
ドライバーも乗員もリラックスさせてくれる。そんなボルボの伝統的なインテリア設計は、先進的なインターフェイスを手に入れた新しいXC60にも受け継がれている。ここでは、そんな新型XC60の使い勝手を探ってみよう。
TEXT●工藤貴宏(KUDO Takahiro)
PHOTO●中野幸次(NAKANO Koji)
MODEL●武田 愛(TAKEDA Megumi)
※本稿は2017年10月発売の「ボルボXC60のすべて」に掲載された記事を転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
〈取材車のプロフィール〉XC60 T5 AWD Inscription

ボディカラー:パイングレーメタリック
インテリアカラー:チャコール/チャコール
シートカラー:アンバー
シート:パーフォレーテッド・ファインナッパレザー
オプション:チルトアップ機構付き電動パノラマ・ガラスサンルーフ、メタリックペイント、Bowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム、電子制御式4輪エアサスペンション/ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー
大画面液晶と音声認識を活用
9インチのタッチディスプレイを組み込んで、ナビやオーディオから空調からまで操作系を統合してインターフェイスを刷新。物理スイッチ数が少ないことに新時代を感じる。多くのメニューが用意された音声操作も特徴だ。メーターパネルは全画面液晶
いち早く大きな液晶を組み込んでメーターでも先進性を先取りしていたボルボ。新型XC60では90シリーズ同様に12.3インチの全面液晶メーターが採用され、表現の幅がさらに広がった。〈運転席〉大画面タッチパネルを中心に自然な感覚で操作できるよう工夫

新世代になり全面刷新したインターフェイスは、先立って登場した90シリーズと同じテーマに基づいて作られている。注目は物理スイッチの数を最小限にしたシンプル化と、中央に鎮座する9インチのタッチパネルによる先進性だ。ドライバー側に傾けて視認性&操作性を高めたこのタッチパネルはシートや空調の調整からナビまで幅広い範囲の操作を実現。またオーディオやナビの操作から空調やシートヒーターまで音声入力でも多くの操作がおこなえ、運転中のハンズフリー化を追求しているのも特筆すべき特徴だ。もちろん日本語で入力でき、たとえば「暑い」と話しかければエアコンの設定温度を下げてくれる。
12.3インチのフル液晶メーターではあるが、アウディなどのように画面の構成を全面的に変更できる機能は組み込まず、基本レイアウトは固定。左右にタコメーター/スピードメーターを置き、中央に表示切替可能なエリアを組み合わせる。あくまでもシンプルで、見やすさにこだわる姿勢が貫かれていることを実感する。写真のデザインテーマは「Chrome rings」。
「Chrome rings」のほか「Contrast」(左)「Performance」(右)そして「Glass」と4つのテーマを好みで選べる。基本レイアウトは共通だが、中央ディスプレイのサイズなども変化する。
車速やナビ誘導時の簡易案内などをフロントウィンドウ下に表示するヘッドアップディスプレイ。前方から視線&焦点を大きく動かさず情報を確認できるのがポイント。
中央はナビのほか各種注意喚起、オーディオなどさまざまな情報をドライバーに伝えてくれる。またクルーズコントロール作動時はスピードメーターの下にその設定状況が表示され、パイロットアシストの作動を示す(クルーズコントロールと切り替える)インジケーターも最下段左に出現。「50」と表示されているのはカメラで読み取った制限速度だ。
ライトスイッチがダイヤル式からレバー式になっただけでなく、ワイパー操作方法は作動モードの上下位置が従来と逆になるなど、新世代になって操作方法は従来と大きく変わった。先代から乗り換えると最初は戸惑うかもしれないが、時間が解決するだろう。
ステアリングスイッチは右側がメーター内ディスプレイの切り替えと操作、それから音声入力開始ボタン。左はクルーズコントロールの設定だ。どちらもシンプルで扱いやすい。
シフトレバーはストレートゲート式。Dレンジから左側に倒すとレバーを前後に動かしてシフトアップ/ダウンのマニュアル操作が可能だ。「R-Design」はパドルシフトも備わる。
スターターはセンターコンソールに置いたダイヤル式でかなり個性的。しかし、スムーズに手の届く場所で操作性は良好である。その後方(写真手前)にあるのは走行モードを切り替える、これまた個性的で凝ったデザインのロータリー式のセレクターだ。さらに後方には電動パーキングブレーキのスイッチと、信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しても停止状態を保持する機能のオン/オフスイッチが並ぶ。
ルームミラーは鏡のまわりに縁のないフレームレス。縁がないぶんだけ鏡の面積が広く、安全かつ先進的な印象もある。
アクセルペダルは支点を下にしたオルガン式。メリットはアクセルを踏む際の足の動きが自然になることだ。
「Eco」にするとエンジンやトランスミッションの制御が燃費重視となり、65㎞/h以上でアクセルをオフにするとコースティングとなる。動力性能をフルに発揮する「Dynamic」に加え、駆動力やスタビリティコントロールなどを悪路走行向きにする「Off Road」があるのも心強い。設定時は、好みの味付けにする「INDIVIDUAL」も選べる。 エコモード時は空調も燃費重視となり、タコメーターの位置がエコゲージに。 | 公道外での悪路走行を前提としたオフロードモード時は、速度計にオフロードモードの上限速度が示される。 |
〈ディスプレイ〉先進的かつ使いやすさを求めたディスプレイ中心のインターフェイス

ナビゲーション、オーディオ、電話、空調、シート調整、車両設定……。多岐にわたる機能の操作系を統合し、9インチの大型タッチスクリーン式ディスプレイを中心にしたインターフェイスが採用されていて、ボルボは「SENSUS(センサス)」と呼ぶ。新世代ボルボのインパネ周辺の物理スイッチが少ないのはこのインターフェイスとしたことに起因しており、幅広い機能ながら物理スイッチよりもシンプルでわかりやすい操作系としているのだ。操作はスマートフォン感覚。赤外線方式で、手袋をしていても操作可能なのが寒い国で生まれたクルマらしい。
地図表示は従来のナビでは真似のできない大画面。まるでタブレット端末で地図を見ている感覚だ。 | 地図を小さめ(それでも充分に大型)の画面とし、周囲に情報を多めに表示することもできる。 |
バーグラフにより燃費履歴の確認も可能だ。リセットしてからの距離や走行時間も表示される。 | 車両の各種機能の設定。スマートフォンのアイコンのように、スイッチの位置は任意に変更可能だ。 |
メーターのテーマや安全機能、ライトやロック類など、項目は幅広く自分好みにキメ細かく設定できる。 | スマートフォンのようにアプリの追加で機能拡張が可能。Apple CarplayやAndroid Autoにも対応。 |
取扱説明書も内蔵されている。ビジュアルで項目を検索できサッと確認できるのも電子取説ならでは。 | シート調整は座面脇にあるコントローラーのほか、ディスプレイでのタッチ操作でも可能だ。 |
エアコンは前後4席がそれぞれ独自に温度を調整できる4ゾーン式(T8を除く)。設定温度などはタッチパネルだけでなく音声でもコントロールできる。そして画面は人間の形をしたイラストによる風向き調整がボルボらしい。
インスクリプションは後席のコントローラーもタッチパネル式。シートヒーターのスイッチも盛り込まれている。後席用吹き出し口はBピラーにも装備される。
好みに応じて通常のバックモニターと360°ビューカメラを切り替え可能。ステアリング操作に連動した進路予測ガイド線やソナーによる障害物警告も表示される。後退時に左右から近づく車両の存在を示す警告も組み込んでいる。また自動駐車や自動発車機能(ステアリング操作を自動化する)も備わり、超音波センサーで正確に距離を計測するので全長の1.2倍のスペースがあれば縦列駐車や発車ができるという。
真上から見下ろすように車両全周を映し出す「360°ビューカメラ」は駐車枠や周囲の車両との位置関係が一目瞭然で駐車をサポートしてくれるだけでなく、車両直近の死角を減らして安全性を高める装備。ステアリング切り角に連動した進路予測線も表示される。
10スピーカーの「ハイパフォーマンス・オーディオシステム」を標準装備し、オプションとして英国の高級ブランドであるBowers& Wilkinsと共同開発したプレミアムサウンド・オーディオシステムも設定。15スピーカーで構成するこの最高峰システムはクリアで臨場感あふれる音が特徴で、スウェーデンにあるヨーテボリ・コンサートホールのスイートスポットである577番シートで聞こえる音響を再現したというスペシャルなモードも搭載している。〈シート&居住性〉見晴らしのいい視界と疲れにくいシート
インテリアが全面的に刷新されても変わらないボルボの特徴。それは快適でリラックスできる空間を乗員に提供してくれることだ。新世代ボルボのシートの座っていると乗員を優しく包み込むようなやわらかいデザインや仕立てのいい素材に加え、人間をどう座らせるべきかというテーマに対して真摯に向き合っていることが実感できる。
SUVらしく高めの着座位置で視界も良好。視線の高さは地面から130㎝程だ。シートが大型なことはボルボの伝統をしっかりと受け継いでいるが、座り心地は先代までのように極厚のクッションで柔らかく身体を包む感覚は控えめとなり、着座感が硬めになった。一方で変わらないのは長時間乗車でも驚くほど疲れないこと。これは身体をしっかりと保持し、体圧分散を最適化しているからだろう。
シートはグレードにより2タイプあり、写真はコンフォートシート。「R-Design」にはホールド性を高めたスポーツシートが装着される。ランバーサポートも含む電動調整機構やヒーターは全車に組み込まれ、上級仕様ではベンチレーションやマッサージまで装備。背もたれのサイドサポートを電動で調整する機能により、シートのタイト感までも好みに変更できるのだから驚く。その操作時は、シートのスイッチに反応してセンターディスプレイがシート調整モードに切り替わるのもうれしい配慮だ。
床に対して座面位置が高めだから背の高い人でも着座姿勢が適正。前方視界がいい、頭上もゆったり、前席下にはつま先を入れるスペースが広く用意されている、など居心地がいい。
後席もサイズが大きいのがボルボの美学。3名掛けも可能だが、2名掛けをメインに左右の着座部分を広くした形状になっている。立体的なデザインで、着座時の姿勢変化を最小限に抑えるように考えられていることが理解できる。
中央席のヘッドレストは普段は後方視界の邪魔をしないように背もたれに一体化されていて、中央席に人が座る時だけせり上がるタイプだ。見た目もスマート。
ボルボの伝統に従い、ヘッドレストは運転席からの遠隔操作で倒せる。前に倒れるのは、人が座る際には邪魔になるから確実に起こすという安全を重視した設計だ。
ステアリングヒーターやシートヒーター&ベンチレーションはディスプレイで操作する。
センターアームレストは左右が幅広め。数多く用意された収納スペースは次ページを見てほしい。
「ISOFIX」に準じたチャイルドシート取り付けバーは、カバーを空けると口が広く、しっかりと金具が見えるから使いやすい 。
背が低めのSUVの優れた部分のひとつが乗降性。シート高はフロントが地上660~680㎜、リヤは680㎜で、モデルの女性ほどの身長(165㎝)があればスッと腰を下ろしたり座ったりできて乗降姿勢はとてもスムーズだ。サイドシルは閉じたドアの内側となり、もし車体が汚れていてもドア開口部付近は綺麗な状態を保てるのはうれしい配慮。乗降時にズボンやスカートの裾を汚さずに済む。
〈ストレージ〉独自で多彩な収納の数々が移動を快適にしてくれる
ボルボといえば、独特の収納スペースを盛り込むなど実用性に関しても個性的。最新世代になって廃止されたものがある一方で、Aピラーのチケットホルダーなど受け継がれているものもある。またセンターコンソールのシャッターなどより洗練された部分も気になるポイントだ。
ボルボの伝統ともいえるAピラーのチケットホルダーは、駐車券を挟むのに最適だ。
フロントドアハンドルは、底が設けられて小物を置ける形状になっている。
サンバイザー裏に備わるカードホルダーはクリップ式。
センターコンソールはシャッターを閉めてもトレーとして使える。機能とデザイン性を両立させているのはさすがだ。
キー付きのグローブボックスはエアコンの風を導いて保冷ボックスとしても使える。最上部にはETCユニットが備わり、上段のトレーには取扱説明書はもちろん、ボックスティッシュも置ける。
シートバックポケットは入れたものがよく見えるネット式。サイズも大きい。
後席センターアームレストは多機能。中央のトレーのほか、前方に引き出し式のドリンクホルダー、後方はテーブルとしても使えるリッド付きトレーを備える。
シャッターは前方と後方の両方へスライドする設計で、前方を開けるとキーが置ける小型トレー。
センターコンソールの後方のシャッターを開けると前席用のドリンクホルダーが利用できる。
センターコンソールボックスの前方にはUSB端子がふたつ、後方にはDVDスロットを設置。
助手席足元の右側(センター側)には立体物もしっかりホールドできるネット収納を用意する。
フロントドアポケットは1ℓペットボトルに加えてボックスティッシュも置ける大容量。
リヤドアポケットには500㎖ペットボトル+小物が収納できるスペースになっている。〈ラゲッジスペース〉さりげなく便利な仕掛けが実用性を高める
後席使用時の荷室容量は従来型比で10ℓ増えた505ℓ。後席は左右60:40分割式で、ボルボの伝統に基づいて倒せば床面が完全にフラットになるのも朗報だ。また、後席を倒さず背もたれ中央部分だけを貫通させて4 名乗車のままスキー板のような長尺物を積むこともできる。
後席使用時の床面の奥行は960㎜。左右幅はホイールハウス間で1100㎜、その後方(写真手前側)の最も広い部分で1290㎜。欧州車らしく左右のトリムはフラットだ。
運転席のポジションを身長168㎝の筆者に合わせた状態で奥行きは1850㎜。床がフラットなので荷物を積みやすく、大人ふたりが横になってゆったりと寝ることだってできる。
荷崩れを防止するためのラゲッジセーフティネットが装備されている。普段はコンパクトに折り畳まれて荷室床下に収まっていて、必要な時にこうして展開するのだ。後席を畳んだ際は前席の直後に装着可能。
トノカバーは完全に巻き取れるだけでなく、Dピラーにレールが組み込まれていて荷物を出し入れする際はトノカバーを上に跳ね上げることもできてとても便利だ。床からトノカバーまでの天地高は480㎜だ。
床下にはアンダートランクがあり、前側(写真奥)にパンク修理キットを搭載。その手間にあるのが畳んだ状態のラゲッジセーフティネットで、かなり小さい。あとは洗車道具などを片付けるのに活用できる。
左側の壁には取り外し可能なネットのポケットを用意している。またDC12Vアウトレットも設置。床付近には荷物固定用に左右で合計4つのフックを装備している。
開口部近くの壁にはシートを倒すスイッチを用意。エアサス車は向かって右のスイッチで荷室の高さ(後部車高)も変えることが可能。
テールゲートは全車とも電動開閉式。バンパー下に足を出し入れすることで手を使わずにゲートを開け閉めできる機能も備わっているから、両手が塞がっていてもノープロブレム!
床面は地上690㎜とSUVとしては高くない。掃き出し部分は開口部下端と床がフラットである。テールゲートの電動開閉スイッチの高さは地上1910㎜と極端には高くないが国産車に比べると高めだ。OTHER ITEMS
先代よりも5割広がった開口部は実測で前後1170×左右710㎜。前方はスライド&チルトが可能で、駐車中に外気温が25度以上になるとサンシェードが自動で閉まる機能も搭載。
すべてのグレードともに運転席/助手席ともにサンバイザー裏にバニティミラーが組み込まれ、高級車らしくリッドの開閉に連動して点灯するライトも備わる。
後席に子供を乗せる際は内側からドアが開かないようにチャイルドロックを掛けるべきだが、それを運転席から遠隔操作できる「パワーチャイルドロック」をオプションで装着可能。
助手席エアバッグの作動を任意に止めることで、助手席にも後ろ向きチャイルドシートが装着できるようになる仕掛け。子供を横に座らせてドライブできるようになるのだ。
ワイパーブレードにウォッシャーノズルを組み込むことで、効率よく確実にウォッシャー液を噴射。従来のタイプに比べ無駄が減り、ウォッシャー液の量自体も少なく済む。
キャップがないからリッドを開けるだけで燃料ノズルを差し込める給油口はセルフスタンドでのわずらわしさから解放してくれるほか、キャップの閉め忘れがないのも大きなメリット。
高速道路上で非常停止する際などに使う三角表示板。テールゲート裏に専用の収納格納場所を用意しているから、たとえ荷室に荷物が満載でも必要な際にサッと取り出せるのがいい。
携帯するだけでドアアンロックやエンジン始動ができる非接触式キー。まるでアクセサリーのような仕上げに、オーナー満足度とクルマへの愛着は大きく高まることだろう。