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挙動は重い、バンク角も浅め、なのに乗ってて気持ちいい。これがハーレーマジックだ。|スポーツスターIRON 883


今でこそ多彩なバリエーションを誇っているハーレーダビッドソンだが、古くは空冷OHV 横置きの45度V型ツインエンジン一筋で同社の製品イメージが培われてきた。中でも軽快なスポーツバイクとして開発され、その人気を確かなものにして来たのがスポーツスターである。ミッションがクランクケースと一体化された別系統エンジンを搭載した事でも知られている。




REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


取材協力●HARLEY-DAVIDSON JAPAN

ハーレーダビッドソン・スポーツスターIRON 883.......1,373,900円〜(価格は2020年モデルのもの)

 古い区分けで言えばFL系のツーリングカテゴリーや、ソフテイルカテゴリーに属すローライダー等に搭載の主力Vツインエンジンは、クランクケースの後方に別体式のトランスミッションを携えている。対するXL系のスポーツスターは冒頭で記した通り一般的な仕組みのミッション一体型エンジンを採用。現在、883ccと1202ccの2タイプがあり、スポーツスターカテゴリーには7機種のバリエーションが展開されている。


 


 中でも最も親しみやすい存在としてIRON 883は多くのユーザーに侮れない人気を誇っている。あくまで余談だが、かつてはその車名(排気量)にちなんで88万3000円のバーゲンプライスが付けられたこともあった。エントリーユーザーにとっても親しみやすく、気になる注目モデルでもあるわけだ。


 


 搭載エンジンは基本的に80年代中盤に登場したエボリューション。同ブランドの中でも傑作エンジンとして長年親しまれたタイプ。右サイドに露出した4本のプッシュロッドチューブが示す通り、OHVタイプだ。吸排気バルブを駆動するために、クランクケース内にはそれぞれを独立してプッシュする4カムを備えているのが特徴である。


 当初のミッションは4速だったが、途中5速化やベルトドライブ方式の採用。ツイン・スパークプラグ化やヘッドカバーデザインの変更。エンジン搭載方法はリジッドマウントからラバーマウントへ。それに伴いフレームの強化も。近年では吸気系をキャブレターから電子制御燃料噴射への革新等、多くの変遷を経てきている。


 


 タンクやフェンダーを除き、多くをブラックアウトしてカスタム仕上げされたモデルがIRONと呼び親しまれたことから現モデルの呼称に繋がった。




 エンジンの存在感がひときわボリューミーに見える外観フォルムが大きな特徴。それでいて必要最小限のパーツでまとめられたシンプルで飾り気のないデザインも魅力的。


 車体サイズはそれ程大柄ではないが、その鉄の塊は256kg 。ドッシリと重量感はタップリ。全体から醸しだされる佇まいは、まさにハーレーダビッドソンそのものであり、ならではの個性が伝わってくるのである。


 当然のごとく、その独自の乗り味にも期待感は膨らむのである。

いかにもアメリカを象徴するブランド、走り出せば自由な気分に包まれる

 ハーレーダビッドソンと言えば、古くから大型重量級バイクの代表格のようなブランドだったが、試乗車のIRON 883は比較的コンパクトかつスマートなフォルムが印象的。それでも跨がって車体を引き起こす時の重量感はドッシリと重い手応えで、やはり立派な本格派バイクに触れる感覚が伴う。




 エンジンを始動し、少しばかり重めのクラッチを操作してスタートすると、他にはない独特の乗り味を直感する。Vツインエンジンを搭載するバイクは他のブランドにも多く存在しているが、ハーレーならではの乗り味はいつの世でも独壇場のものが感じられるのである。


 ドドッドドッとあくまで低回転で安定して回るエンジンと図太く乾いたエキゾーストノートを響かせる雰囲気。その独特の振動も含めて45度Vツインと重い回転慣性重量を備えたクランクの成せる技だろう。


 しかもライダーのハートに響く基本的な鼓動感は、昔から変わらぬハーレーダビッドソンらしさを象徴しているのである。特にこのエボリューション・エンジンは秀逸である。


 外付けのデジタル回転計を装着して調べるとアイドリング回転数は1000rpm 。バイクのエンジンとしては極めて低い。その出力特性も中低速域のトルクに優れ、高回転域まで引っ張るよりも、そそくさとシフトアップして中低回転域を活用した方がより強力な加速力が発揮できてしまう。


 一般的なエンジンなら回転を上げた方が速く走れるのが普通だが、エンジンの伸びを活かすよりは、早め早めのシフトアップで高めのギヤを使い、低速トルクを活用する方が気分良く強かな加速力が楽しめてしまうのである。


 この乗り味こそ、ハーレーならではの大陸的なおおらかさであり、魅力的なのだ。ちなみに実測換算値では、ローギヤで4500rpm 回した時の速度は60Km/h。5速トップギヤ100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は約2900rpm 。ミドルクラスの排気量としては、高めのギヤリング設定だ。低い回転リズムで高速クルージングが楽しめる点も、ライダーに心地よい。


 5速ミッションは比較的ワイドなレシオ設定で、シフト操作も悠長なリズムで扱える。クィックなシフトワークを小気味よく軽快に決めて行くタイプではないわけだ。




 操縦性も素直に扱えるが、挙動は重みを伴うフィーリングで、切り返しもクィックではないし、コーナリングではバンク角が浅い。ただ、それが欠点とはならない(思えない)ところがハーレーマジックである。むしろ優れた直進安定性と、広く前方に広がる視界により豊かな景色が目に入ってくる乗り味が秀逸。旅に出て自由な時間を演出する相棒に相応しいマシンと言える。


 エンジンの出力特性、バイクの重量感、そしてフロントに採用の19インチホイールや各ディメンションの全てが、そんな個性と魅力を作り上げているのである。




 スポーツスターとは言え、市街地を流すだけで、いわゆる一般的に言うスポーツバイクからイメージされる乗り味とは全く異なる事がわかる。と同時にハーレーならではの世界感も理解できてくるだろう。スポーツスターを走らせると、自由で開放感溢れる一時が満喫できるのである。

足つき性チェック(身長168cm)



ご覧の通り両足はべったりと楽に地面を捉えることができる。シート高は760mmという低さだ。重量感ある車体を支える上でも不安は感じられない。


ディテール解説

いたってシンプルなフロントマスク。オーソドックスな丸型デザインのヘッドランプも比較的コンパクト。光源はハロゲン球である。

黒いボトムケースのフロントフォークは正立式。フロントホイールは19インチサイズだ。シングルディスクブレーキはフローティングディスク、油圧キャリパーはピンスライド式だ。

横置きの空冷45度Vツイン。ハーレーならではのフォルムである。Vバンク内に吸気系を持ち、前バンクは前方排気、後バンクは後方排気方式だ。

ブラックアウトされたエキゾーストパイプと後方へストレートに伸びるツインマフラーが印象的。テールエンドをずらしたレイアウトも格好良い。

前傾レイアウトでセットされたリヤ・サスペンション。角形スイングアームと2本ショックの組み合わせも実にオーソドックスである。

コンパクトなタンクとハンドルまわり。余計な物が目に入らない、スッキリしたデザインがかえって新鮮に見える。

ハンドルスイッチはハーレーダビッドソン独自の左右対象デザイン。下が左側専用のウインカースイッチ。左側がホーンスイッチ。右側がヘッドランプ光軸の上下切り替えスイッチ。
下側は右側専用のウインカースイッチ。ちなみに2度押しすると点滅は消える。左側はハザード、右側はエンジン始動用スイッチだ。


中央部にちょこんとマウントされたブラックの丸型シングルメーター。電気式だがスピードメーターはアナログ表示。オド&トリップは液晶デジタル表示である。

クッションスペースと容量がたっぷりと広く多いシングルシートを採用。一人乗りと割り切った点も潔い。

堀の深いフェンダーの多くが露出したデザインも今や珍しいかもしれない。どこか懐かしい雰囲気を覚えると共にスッキリとした魅力が感じられる。

◼️主要諸元◼️※2019年モデル

エンジン:空冷式 Evolution®


ボア・ストローク:76.2×96.8mm


排気量:883cc


圧縮比:9.0:1


フューエルシステム:電子式シーケンシャル・ポートフューエル噴射(ESPFI)


エキゾースト:ブラックエキゾーストヘッダー、ブラックマフラー




全長:2,185mm


シート高:760mm


最低地上高:140mm


レイク(度):30


トレール:117mm


ホイールベース:1,515mm




フロントタイヤ:100/90B-19 57H


リアタイヤ:150/80B-16 77H


燃料容量:12.5 L


オイルタンク容量:2.6 L


出荷時重量:247kg


車両重量:256kg




最大トルク:68Nm /3,750rpm




リーンアングル(右/左):27 / 28 度




プライマリードライブ:チェーン


ギヤ比 :38/57


総減速比(1速):9.315


総減速比(2速):6.653


総減速比(3速):4.948


総減速比(4速):4.102


総減速比(5速):3.517




ホイール(前/後):ブラック9スポーク with マシンドハイライト/


          ブラック9スポーク with マシンドハイライト


ブレーキ(前/後):デュアルピストンキャリパー/


          デュアルピストンキャリパー

ライダープロフィール

元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファン バイクスのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナーの気持ちになった上での記事作成に努めている。

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