ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェで市販車FF世界最速タイムを更新した車両に限りなく近いスペックを持つルノー・メガーヌR.S.トロフィーがいよいよ日本に上陸。スタンダードのR.S.と比べて最高出力が21psも引き上げられるなど、そのパフォーマンスの向上は計り知れない。筑波サーキット「コース2000」から試乗レポートをお届けする。
REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)
大きく引き上げられたパワーとトルク
まずはスタンダードのメガーヌR.S.との違いから紹介しよう。
エンジンは最高出力が21ps向上の300psとなり、最大トルクは30Nm増しの420Nm(6速MTは400Nm)となった。これはメガーヌR.S.史上で最もパワフルなスペックとなった。
ターボチャージャーにはF1にも使われているセラミック製ボールベアリングが採用され、レスポンスを向上させている。
これに組み合わされるトランスミッションは、スタンダードのメガーヌR.S.は6速DCT(ルノーではEDC───エフィシエント・デュアル・クラッチと呼ぶ)のみの設定だったのに対し、R.S.トロフィーはあわせて6速MTも選択可能とした。MTモデルではサイドブレーキが電磁スイッチ式からコンベンショナルな機械レバー式に改められ、サイドブレーキターンなど、リヤブレーキのみを使って車両の姿勢をコントロールするテクニックが使えるようになる。
さらに排気系に目を向けると、アクティブバルブ付きスポーツエキゾーストが新たに採用されている。マフラー内に設けられたふたつの排気ルートのうちのひとつに機械式バルブを設け、。そのバルブが閉じられると騒音レベルを抑えた日常使いに適したサウンドとなり、バルブを開けるとスポーツカーらしい痛快なサウンドとなる。
また、メガーヌR.S.には「シャシースポール」と「シャシーカップ」が用意されており、前者は公道でのスポーツドライブにフォーカスしつつ日常使いも考慮したもので、後者はサーキット走行に主眼を置いている。
スタンダードのメガーヌR.S.はシャシースポールを採用していたが、トロフィーは、スプリングレートをフロント23%、リヤ35%、ダンパーレートを25%高め、加えてフロントアンチロールバーの剛性も7%高めた「シャシーカップ」を採用している。さらにフロントのラバー・バンプストッパーが10mm長くなっている。これは、2019年初頭に限定車として導入された「メガーヌR.S.カップ」と同じものだ。
さらにメガーヌR.S.カップと同様に、ジェイテクト製のトルセンLSDを搭載している。
トルセンLSDとは、サイドギヤを分割し、結合部にワンウェイ構造のヘリカルスプラインを採用したLSDのこと。 左右輪のトルク配分比を高め、トラクション性能や走行時のフィーリングを向上させるといった機能に加え、アクセルオンの時は差動制御が大きく機能することでトルク配分比を大きく高める。一方アクセルオフの時には差動制御の効きを抑え、最適なトルク配分とドライバビリティの向上を実現する。
そしてフロントブレーキに、鋳鉄製のベンチレーテッドディスクにアルミ製ハブを組み合わせたバイマテリアルブレーキを採用しているのもメガーヌR.S.カップと同様だ。スタンダードのメガーヌR.S.と比べて片側だけで1.8 kg軽量化を達成し、冷却性能も向上された。
そのほか、レカロ製のフロントバケットシート、専用Sデザインの19インチアロイホイール、一部にアルカンターラが張られたナッパレザーのステアリング、小型バッテリーとスーパーキャパシタを組み合わせてカプセル化することでクランキング力の向上と軽量化を実現したDESS(デュアル・エナジー・ストレージ・システム)などが新採用されている。
やはり4コントロールの威力は絶大!
そして早めにアクセルを開けられることがわかると、今度はその開ける量が増えてくるのがクルマ好きの性というものだが、スタンダード比で21psも増えたパワーを叩きつけてもタイヤはガシッと路面を掴み続け、ゴリゴリと加速する。機械式トルセンLSDの恩恵だろう。
こうなると、ますます危うくなってくる。ガンガン踏めてしまうから、どんどんペースが上がってしまう。筆者のようにたまにしかサーキットを走らないライトな愛好家は、こういうときこそ注意が必要だ。
だがしかしメガーヌR.S.トロフィー、筆者が多少調子に乗ったくらいではまったく破綻するそぶりを見せない。
とりわけバックストレートから最終コーナーへの安定感が抜群だ。ストレートエンドでのトップスピードは175km/hほどに達したが、ここから右に舵を当てると、コーナリングというよりも直進し続けているかのような安定感で、終始落ち着きを失わないままメインストレートにノーズを向けてゆく。これは前述の4コントロールにより、後輪が同位相に作動していることが効いているのだろう。タイトコーナーでの強烈な旋回力からは想像できないような安定っぷりだ。
驚くべきことに、実はこれも4コントロールの恩恵らしい。
4コントロールの採用によって旋回性と安定性を確保できたため、狙ったダイナミクス性能に対してサスペンションを柔らかめに設定できたというのだ。
電制ダンパーを使わず、四輪操舵によって走行性能と快適性能を両立させる。なんともルノーらしいアプローチではないか。
もちろん足がよく動くことは快適さのためだけでなく、路面追従性の向上にも寄与する。けっして路面状態が良好とは言い難いニュルブルクリンク・ノルトシュライフェでのタイム短縮を狙えば、自ずとこういった方向にセットアップされるのだろう。
思えばライバルの現行ホンダ・シビック タイプRも乗り心地はすこぶるいい。あちらは電制ダンパーを採用しているが、アプローチこそ違えどターゲットは同じということだ。
試乗を通じて感じたのは、スタンダードのメガーヌR.S.やGTにも採用されている4コントロールの効果がいかに絶大で、セッティングが秀逸かということだった。エンジンスペックが向上され、シャシーにも手が入れられることで全体のペースが引き上げられたトロフィーでも破綻することなく、ドライビングの大きな手助けとなってくれている。
そしてこれだけ安心できるのに、まったくドライビングプレジャーを削がれていないスポーツカーも珍しい。以前、スタンダードのメガーヌR.S.をレーシングドライバーのミハエル・クルムに試乗してもらったとき、「このクルマを作った人たちは、本当にサーキット走行が好きなのだろう」と語っていたことを思い出した。
ルノー・スポールのトップガンドライバーであり、ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェで7分40秒1の最速タイムをマークしたロラン・ウルゴンは、もちろん超がつくほどのカーガイだ。彼がまたしてもいい仕事をしたのは間違いない。
ルノー・メガーヌR.S.トロフィー EDC/MT
全長×全幅×全高:4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1470/1450kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:1798cc
ボア×ストローク:79.7×90.1mm
圧縮比:8.9
最高出力:221kW(300ps)/6000rpm
最大トルク:420Nm/3200rpm/400Nm/3200rpm
トランスミッション:6速DCT/6速MT
フロントサスペンション形式:マクファーソンストラット
リヤサスペンション形式:トーションビーム
乗車定員:5名
タイヤサイズ:245/35R19
ハンドル位置:右
WLTC複合燃費:12.4km/L/13.4km/L
車両価格:499万円/489万円