2019年6月にBクラスがフルモデルチェンジし三代目となった。『ハーイ、メルセデス』でおなじみのインフォテインメントシステム(MBUX)はもとより、Sクラスと同等の安全性能を投入するなど力が入っているが、どうにもAクラスとCクラスの間で目立たなぬ印象を持つ。Bクラスを買う意義とは? Aクラスの車高が高い「だけ」ではない、Bクラスの魅力を探る。
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:MF.jp
日本に用意されるメルセデス・ベンツのラインアップは、いまではトヨタをも上回るといわれている。その数をあらためて調べてみると、エントリーモデルからハイエンドモデルまで、じつに15モデル31タイプ。これにマイバッハ、AMG、スマートが加わる。
さらにメルセデスが底力を示すのは、そのパワーユニットの豊富さだ。下はスマートに積む3気筒0.9ℓエンジンから上は6.0ℓ•V12までラインアップされ、毎年のように環境対応などの新ユニットが追加、HVやディーゼルエンジンなど多岐にわたる。国産車と異なり、エンジンラインアップは横断的かつ機能的に各モデルへと採用されているため、全ラインアップの性能を知るには、なかなかの時間を要する。
そんななかで2019年6月にBクラスがフルモデルチェンジし、日本に導入された。気がつけば試乗機会を逸してしまい、今回の試乗が初めてのご対面となった。
あらためてこのBクラスの変遷を見てみると、2006年の初代デビューから、12年には新開発のMFAプラットフォームを採用した二代目が投入された。先代Aクラス譲りの特徴でもあったサンドイッチフロア構造とはここで決別して低床タイプとなり、全高もタワーパーキングに入るサイズに収められた。トランスミッションには初めてDCTが用意されて、競争が激化する輸入車FFモデルへの本格侵攻が始まったのだ。
今回の三代目はキープコンセプトながらも、大きなグリルと1800mmに手が届くワイドボディを得て、メルセデスならではの質感と、スペースユーティティを確保。『ハーイ・メルセデス』でおなじみのクルマと会話するインフォテインメントシステム(MBUX)や、Sクラス同等の安全性能を持つインテリジェントドライブを装備するなど、メルセデスの持つ技術を余すことなく投入している。
スペース系のメルセデスでフィーチャーされるのはVクラスかSUV。車格(や使い勝手)と金額を考えるとToo much感が拭えない場合を埋めてくれるのが、Bクラスの都市型ユーティリティワゴンとして存在だ。
乗ってみると、同じプラットフォームを使っているAクラスとは好対照。低いシートに潜り込むようなAクラスに対して、足元を気にせず乗り込めるシートポジションが特徴的。
足をスッと落とせる広いフロアとちょっとコンパクトに感じられるシートながらもアップライトなポジションは、ステアリングとの位置関係も自然で、毎日の使い勝手はもちろんロングドライブも楽しめそうだ。なによりアイポイントの高さや大きなグラスエリアによって生まれる明るい室内と視界の良さで緊張しない。メルセデスのドライバーファーストのこだわりのなかでも、Bクラスに関しては日常生活における細やかなサポートがありがたい。
スッと収まるペダル操作やステアリングに関しては、ドイツ流の手応え感はあえて薄めているのか国産車的な操作感を持ち、国産からの乗り換えでも違和感は小さい。それでいてBクラスは、決して軽さが国産のように走りをスポイルしていないところが、好感がも持てる。
ブレーキはストロークを出し、踏力ではなく踏み込むほどに減速Gを高めてくれる扱いやすさを持つし、ステアリングに関しても切り始めの正確さがあってなじみやすい。もっとも、舵角を与えているような時にパワーをかけていくと駆動力に弱さが感じられるときがあるなど、足元の粘り強さはもう少し欲しいところ。
先代モデルと比較すると荒れた路面での大きめのインパクトや細かな振動の入力を緩和しているいっぽう、路面をキャッチする強さはやや弱くなった気がする。そのぶん、ボディはフラット感をキープできるようになったし、背の高さからくる姿勢の変化は穏やかになり、メルセデスなりにスペース系FFの落としどころを見つけたようだ。
依然、リヤシートに座ると音と振動が入りやすいのは気になるものの、全体を見ると粗さや動きの渋さといったフリクションが削られ、質感は向上。高速移動のドライブでは外乱をしっかりと包み込むゆとりが生まれて、街乗り同様に生活に密着したサポートをしてくれる。
エンジンは1.4ℓ直噴ターボで136ps。初速立ち上がりでは少し苦しげな音を聞かせるが、負荷が減ったときの軽い吹け上がりはコンパクトエンジンならではの持ち味。7速DCTは1500rpmくらいまで反応が鈍く回転も上昇気味。マルチプレートの振動を嫌ってのミート性能と思われるが、日本特有のストップ&ゴー対策であることが推測される。ミートされてからのダイレクト感はあるいっぽう、いわゆる滑り領域に関してはやはり振動が少なく、トルクを絞り出してくれるトルコンATの方が望ましいと思う。
それでもエンジンマウント類がしっかりしているためか、クラッチミート時やパワー変動における振動が低減されているのは魅力だ。エンジンの震えが遮断されているおかげで、駆動力が変化することも少なくなって、ここでも洗練された印象を受ける。
高速巡航時は100km/hで7速1800rpmに抑えられていることで、加速時を除いてエンジン本体が発生するノイズは、HVエンジンの色気のない音よりも自然。
国産車でいえばトヨタのシエンタやホンダのフリードあたりが同じカテゴリーとなるはずだが、スペースユーティリティを確保していながら、走りの良さを進化させてきたあたりは志の違いを感じる。もっとも国産車には3列シートやそのアレンジの豊富さなど知恵や工夫が施されているため、ここは用途に応じた好みにわかれるところだと思うが。
ホイールベースで見るとBクラスの2730mmに対して、シエンタが2750mm、フリードは2740mmとほぼ同サイズ。3列シートを持たないBクラスがそのぶんいかに広い足元やラゲッジルームを得ているかがよくわかる。
同サイズながらもメルセデスは走りの質を高めて、競争高まるスペース系FFモデルとしての存在感を放つ、まるで別ジャンルのクルマのような味つけ。生活臭がプンプン匂ってくる国産車にちょっと抵抗がある人にはBクラスの選択肢は思いもよらぬ閃きを感じるはず。
人気のAとCの間で地味な印象をうけるものの、その使い勝手の良さから選択肢に入れる余地は充分にアリ、だ。
メルセデス・ベンツ B180
全長×全幅×全高:4430mm×1795mm×1550mm
ホイールベース:2730mm
車重:1490kg 前前軸重:890kg 後後軸重:600kg
サスペンション:F マクファーソンストラット R トレーディングアーム
タイヤサイズ:225/45R18
ラゲッジスペース:455~1540ℓ(VDA方式)
エンジン
形式:1.3ℓ直列4気筒DOHCターボ
型式:M282
排気量:1331cc
ボア×ストローク:72.2×81.3mm
圧縮比:10.6
最高出力:136ps(100kW)/5500pm
最大トルク:200Nm/1460-4000rpm
トランスミッション:7速DCT
燃料:プレミアム
燃料タンク:43ℓ
燃費:WLTCモード 15.0km/ℓ
市街地モード 11.2km/ℓ
郊外モード 15.4km/ℓ
高速道路モード17.3km/ℓ
最小半径:5.0m
車両本体価格:392万円
試乗車両価格(オプション込):549万4500円