ドゥカティのスポーツネイキッド「モンスター821」の上級モデルとしてラインナップに加わった“ステルス”。トレリスフレームにテスタストレッタ11°水冷L型2気筒デスモドロミック4バルブエンジンを積む車体は専用色で仕上げられ、クイックシフターやアジャスタブルフォーク、メーターバイザーを標準装備します。
REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
しなりと剛性感がバランスするトレリスフレームの美しいフレームワーク
初代モンスターが1992年に発売されてから25年。2017年秋にデビューしたのが現行『モンスター821』です。「Stealth(ステルス)」はその上級仕様車として、ワンランク上の装備を持って19年6月にラインナップに加わりました。
トレリスフレームを骨格とするシャシーは、エンジンを剛性メンバーとして活用するドゥカティではお馴染みの車体構成。パイプを三角形状(トラス状)に繋ぎ合わせて格子構造にしたフレームは軽量・コンパクトで柔軟性に優れながら、しなりと剛性感が高次元にバランスし、美しい外見も大きな魅力です。
市販車では80年代半ばに登場した「750F1 PANTA(パンタ)」から採用してきたトレリスフレームですが、溶接箇所が多く大量生産には不向き。つまりコストがかかりますが、クラフトマンシップあふれるドゥカティでは伝統の技術となっています。
ドゥカティは世界最高峰のロードレースグランプリ「MotoGP」にて2007年、デスモセディチD16GP7というワークスマシンに乗ったケーシー・ストーナー選手がチャンピオンを獲得していますが、そのマシンもトレリスフレームですから実力は折り紙付きです。
もちろん、MotoGPマシンとは素材や形状は異なりますが、設計思想はモンスターにも受け継がれています。パイプフレームなので形状の自由度が高く、幅広なアルミツインスパーフレームと異なって、パイプ間に吸気ダクトや配管、ハーネス類を自在に通すことができたり、剛性を部分によって変えるといった設計のしやすさも持ち合わせているのも利点。ネイキッドであるモンスターシリーズでは、そのフレームワークを堪能することができます。
心臓部はV字角度を90度に開いたL型2気筒で、「Lツイン」と呼ばれるこのエンジン形状もドゥカティの代名詞。スリムなパワーユニットだからこそ、車体の幅も抑えることができるのです。
モンスター821ステルス……1,551,000円(消費税10%込み)
スタンダードのモンスター821が車体本体価格(10%税込み)144万5000円〜なのに対し、ステルスは155万1000円となっています。シフトアップとシフトダウンの両方に対応するクイックシフター(ドゥカティ・クイック・シフト・システム)をはじめ、プリロード調整しかできなかった43mm倒立フォークをフルアジャスタブル式にグレードアップし、メーターバイザーも追加装備しました。
シート高を2段階に可変できる機構が採用され、785mmと810mmが選べます。785mmにして筆者(身長175cm/体重64kg)が乗ると、写真のとおり両足を出すとカカトがうっすら浮いている状態に。
前方がスリムに絞り込まれたシートは、足着き性に優れるとともにシェイプしたタンクまわりを自然にニーグリップでき、車体との良好なフィット感を生んでいます。程良いハンドル幅と高さで、ツーリングの快適さとスポーツ性を兼ね備えたライディングポジションと言えるでしょう。
ミドル域のパンチ力は特筆もの
走り出すと低回転域が滑らかで扱いやすく、ギクシャクすることのないエンジンにまず感心します。4000〜5000rpmからはパンチが効いて力感が増し、アクセルを開けるのが楽しくて仕方がありません。
狂暴すぎて手に負えないというのではなく、自在に加速が味わえるという印象で、6000〜7000rpmを超えると伸びやかな高回転域が待っていて、109PSを発揮する9250rpmを過ぎてもまだ淀みなく回っていきます。
安定感を伴うシャープなハンドリングも秀逸です。モンスターらしくステージを選ばないステアリングフィールで、街乗りで身のこなしが軽いし、ワインディングもスポーティ。クイック過ぎないし、落ち着きもあって自然とコーナーをスピーディに駆け抜けていけるのです。
ペースを上げるほどに接地感が高まり、イタリアンスポーツがハイペースを求めていることを感じます。つまりモンスター821を相棒とするには、休日にワインディングあるいはサーキット走行会などでそのポテンシャルの高さを解放させてあげることが必要なのかもしれません。
特に、アップ&ダウンに対応するクイックシフターを標準装備するステルスを所有する歓びをもっとも感じられるのは、そうした場所のような気がします。スーパースポーツの背後に、ステルス機のように迫ることもできそうです。
モンスター821ステルス細部解説
LEDポジションライトをU字型に配したハロゲン式のヘッドライト。コンパクトながらも防風効果の高いメーターバイザーが、ステルスでは標準装備されます。
複数の表示モードがあるTFTカラー液晶ディスプレイ。ギアポジションインジケーターや燃料計のほか、ABSやDTC(トラクションコントロール)の介入度なども表示され、豊富な情報をライダーに絶えず届けてくれます。
ライド・バイ・ワイヤによるドゥカティ・ライディング・モードは、「スポーツ」「ツーリング」「アーバン」の3つのプリセットモードを設定済みです。スロットルレスポンスなど出力特性だけでなく、ABSやDTCの介入レベルも異なり、予め最適化されていますが、好みや状況によって細かく調整することも可能です。
ドゥカティ・ライディング・モードの選択をはじめ、3段階のABS、8段階のドゥカティ・トラクション・コントロール(DTC)などの設定は、ハンドスイッチで直感的にできました。
インナーチューブ径43mmのカヤバ製倒立式フロントフォークは、ステルスではフルアジャスタブル式にグレードアップ。ブレーキはブレンボ製4ピストンモノブロック・ラジアルマウントキャリパーと320mm径セミフローティングの組み合わせとしています。タッチ、制動力、パフォーマンスの高さは申し分ありません。
スチールパイプ製トレリスフレームとともにシャシーの剛性メンバーとなるL型2気筒デスモドロミック水冷4バルブエンジン。53mm径スロットルボディを採用し、最高出力は109hpに達します。
クイックシフターはアップ&ダウンに対応し、クラッチを切らずともシフトチェンジできるのはスポーツライディング時の強みになります。
プログレッシブリンケージを介して両持ちスイングアームにマウントされるモノショックは、プリロードアジャスター付きです。
2-1-2エグゾーストシステムは、ステンレススチール製エキゾーストパイプとアルミニウム製カバー&エンドキャップの組み合わせとしています。
スポーティなシングルシートカバーを標準装備(ヘキサゴンレンチで脱着可能)し、テールエンドもスタイリッシュです。
リヤブレーキはブレンボ製2ピストンキャリパーと245mmディスクの組み合わせとしています。ABSユニットはボッシュ製です。
■モンスター821ステルス主要諸元
エンジン種類:テスタストレッタ11° L型2気筒デスモドロミック 4バルブ 水冷
排気量:821 cc
ボア x ストローク:88 x 67.5mm
圧縮比:12.8
最高出力:80 kW (109 hp) @ 9,250 rpm
最大トルク:86 Nm (8.8 kgm) @ 7,750 rpm
ギアボックス:6速
クラッチ:湿式多板 ワイヤ式 セルフサーボ/スリッパ―クラッチ機構付きクラッチ
フレーム:スチールパイプ製トレリスフレーム
フロントサスベンション:43 mm径 倒立フォーク
フロントホイール:軽合金10本スポーク3.50 x 17
フロントタイヤ:ピレリ製 ディアブロロッソ III 120/70 ZR17
リアサスペンション:アジャスタブル モノショック、 プログレッシブリンク、 アルミニウム製両持ち式スイングアーム
リアホイール:軽合金10本スポーク 5.50 x 17
リアタイヤ:ピレリ製 ディアブロロッソ III 180/55 ZR17
フロントホイールトラベル:130 mm
リアホイールトラベル:140 mm
フロントブレーキ:ブレンボ製 M4.32 4ピストン ラジアルマウント・モノブロックキャリパー、 320 mm径セミフローティング・ダブルディスク、 ボッシュ製ABSユニット
リアブレーキ:ブレンボ製 2ピストン キャリパー、245 mm径ディスク、ボッシュ製ABSユニット
インストルメント:TFTカラー液晶ディスプレイ
乾燥重量:180.5 kg
車両重量(燃料と油脂類全てを含む重量):206 kg
シート高:785 / 810 mm (可変式)
ホイールベース:1,480 mm
キャスター角:24,3°
トレール:93.2 mm
燃料タンク容量:16.5リットル
シート数:ビポスト
標準装備:ライディング・モード、パワーモード、DSP(ボッシュ製ABSユニット+DCT) 、ライドバイワイヤ、TFTカラー液晶ディスプレイ、リアシートカウル、ドゥカティ・クイック・シフト (DQS) アップ/ダウン、DDA(オプション設定)
ドゥカティワランティ:2年間距離無制限
ドゥカティサポートシステム:15,000 km / 12ヶ月毎
バルブクリアランスの点検:30,000 km毎