2019年10月末に発売されたばかりのフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRに試乗する機会を得た。最高出力は標準仕様のGTIよりも60psも引き上げられた290psで、電子制御油圧式ディファレンシャルロックやアクラポヴィッチ製チタンエキゾーストなどを与えられた最終進化形ゴルフの真価を味わう。
REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
最速のGTIであり、最も熟成されたゴルフでもある
すでに本国では新型となる八代目ゴルフが発表されており、まさしくモデル末期を迎えたこの七代目ゴルフに、おそらく最後の特別仕様車となるであろうGTI TCRが追加された。
TCRとはフォルクスワーゲンが参戦しているWTCR(世界ツーリングカー・カップ選手権)のイメージを色濃く投影されたモデルとの意味が込められている。
日本市場での販売台数は600台を予定しており、2019年12月初頭の時点ですでに250台が販売されているという。
エンジンは最高出力が290ps、最大トルクが380Nmで、標準仕様のGTIよりもそれぞれ60psと30Nmも引き上げられている。トランスミッションは標準仕様よりも1段増えて7速DSGとされている(GTIの上級仕様の「GTIパフォーマンス」と同じ)。
このGTI史上で最強のスペックを与えられたGTI TCRに、短時間ながらワインディングロードを中心とした公道で試乗することができた。
290psものパワーがあれば、公道で不満を覚えるはずもない。アクセルをひと踏みすれば、わずか0.03〜0.04秒という変速スピードを誇る7速DSGを介してフロントホイールがゴリゴリと路面を蹴り上げ、アクラポヴィッチ製チタンエキゾーストが奏でる快音とともにあれよあれよという間に人に言えない速度に突入してしまう。
これだけのハイパワーを誇るFWDモデルとなると、懸念されるのはトラクション性能とアンダーステアだろう。
試乗コースにはタイトなヘアピンもあったが、電子制御油圧式ディファレンシャルロックのマネジメントが見事で、アクセルを無遠慮に踏みつけても、まったく平静を装ったままオンザレールで立ち上がっていく。
そして少々荒れた路面でもタイヤが接地を失うことがなく、290psをあますところなく路面に叩きつける。まぁ、あますことなく叩きつけているとあっという間にイリーガルな速度域に突入するので、すぐにアクセルを戻す羽目になるが……。
標準仕様のGTIに対するアドバンテージを真面目にレポートしようとすれば、路面が劣悪で、かつ速度域がとんでもなく高いサーキット……ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェにでも行く必要があるのかもしれない。
印象的なのは、これだけのハイパフォーマンスを誇りながら、その振る舞いに過激さが微塵も感じられないことだ。
オンザレールなハンドリングも、トラクション性能も、当然ながら速さに結びつく要素だが、それが公道レベルの速度域では運転のしやすさや高い快適性となって現れる。
TCRという名前からは、レーシングスペックを持った過激でストイックなキャラクターを想像してしまうが、よく考えれば、速さがすべてのレーシングマシンにはヘタな演出など不要で、ひたすら高効率で、正確に動くことが求められる。そういう意味では、GTI TCRこそ「TCR」の名に相応しい。
そして現行ゴルフの最終進化形として現れたGTI TCRは、「最もハイパフォーマンスなGTI」であることに間違いはないが、それ以上に「最も熟成されたゴルフ」だったのである。
フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI TCR
全長×全幅×全高:4275×1800×1465mm
ホイールベース:2635mm
車両重量:1420kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5×92.8mm
圧縮比:9.3
最高出力:213kw〈290ps〉/5400-6500rpm
最大トルク:380Nm/1950-5300rpm
燃料タンク容量:50L
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FF
乗車定員:5名
タイヤサイズ:235/35R19
WLTCモード燃費:12.7km/L
市街地モード燃費:9.2km/L
郊外モード燃費:12.8km/L
高速道路モード燃費:15.1km/L
車両価格:509万8000円