AUV(Autonomous Underwater Vehicle)とはなにかご存知だろうか? 自律型無人探査機のことである。AUVによる深海レース・国際競技会が行われた。Shell Ocean Discovery XPRIZEである。日本から参戦した「TEAMクロシオ(KUROSHIO)」を紹介しよう。
TEXT◎貝方士 英樹(KAIHOSHI Hideki)
クロシオは「産・官・学」共同チーム
AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれる海中ロボット、自律型無人探査機による深海レース・国際競技会が行われた。「Shell Ocean Discovery XPRIZE(以下、 XPRIZE)」である。石油業界大手のRoyal Dutch Shellがスポンサーとなり、優勝賞金は700万ドル(日本円で約8億円)だ。
XPRIZEは、決められたルールと時間内で広大な範囲の深海底の地図を作るなどの課題をクリアする競技だ。競技の進行は技術書類審査という予選を行い、次に実地競技であるラウンド1と2という本戦を実施、全体の競技期間に3年間をかける。2017年から19年にかけてだ。各局面で審査され、勝ち進み、最終的にラウンド2の決勝戦でトップの成績と評価された者が優勝する。
この深海レースに日本チームが参加した。「Team KUROSHIO(チーム クロシオ、以下、クロシオ)」である。
クロシオは「産・官・学」共同チームだ。JAMSTECや東京大学生産技術研究所、九州工業大学、海上・港湾・航空技術研究所、三井E&S造船株式会社、日本海洋事業株式会社、株式会社KDDI総合研究所およびヤマハ発動機株式会社からなるチームである。
クロシオは共同作業で競技用機体などを開発し、予選や本戦を戦った。世界から数十チームが参加するなか勝ち残り、XPRIZE決勝で準優勝している。
3年という長い競技期間、実地競技は世界各地で行われ、自然環境を相手にするだけにXPRIZEのプロセスには紆余曲折あった。
たとえば最初の実地競技であるラウンド1は2017年9月にプエルトリコ沖合で予定されたが、同時期に現地を台風が襲い、甚大な被害が発生した状況などを受け、主催のXPRIZE財団はラウンド1をキャンセルした。実地競技の代わりに、技術審査団を各国参加チームの元へ派遣し、審査する方法へと変えた。
XPRIZEは過酷で、総合力が試される長期耐久レースでもあるということがわかる。
決勝のラウンド2はギリシャ共和国のカラマタという港町の沖合で2018年12月に行われた。ここでクロシオは苦境に立った。2台のAUVのうち1機が不調で、結局、投入を断念した。決勝は、JAMSTECが開発した「AUV-NEXT」と、三井E&S造船株式会社の洋上中継器「ASV」の態勢で、半減した戦力で挑むことになった。
決勝競技を始めようとするも、ここでもトラブル発生。開始を一時中断し、マシンを回収、トラブルを突き止め対策や補修を行う。そうするうちに今度は天候が急変。競技続行も危ぶまれるなか、主催側と協議し、海域変更を急遽実施するなど逆境に次ぐ逆境となった。
しかしクロシオは即応性や柔軟性、粘り強さを発揮して逆境を乗り越え、AUVが取得した観測データを回収、海底地形図として提出し、完走している。
2019年5月31日、XPRIZE財団はモナコ公国のモナコ海洋博物館で結果発表セレモニーを開催。結果、クロシオは準優勝となったのである。
クロシオの挑戦は、将来の海洋探査のあり方を大きく変える可能性を世界に示したものだ。クロシオはXPRIZEへの挑戦の先に「One Click Ocean」という将来ビジョンを掲げている。これは大掛かりな海洋探査を変え、高効率・省力化・迅速化などで高精度データを取得、もって高レベルな社会還元を目指すものだ。国際競技での準優勝にも加えて、海洋探査の戦略を転換するありようを示したことになる。XPRIZE財団のクロシオに対する審査・評価の詳細はまだ明らかになっていないが、こうした技術面や戦術・戦略面を高く評価したに違いない。
また、これにも増してチームの持つ熱意や結束力、日本人の持つ文化的側面や競技運営に対する貢献性などにも、XPRIZEのエグゼクティブディレクターJyotika Virmani博士は感謝と賞賛をもって言及している。