2017年10月に発売されたe-Golf。七代目ゴルフをベースとした100%EVだが、すでにドイツ本国では八代目ゴルフがデビューし、EV専用モデルのID.3(アイディ3)も発表されている。すでに役目を終えつつあると思われるe-Golfだが、果たして今このクルマに乗るとどう感じるのだろうか?
REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
新型ゴルフとID.3がデビューした今、あえてe-Golfに乗ってみる
ご存知の通り、すでに欧州では新型ゴルフが発表されており、現行七代目ゴルフはモデル末期を迎えている。
さらに2019年のフランクフルト・モーターショーではEV専用に開発されたMEBプラットフォームを採用する初めてのモデル、「ID.3」がデビューしている。
そんな今、2017年にデビューしたe-Golfに試乗する機会を得た。七代目ゴルフをベースに100%EVに仕立てたモデルで、どう考えても「ID.3」への橋渡し役である。果たしてe-Golfは役目を終えたのだろうか?
まず、e-GolfのEVとしてのパフォーマンスを理解するために、航続距離を日産リーフと比べてみよう。
e-Golfのバッテリー容量は35.8kWhで、航続距離はJC08モードで301kmとなっている。
対するリーフは62kWh仕様と40kWh仕様をラインナップする。前者の航続距離はJC08モードで570km(WLTCモードでは458km)、後者は400km(WLTCモードでは322km)と、いずれもe-Golfを上回る。もちろん、EV専用設計のリーフが有利となるのはしかたがないだろう。
だからEVとしての性能だけにフォーカスしてクルマを購入するのなら、自ずとリーフが最有力候補となる。
ただ、「クルマ」として考えるのならば、必ずしも答えはひとつではない。
すでに当サイトでもレポートしているとおり、乗り込んでみてもe-Golfに特別なところはない。e-Golfは、あくまでパワーユニットのみ電動モーターを用いた「ゴルフ」なのだ。
走り出しはEVらしくスムーズかつ力強いもの。だがe-Golfは、BMW i3が先鞭を付け、リーフも踏襲したワンペダル方式───アクセルペダルから足を離すだけで強力な回生ブレーキが効き、停止まで操作できるシステムを採用していない。
これもEVらしさを前面に押し出さず、内燃機関ユニットと同じ感覚で運転できることを優先したものだ。
ただし回生の強さは選ぶことができる。通常の「Dレンジ」ではアクセルオフによる回生を行わず、コースティングとなる。そして「D1」「D2」「D3」と回生ブレーキの効きが強くなり、「Bレンジ」で最強となる。このBレンジでも完全停止までは行わず、ちょっとエンジンブレーキが強めかな、という程度で、EVに初めて乗る人でも違和感は覚えないだろう。
そしてワインディングロードにおけるe-Golfは、まさに世界のベンチマークと評されるゴルフそのものだ。スタンダード比で270kgほど重い車重をものともせず、ハンドリングは限りなくニュートラルに近いアンダーステアで走りやすいことこの上ない。乗り心地は車重が増えたおかげでむしろ落ち着きを増しており、そこへ変速ショックがなく至極スムーズなパワートレインが加わることで、「最上級のゴルフ」と言って然るべきフィールが味わえる。
唯一引っかかるのは、544万8000円というプライスである。いくらゴルフの最上級モデルだと認識しても、リーフが332万6400円から499万8400円、ゴルフTSIが258万9000円、最新ディーゼルのゴルフTDIが323万円から買えることを考えると、今なお内燃機関と比べてインフラ面で劣るEVに、ここまでのお金を支払える人はかなり限られるだろう。
とはいえCセグメントのハッチバックとして最も完成されているゴルフというクルマをEVに仕立てたe-Golfが、唯一無二の価値を生み出していることは間違いないだろう。それはモデル末期となった今でも色褪せるものではない。
フォルクスワーゲン e-Golf
全長×全幅×全高:4265×1800×1480mm
ホイールベース:2635mm
乗車定員:5名
車両重量:1590kg
電動モーター型式:EAZ
最高出力:100kw〈136ps〉/3300-11750rpm
最大トルク:290Nm/0-3300rpm
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
総電圧:323V
総電圧量:35.8kWh
トランスミッション:1段固定式
駆動方式:FF
サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトレーリングアーム
航続距離(JC08モード):301km
タイヤサイズ:205/55R16
車両価格:544万8000円