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帯電防止アルミテープの効能を体感する——トヨタ86に仕込まれた魔法


燃料タンクの水抜き剤からマイナスイオン生成器にいたるまで、妖しいブツが巷にはあふれている。聡明な読者諸兄にとっては一笑に付すような代物がほとんどと思われるが天下のトヨタが看板車種に堂々と装着して、その効果を喧伝するとなったら、一体どう思われるだろう......。


TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji) PHOTO &FIGURE:TOYOTA/MFi/萬澤琴美(MANZAWA Kotomi)


*本記事は2016年10月に執筆したものです。現在とは異なる場合があります。

 九月某日、編集部に奇妙なFAXが送られてきた。




「空力を改善する放電アルミテープを新・86に装着」と記された、アヤしさ満点のプレスリリースである。得体の知れない企業からのプロモーション売り込みかと、ゴミ箱行きの前に発信元をよくみれば「トヨタ自動車株式会社」とあり、その効能を体感してもらうべく試乗会まで催すという。まったく新しい技術というものは、概ねそれまでの常識を覆すものだから、眺めているだけではたんなるトンでも発明にしか思えないものだが、ハイブリッド技術以外では石橋を叩いて渡る傾向の強いトヨタが、何とも言いようのない珍奇なことをわざわざ人を集めて発表するとは、ますます奇怪である。FAXの字面を眺めて対処に困った編集部MZWは「変な取材には変なヤツを連れて行けばよい」と判断したようで、偏屈な閑人にお鉢が回ってきた。単なる技術発表ではなく、試乗込みということであれば、本当に効能があるのかどうかを確認できる。もし、それがプラシーボであれば、黙殺しつつ腹で笑うだけだし、効果が実感できればそれはそれで慶事である。そんな野次馬根性で、発表会の行なわれる河口湖に向かった。

空気の流れとボディ帯電。ボディの帯電と空気の流れの関係性を表した図。常にボディはプラスの電荷で帯電しており、同じ電荷を持つ空気とは反発しあう。ボディ表面の形状等純粋な空力の影響以外の要素で空気の流れが乱されてしまう。

ボディの部位別による帯電量。走行することで空気とボディの摩擦帯電により、さらに帯電量が増える。そこにアルミテープを貼ると、1/3以下に帯電量が減るという測定結果。

 当日はザックス製ダンパーのオプション採用という今回の86のマイナーチェンジでの目玉もあり、試乗スケジュールがびっしりと組まれていたが、まずは問題の技術のプレゼンテーションからはじまった。




 その要旨は予想に反し、極めて明快であった。クルマのボディはドアハンドルに触れると静電気が起きることからわかるように、常に帯電(プラスの電荷)している。金属は当然のこと、樹脂は特に帯電しやすいからだ、ということは、セルロイドの下敷きをこすって髪の毛を持ち上げた経験のある中年以降の方なら理解できるだろう。空気もまたプラスに帯電しており、走行時にボディの周囲を空気が流れる時、プラスの電位同士が反発してボディ表面の境界層から空気が剥離し乱流が起きる。これが走行安定性や振動にかなりの影響を与えているというのだ。ボディ形状や空力パーツを工夫しても、空気が狙った通りに流れないのでは意味がない。そこで帯電したボディにアルミテープを貼って放電させる、一種のアース効果を使って空力を改善する、ということらしい。

帯電の有無による空気の流速とボディ表面との距離との関係を表したグラフ。ボディ表面から5~10mm付近での差が大きい。この領域が境界層のなかでも乱流境界層と呼ばれる部分。ここから離れるに従って気流は乱流から層流となるため、帯電による影響度は低くなってくる。

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