
イタリアの名門ブランド、『モト・グッツィ』は伝統の縦置きVツイン・エンジンとシャフトドライブの組み合わせに定評がある。新しくはSOHC 1.4Lを搭載するカリフォルニアがあるが、日本に導入されている現在のラインナップは744ccのV7系と、853ccのV9(含むV85)系の2タイプのみ。今回の試乗車はV9 BOBBERをよりアグレッシブしたスポーツカスタムである。
REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
◼️モト・グッツィ・V9 BOBBER SPORT.......1,342,000円
ダークマット&アグレッシブオレンジ(専用色)を採用したスポルト





モト・グッツィ・V9 BOBBER SPORTが国内市場で販売開始されたのは2019年2月の事。既にリリースされていたV9 BOBBERをベースに、より低く設定されたシングルシーターへ改造された。リヤの2本ショックはスプリングのプリロードはもちろん、油圧ダンパーの伸び圧それぞれに減衰調節できるリザーバータンク付きのオーリンズ製に換装。
セリアーニタイプのフロントフォークには摺動部分を傷付きから保護するゴム製の黒いフォークブーツを装備。
ステアリング周辺パーツも変更されてドラッグバーハンドルと組み合わせることで、独自のライディングポジションを構成。低い着座位置ながらもどこかアグレッシブな雰囲気が醸し出されている。
もともとBOBBERは、スタンダードスポーツのV9 ROAMERに対してマット仕上げのブラックマフラーや極太前後タイヤのマッチングで少しワイルドなキャラクターが主張されていたが、同SPORTはさらに強調された。
オリジナルのフロントフェアリングやサイドカバー、そして後端がスラッシュカットされたスリップオンマフラーもアルミ製。フロントフェンダーはさらにコンパクトなデザインを採用。細部からクロームパーツを削減してマットブラックを強調する重厚感のあるデザインも新鮮である。
タンク&シートレールがストレートにデザインされたスチールパイプ製ダブルクレードルフレームに搭載されたエンジンは伝統の空冷OHV 2バルブの縦置き90°Vツイン。ちなみに縦置きとはクランク軸の配置方向を示している。バイクやクルマの主流は今や横置きだが、動力取り出し回転方向の関係で、シャフト駆動とは相性が良い。
ボア・ストロークは84×77mmのショートストロークタイプで、排気量は853cc。マレリ製の電子制御式燃料噴射装置を採用。ひとつのスロットルボディで左右バンクへの燃焼ガス供給を担っている。最高出力は55HPを6250rpmで発揮。62Nmの最大トルクは3000rpm。いずれも低めな回転域で発揮されるところがモト・グッツィらしい特徴と言える。
ドッシリな重量感が心地よい

試乗車を目前にすると、奇をてらわない如何にもオーソドッスな手法でデザインされた全体のフォルムに、どこかホッとする気持ちになる。もともとは鮮やかな色でアクセントをあしらうオシャレなカラーデザインが印象的なブランドだったが、マットブラックを主体とするカラーリングに、改めて新鮮な味わいを覚える。
スチールパイプ製ダブルクレードルのフレームワークも懐かしいし、空冷OHVの90°Vツインユニットも基本を変えぬところに古くから培われた同ブランドに対する信頼と安心感が感じられるのである。
細部に目をやると、例えば造形にこだわって造られたステップホルダーを始め、各部の使用ボルト/ナット類、ワッシャーやスペーサー等のパーツひとつひとつが吟味されている。シングルメーターをカバーするフロントのミニフェアリングやサイドカバーもアルミ製が奢られている等、作り手の気持ちが丁寧に表現されており、チョットした贅沢を楽しみたい大人の感性がくすぐられる。
しかもシングルメーターには液晶マルチインフォメーションを内臓。ステアリングヘッドパイプの右脇にはUSBコンセントを装備する等、新し要素の採用も忘れていない。
785mmと低めのシートに跨がると両足は楽に地面を捉えることができ、210kgの車体を支えるにも不安は感じられない。ステップは脛の前に位置し、リラックスした乗り味を直感するが、ほぼフラットで絞りの少ないハンドルバーを握ると、アグレッシブな雰囲気も感じられる。シート前方に座り両肘を張って軽く前傾姿勢を決めると、僅かながらモタード系の匂いもしてくるから不思議。
エンジンの出力特性はモリモリと中低速域のトルクが太い。故に早め早めのシフトアップが相応しい。市街地での通常加速でもシフトアップを促すパイロットランプが直ぐに点灯する。ピークトルクは僅か3000rpmだからそれも納得である。
発進後は切れ味の良いクラッチを操作して早めのシフトアップを試みる。増速後のクラッチミートでググッとさらに強力な加速力を発揮。シフトアップした方がさらにトルキーな加速感を披露する乗り味に、このVツインエンジンならではの特徴と魅力が感じられるのである。
タコメーターが無いので点火パルスをセンシングする外付けの回転計を装備してチェックするとアイドリングはだいたい1250rpm。ローギヤで5000rpm回した時のスピードは52㎞/h。6速100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は換算値で約3400rpmだった。ちなみにシフトアップを促すパイロットランプは3800rpmで点灯していた。
全体的にドッシリと重い乗り味で、サスペンションも固めなセッティングながら、作動性は悪くなく、落ち着きのあるユッタリした心地よさを満喫できる。前後16インチサイズながら偏平率の少ないビッグフットも安心のグリップ感を発揮。
どんな場面でも悠然とした気分で走れるところに心地よさと大きな価値を覚えた。
早起きしてのひとっ走り、日没前の散策。そしてウィークエンドのツーリング等、一人自由な時間を楽しむに相応しい魅力が感じられたのである。
⚫️足つき性チェック(身長168cm)
 | シート高は785mm。ご覧の通り両足は膝に余裕を持ってベッタリと地面を捉える事ができる。ずっしりと重い車体を支えるにも十分な足つき性だ。 |
⚫️ディテール解説
オーソドックスなフロントマスク。丸形ヘッドランプに装備のミニバイザーはアルミ製。光源はH4バルブが使われている。
バランスとしてフェンダーが小さく見える。フロントタイヤは130/90-16インチサイズ。韓国産コンチネンタルのConti Milestoneを履く。フロントのシングルディスクはφ320mmローターをフローティングマウント。油圧キャリパーはブレンボ製の対向4ピストンタイプだ。
伝統の縦置き90°Vツインエンジンは、空冷のOHV2バルブ。コンパクトなシリンダーヘッド・デザインが印象深い。クラッチはφ170mm乾式単板タイプが採用されている。 スイングアーム式リアサスペンションは2本ショックタイプ。オーリンズのサブタンク付きショックユニットを採用。φ260mmシングルディスクにはブレンボ製油圧キャリパーがボトム側に採用されている。 | 左右のブラックマフラーは若干の傾斜はあるが、ほぼストレートに伸ばされている。スイングアームの右側には後輪駆動用のシャフトが内蔵されている。 |
ほぼフラットなドラッグバーハンドル。軽く手前に絞られ、ブラックアウトされたパイプバータイプだ。
いたってスッキリとシンプルな丸形シングルメーター。電気式だがスピードはアナログ表示。モノクロ液晶ディスプレイは切り換えにより多彩な情報表示ができる。 ディマーやパッシングはスイッチボックス前方部で人差し指で操作。モードスイッチはメーター液晶ディスプレイ内の表示内容を切り替えできる。ウインカースイッチの右側はトラクションコントロール用。OFFも含めて3段切り替えができる。 | デザインにこだわりを感じられるハンドル右側スイッチ。上からハザード、プッシュ式のエンジンキルスイッチ、一番下が始動用スタータースイッチだ。 |
シングルシートを装備した割り切りが潔い。元々ショートシートの採用がBOBBERの特徴だったが、リヤシートが取り払われた。 | ダブルクレードルタイプのパイプフレームはタンク下からシートレールへストレートに続く、そのフレームワークにも懐かしさを覚える。 |
リヤビューも実にオーソドックス。往年のスポーツバイクに見られたスタンダードなデザインがそこにある。◼️主要諸元◼️
エンジン:4ストローク 空冷90°V 型 2 気筒 OHV 2バルブ
総排気量:853cc
ボア × ストローク:84mm×77mm
最大出力:40.44kW(55HP)/6,250rpm
最大トルク:62Nm/3,000rpm
燃料供給方式:マレリ製電子制御燃料噴射システム シングルスロットルボディ
始動方式:セルフ式
トランスミッション:6速リターン
クラッチ:Φ170㎜乾式単板クラッチ
フレーム:高張力鋼管ツインチューブクレードルフレーム
フロントサスペンション:Φ40㎜油圧式テレスコピックフォーク
リアサスペンション:オーリンズ製油圧式ツインショックアブソーバー フルアジャスタブル
フロントブレーキ:320mmステンレス製シングルフローティングディスク ブレンボ製対向4ピストンキャリパー
リアブレーキ:260mmステンレス製フローティングディスク ブレンボ製対向2ピストンキャリパー
フロントホイール:3.50"x16"アルミダイキャスト
リアホイール:4.00"x16"アルミダイキャスト
フロントタイヤ:130/90-16"
リアタイヤ:150/80-16"
全長/全幅/全高:2,185mm/840mm/1,160mm
シート高:785mm
ホイールベース:1,465mm
燃料タンク容量:15ℓ
車両重量:210kg
セーフティシステム:MGCTトラクションコントロール、ABS
製造国:イタリア
◼️ライダープロフィール
元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファン バイクスのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナー気分でじっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。