、RFは2.0 ℓ直4自然吸気エンジンを搭載する。前者の最高出力/最大トルクが132ps(97kW)/152Nmなのに対し、後者は184ps(135kW)/205Nmだ。最高出力発生回転数が7000rpmに設定された高回転型のエンジンである点は共通している。
500ccの排気量増はスペック的には、約100kgに達するハードトップの重量増を補って余りある。しかし、高回転域を多用する気にはならなかった。MTなら1速、2速で高回転まで引っ張る気になっただろう(別の試乗機会で実際にそうした)。高回転まで引っ張ったところで大した加速は示さないし、車速の絶対値も知れている。それで感動がないかというとそんなことはなく、シフトレバーを動かしてクルマを操っている楽しさがある。
あたり前だが、ATとの組み合わせだと、シフト操作と連動した楽しさがない。そのせいか、高回転まで引っ張ろうという欲求はあまり湧かない。それで退屈かというとそんなことはなく、エンジンが仕事をしている主張は容赦なく車室に飛び込んでくる。勇ましいサウンドをBGMにしながらのドライブはなかなか乙だ。シフトレバーの後方にあるスイッチでSPORTモードに切り換えると、高めのエンジン回転を維持するようになるし、通常時より変速もビジーになる。エンジンやトランスミッションが仕事する様子を積極的に味わいたい気分のときに選択するといい。
ラゲッジスペースが意外に使えることも今回のドライブで再確認した。12ロール入りのトイレットペーパーが2つ入るエコバッグをふたつ飲み込む容量があると伝えれば、その使い勝手の良さがわかるだろうか(あくまで例えで、買いだめしたワケではありません)。
MTでなければ味わえない楽しさはあるが、MTでなくてもロードスターの価値は変わらないし、充分に楽しめる。RFはクローズドルーフの耐候性と独特のスタイルが魅力だ。
1.5ℓのロードスターSilverTop、6速MTの世良耕太さんの試乗記はこちら
マツダ・ロードスターRF VS(AT)
全長×全幅×全高:3915mm×1735mm×1245mm
ホイールベース:2310mm
車重:1130kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式
駆動方式:FR
エンジン
形式:直列4気筒DOHC
型式:PE-VPR[RS]
排気量:1997cc
ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm
圧縮比:13.0
最高出力:184ps(135kW)/7000pm
最大トルク:205Nm/4000rpm
燃料供給:筒内燃料直接噴射
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:45ℓ
燃費:WLTCモード 15.2km/ℓ
市街地モード 10.9km/ℓ
郊外モード 15.6km/ℓ
高速道路モード 18.0km/ℓ
トランスミッション:6速AT
車両本体価格:376万3100円