タイ王国でもヤリス(旧日本名:ヴィッツ)が販売されているが、プラットフォームこそ共通だが、デザインやボディサイズなどが異なる新興国向けモデルだ。2019年11月に、改良が実施。新エンジンを導入することで燃費や環境性能の向上が図られた。その改良時に、新たなパッケージを追加。独自の進化を遂げる新興国向けヤリスについてレポートしたい。
REPORT&PHOTO●大音安弘(OHTO Yasuhiro)
タイ王国で新たに登場した個性的なトヨタ・ヤリスたち
まずヤリスの歴史を少し振り返りたい。2013年10月にデビューした現行ヤリスは、日本の現行型ヴィッツとプラットフォームを共有するが、同じプラットフォームから生まれた新興国向けの小型セダン「ヴィオス」との共通性が高く、一回りサイズが大きいのが特徴だ。
ヴィオスは、ヴィッツとボディサイズこそ同等だが、1.5Lエンジンを積む上級車という扱いになる。因みに、先代ヴィオスは、日本でも同仕様のものが「ベルタ」の名で販売されていたので、意外と馴染みあるモデルなのだ。2017年8月には、ヤリスのセダン仕様である「ヤリス・エーティブ」が登場し、5ドアハッチバックと4ドアセダンの2種類ボディバリエーションとなった。
2019年11月の改良では、ヤリスとヤリスエーティブの全車に、排気量こそ従来同様の1.2Lエンジンだが、よりトータル性能に優れる新エンジン「3NR-FKE」を採用。デュアルVVT-iEを備える新1.2L4気筒DOHCエンジンは、燃費と環境性能の向上を実現した。その性能は、最高出力92ps/6000rpm、最大トルク109Nm/4400rpmを発揮する。新たにアイドリングストップ機能も追加された。この他にも機能向上などが図られているが、同じタイミングで、ヤリスとヤリスエーティブの両方に、新たにユニークな仕様が設定されたのだ。
ヤリスに新設定されたヤリス・クロスは、その名が示すように、ヤリスのクロスオーバーモデルだ。3タイプ用意されるグレード全てにオプションパッケージとして装着可能なもの。ヤリスと比べ、ワイルドかつスポーティなイメージを高めたエクステリアを持つ。外観の変更点として、フィルムコーティングによるブラックルーフ、前後及び側面のスカート、フェンダーモール、16インチアルミホイールなどの専用アイテムが装備される。
ただ驚くべきことは、単なるクロスオーバー風仕様ではなく、車高を30mm高める専用サスペンションキットまで附属すること。これも地域によってはまだまだ未舗装や路面状況の悪い道が多いタイの事情を組んだものと見られる。また最近のタイでも、クロスオーバーモデルの人気も高まっており、トヨタではC-HRの販売も好調とのこと。つまり最もお手軽なクロスオーバーをヤリスで実現したというわけだ。
4ドアセダン仕様のエーティブには、スポーティセダン仕様を設定。「GT」という名が誇らしげに掲げられるが、実はハッタリ仕様なのだ。ヤリス同様に、装備内容の異なる3グレードのいずれかに組み合わせが可能なパッケージオプションとなっている。その内容は、フロントバンパースカート、サイドスカート、リアバンパースカート、リアスポイラーのフルエアロパッケージとなる。パワートレインや足回りなどは、ベース車と何ら変わらず、最小限の変更だけ。タイヤが小さいとか今一つな部分もあるが、スポーティイメージが高まり、ノーマル仕様よりも、やはりカッコイイ。タイの街中では、派手なエアロを付けたカスタマイズカーが見受けられるだけに、スポーティ仕様の需要も高いようだ。
まだまだ一般市民にとっては、クルマは高嶺の花であるタイ。そのため、タイ人のクルマへの思入れは、誰もがクルマの話題で盛り上がった、かつての日本人のマインドに通じるものがある。実用車だけど、カッコよく乗りたい。そんなクルマ好きの気持ちが形になったのが、この「GT」パッケージといえるだろう。