HKSのブースで存在感が際立っていたのが、コンプリートエンジン群だ。なかでも驚いたのは、FA20やVR38DETTといった現役チューニングベースカーのエンジンのなかに、あたかも当たり前のようにRB26DETTエンジンが展示され、その脇には新製品や参考出品のパーツが多数展示されていたことだ。
日産のRB26DETT用チューニングパーツが開発、販売されてからかれこれ20年以上経過している。しかし、「HKSの商品群のなかでも、RB26用製品は常に売り上げの上位にあって、いまだに右肩上がり」とエンジニアは説明してくれた。海外からの需要ばかりでなく、国内でもRB26DETTの人気はまだまだ根強いとのことだ。
今回展示していたのは、まもなくリリースを予定している「RB26DETT-2.8L HIGH RESPONSE」という名称がつけられたコンプリートエンジン。高トルクを狙った既存のRB26DETT-2.8L STEP2キットをベースに、カウンターウエイトを限界まで減らした専用クランクや、高強度の高いA2618材から削り出した高剛性軽量ピストンを採用するなど、その名のとおり、レスポンスにこだわって軽量化と高剛性の両立が図られている。さらには、クランク角センサーや点火コイルといった電装系の強化までパッケージされている。もちろん、使用される部品はすべて新品。エンジンブロックは昨年ニスモから再販されたN1ブロックが使われている。
興味深かったのは、参考出品ながらRB26DETTの展示品のなかに、マグネシウム合金のピストンがあったことだ。基礎段階ということで、まずはピストン素材としてのポテンシャルを把握するために、丸棒から機械加工による削り出しで制作。耐熱性を向上するために全面にコーティングが施されている。
写真でもわかるように、ピストンが黒く焼けて見えるのは実際にエンジンに装着して、500ps以上で回してテストした後に取り出したものをそのまま展示したから。そして、ここに展示されたということは、製品化できるかどうかを見極める基礎段階をクリアした証拠でもある。
マグネシウムはアルミより材料強度に優れており、軽い(マグネシウムの比重1.7に対し、アルミニウムは2.7)という利点がある。高回転まで使う2輪のレース用は軽さを求めて積極的な検討がなされているようだが、まだ研究段階であり、4輪も含めてなかなか実用化に至らないのは、やはりコストの問題だ。
「素材としてはよくても、いまの段階ではお客様にご提供できる価格帯にはなっていません。鍛造化によって材料ロスを減らしたり、マグネシウムは表面処理をしないと耐熱性的に厳しいので、効率のよい製造方法も検討が必要でしょう。また、アルミより熱伝導率が悪いので、クーリングチャンネルを付けるのも必須となると思います。そういった課題を第2、第3フェーズでテストしていき、信頼性を確保していくことになると思います」(同エンジニア氏)
マグネシウム合金ピストンの実用化に向けては超えなければいけない壁は多いものの、HKSはRB26DETTエンジンの進化に向けてチャレンジしている。RB26ユーザーにとっては嬉しいニュースではあり、早期実用化に期待しようではないか。