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圧倒的な動的パフォーマンスだけでなく、そのシステムにおいてもポルシェの未来を示してくれたタイカン。本誌でもお馴染みの2人のジャーナリストは、どのような印象を抱いたのだろうか。
REPORT◎大谷達也(OTANI Tatsuya)
※本記事は『GENROQ』2019年12月号の記事を再編集・再構成したものです。
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タイカンに試乗して考えさせられたことが2つある。
ひとつはEVを1台のクルマとしてまとめあげる難しさと重要性だ。
2年ほど前に10台の中国製EVとPHVに試乗したことがある。このときは、モーターやパワーコントロールなどのデバイスごとに見るべきところはあっても1台のクルマとして見ると操作系の感触がバラバラでまったく魅力を覚えなかった。
タイカンは、それと好対照である。
まず、ヴァイザッハの技術者たちに「どんなクルマを造るか?」のイメージが明確にあり、この目標に向けてタイカンは造り上げられたように思う。実は、4ドア・4シーターという成り立ちからして「パナメーラのEV版」と勝手に予想していたのだが、これは見事に裏切られ、「911のEV版」というべき鮮やかなスポーツ性能を見せつけた。しかも1台のクルマとして完璧なまとまりを実現している。これは新興自動車メーカーには決してマネのできないことだろう。
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もうひとつは、ブランド内におけるEVの位置づけである。
ドイツ・プレミアムブランドの多くはEVに対し、サブブランドもしくはそれに準じたネーミングを行なっているが、そういった類いのものはタイカンに一切ない。裏を返せば、タイカンはポルシェ・ブランドのど真ん中に位置するクルマとして造られたことになる。これは極めて重要なメッセージだ。しかも、ポルシェはツッフェンハウゼンにわざわざ新工場を立ち上げてタイカンを生産している。つまり、タイカンはポルシェの未来そのもの。そしてそれは、ポルシェの未来のスポーツカーを体現する存在といっても過言ではないのだ。