レンタルバイクによる耐久レース『レン耐』の参戦レポートをお届け。2019年最終戦のレン耐は、豪華なレーシングライダーと一緒に参戦できてしまう、なんとも贅沢すぎる大会だった……。
REPORT●伊藤英里 PHOTO●高橋学、伊藤英里
まずはレン耐とはどんなレースなのか、その説明から。レン耐とは、元ロードレース世界選手権ライダーで、現在も四輪レースなどで活躍し、さらには2020年のWECル・マン24時間耐久レース参戦を表明している青木拓磨さんが主催するレンタルバイクによる耐久レース。使用されるバイクはグロム125、エイプ100、モンキー125と小排気量だから女性でも安心して参戦できるのだ。なにしろ足がつかない! なんてことはまずないサイズのバイクだから、それだけでもビギナーライダーや小柄なライダーには不安がなくてありがたいところ。
さらにレン耐独自のルールとして、一定回数のピットインごとにミニゲームをクリアしなければならない、転倒した場合はバイクのダメージにかかわらず罰金が科されてしまう……などなどが設定され、だからこそレース初心者からベテランライダーまでが楽しく気軽に参加できるレースなのだ。
今回参戦したのはレン耐の2019年最終戦として12月22日にサーキット秋ヶ瀬で行われた『最終戦HondaRacing60周年杯Let'sレン耐4時間耐久』。チームメイトは各媒体で二輪ライターとして活躍されている横田和彦さんと監督の林香織さん、佐野由里子さん、ワタシ伊藤、加えてヘルパーとして、こちらも二輪ライターとしてご活躍されているNANA-KOさんという構成。女性率が非常に高いが、あえてではない……ハズ。ちなみにレン耐では、基本的に女性ライダーはビブスを着て走ることができ、このビブスが「驚かさないように抜いてくださいね~」という証になっている。なので、走り慣れていない女性ライダーでも安心してレースができるのだ。
私自身としては5回目のレン耐参戦。しかしこの日はちょっぴり、いやすごくいつもと違う状況だった。なんと世界や全日本で活躍するトップレーシングライダーたちが参戦して、一緒にレースできるという。
ゲストライダーとしてロードレース世界選手権Moto3クラスに参戦する小椋藍選手、2020年シーズンから同クラスにフル参戦を開始する國井勇輝選手、そして二人が所属するHonda Team Asia監督であり、2009年ロードレース世界選手権250ccクラスチャンピオンの青山博一監督。全日本ロードレース選手権からはJSB1000ライダーの水野涼選手と2019年J-GP2クラスチャンピオンの名越哲平選手がエントリー。
一般参加で拓磨さんの弟であり現役オートレーサーとして活躍する青木治親選手、2019年シーズンはFIM CEVレプソルインターナショナル選手権Moto2クラスに参戦した石塚健選手、CBR250RRドリームカップに参戦した梶山采千夏選手……。いやはや、こんなにたくさんのトップライダーたちと一緒にレースができる機会なんて、まずないのではなかろうか。
序盤はスタートライダーの横田さんがすばらしいスタートダッシュで上位をキープ。そこからは順調にライダー交代をしながら6番手から8番手あたりの順位をウロウロしつつ、挟まれるミニゲームのお題をクリアしながらチーム全体でレースに挑む。あくまでもコンスタントに、そして転倒なく走ることが大事。そしてなにより、楽しくレースをすることが我がチームの目標なのだ。そういうチームだから、私も安心して参加できている。もちろんチームの目標はそれぞれだと思うけれど、そういう目標を掲げて参加できるのがレン耐というレースの魅力だと思っている。
不思議なもので、走り出せばいろいろなドキドキが吹っ飛んだ。世界や全日本で戦う、超ド級のトップクラスのレーシングライダーと一緒のレースを走っている。もちろん競い合うことなどないけれど、怖いとか、不安だとかは一度も感じなかった。あるときには、レーシングライダー二人に両側から抜かれたこともあった。が、「抜かれたんだ」と認識したときにはすでに抜き去ったレーシングライダー二人ははるか前方に……。よくサーキット走行会などでも「上手な人はうまく抜いていくから怖がらなくていいんだよ」と言われるけれど、このときほどその言葉を実感したことはない。
レン耐はレンタルバイクだから車種の違いはあれど基本的には変わらないバイクのはずなのにと、あっさりと自分を抜いていくレーシングライダーたちのきれいで余裕のある走りに見入ってしまうばかりだった。その走りにただ見惚れた。この時間もめちゃくちゃ貴重だよなあと思いながら。
ちなみにレースでは、主催の拓磨さんも足をステップに固定し、左ハンドルにリヤブレーキを備えるモンキー125で走行に加わっていた。チームメイトの林監督はちょうど拓磨さんが走行していたとき少しの時間一緒に走行できたそうで、「うれしかったー!」と大興奮の様子。
拓磨さんは1998年、ロードレース世界選手権開幕前のテストでの事故により、下半身不随となった。しかし2019年鈴鹿8時間耐久ロードレースのデモランで、特別な仕様を施されたCBR1000RRを走らせた。この日はモンキーで、拓磨さんはレン耐と、そのあと行われたレーシングライダーたちによるエキシビションレースに加わっていた。
ライダー交代を重ね、今回はやたらとマッスル系のお題が多かったミニゲームをクリアし、順調に周回を重ねていた我らがチーム。しかし、残り30分を切ろうかというところで、緊張が走った。「ガソリンが足りないかもしれない……」。4時間耐久レースの今大会は、無給油で走り切らなければならない。速いライダーがガンガン攻めてしまえば、後半の燃費が厳しい状況になるようになっている。給油はできるが、その分ペナルティを受けることになる。
最後から2番目のライダーの横田さんが、いつもよりずっと抑えた走りで最後のライダーにグロム125をつなごうとしてくれる。最後のライダーを務めるのはこの私、伊藤なのである。ここまで来たら、走ってチェッカーを受けたい。けれどあまりに燃費走行をすれば、順位を大きく下げることになる。どうしたらいいのか迷っていると、レース経験豊富な横田さんがライダー交代で「燃費は考えるな!」と声を張る。それで心が決まった。全力で行く。私が本気で走っても、燃費はさして変わらない(はず)。
なにも考えず、最後の15分をひたすら走った……と言えば格好いいのだけれど、最後の5分は「まだ止まらないでくれ~~!」と心中大騒ぎしながら走っていた。大人になって、こんなに夢中になることってあるかな、とふと思う。走って、走って、たまに抜かれて、たまに抜いてみたりして……それだけをただ心底堪能している時間。なんてぜいたくな時間なんだろう。気が付くと、レースの終わりを告げるアナウンスが響いていた。
チームのみんなが笑顔で迎えてくれる。それがたまらなくうれしい。完走、無転倒だったから、チームの目標は達成だ。けれどおまけに我らがチーム、見事にグロム125クラスで5位入賞を果たした。これにはびっくり! トロフィーを受け取って、みんなであらためて笑い合う。一生懸命走ったあとに表彰されちゃったら、そりゃあうれしいに決まってる!
やっぱり、こんなに夢中になってバイクを走らせて、最後に達成感を得られるなんてことはそうあるもんじゃない。だから、この達成感のとりこになってしまうんだ。