マツダの新世代商品群第二弾にして、初登場のコンパクトSUV、CX-30。魂動デザインの美しさはもちろんだが、空力(エアロダイナミクス)性能も世界トップ級だ。神はディテールに宿る、というわけで、聞けば驚く(聞かないと気付かない?)ディテールをCX-30のチーフデザイナー、柳澤 亮氏に解説してもらった。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
じつは、コンパクトSUVで世界最高の空力性能
空力性能を表す指標にCd値(空気抵抗係数)がある。Cd値が難しいのは、計測装置や計測条件によって数値がばらつくことだ。だから、A社が出している数値とB社が公表している数値を並べて比較することにあまり意味はない。という事情があるため、マツダは空力性能を数字で表現しない。「ですが……」と、マツダCX-30のチーフデザイナーを務める柳澤亮氏は口を開いた。
「社内で比較したところ、CX-30の空力はこのカテゴリー(コンパクトSUV)の世界トップクラスです。マツダ3も、あのカテゴリーで世界トップクラスです」
第7世代に位置づけられるマツダの新世代商品群はマツダ3から始まり、第2弾がCX-30だ。デザイン部門のトップである前田育男氏(常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当)は柳澤氏に言わせれば「根っからの走りの人間」で、「(速度無制限区間のあるドイツの)アウトバーンで200km/hで走ってふらつくのは許せん。第7世代のクルマから空力もしっかりさせるぞ」と号令を掛けたという。柳澤氏はこの号令を重荷と受け止めるよりもむしろ、歓迎した。
「もともと空力は好きなので、よろこんで取り組みました。どんどんアイデアを出してそれが形になり、数字が良くなっていくのは楽しいですね。空力エンジニアと一緒になって開発するのですが、こちらから『こうすれば良くなるんじゃないか』と提案し、データを作ってシミュレーションを回しました。100回とかそういうレベルでシミュレーションは回しています」
彫りの深いヘッドライトは、マツダ車の表情を形作るうえで欠かせない要素だが、空力的には難がある。くぼみに風がぶつかってドラッグを増やしてしまうからだ。
「空力のことを考えたら、ライトは深くなく、風がスムーズに流れてくれたほうがいいんです。でも、デザイン上は譲れない。なので、他のところで知恵を絞って空力を良くしようと取り組みました」
マツダデザインの象徴であるシグネチャーウイングがヘッドライトの下を通っている。よく見ると前端寄りに折れ線が付いているが、これは、空力上の理由で付いているのだ。折れ線がないと風がダイレクトにヘッドライトのくぼみに入り込んでしまうが、折れ線があることで風は跳ね上げられ、くぼみに入り込まない仕掛けである。
ワイパーはボンネットフードに隠れたコンシールドタイプだ。空力的な効果も考えたうえでの採用だが、空力性能よりもむしろ、風がワイパーブレードに当たることで発生する風切り音の影響を考えての採用だという。
車両の側面を観察してみよう。サイドシルを見ると、ドアの下端よりも外側に張り出しているのがわかる(余談だが、ドア下端がサイドシルを完全にカバーしていないのは、縁石要件。これ以上下げると当たってしまうため)。
「横から来た風と下からの風を混ぜたくないのです。横の風をこれ(サイドシル部のパーツ)でブロックして、下に巻き込ませないようにしています。下手したらフロントスポイラーよりも効果のある部品です。私はCX-30の前にデミオの用品担当をしていたのですが、これを付けることでものすごく数値が良くなりました」
リヤコンビネーションランプは、上から見るとデッキのように張り出した造形になっているが、これはデザインと空力の両方の機能を両立させている。
「これがないとズルっと下に落ちてしまうのを、形としてワンクッション受け止めています。これがあることで、前後の伸びやかさを見せたい。それがひとつ。もうひとつは空力で、上からの風を下に落とさず、剥離させて後ろに跳ね飛ばす役割を持たせています。機能的な面とデザイン的な面の両方の意味があります」
走行中のクルマが切り裂いた空気は、すぐ後ろで巻き込ませるように渦を作らせるのではなく、できるだけ後方で収束させたい。それがドラッグ低減を図る際のセオリーだ。リヤコンビネーションランプは、上からの風だけでなく、横を流れる空気を剥離させる役割も担っている。前後に貫くシリンダーをイメージした灯体の側面には段が付いており、筒状になった後端は外側に跳ねている。
「この段差と跳ねがないと、風が後ろで渦巻いてしまいます。そうすると後ろで乱れてしまうので、乱れないようにジャンプ台の役割を果たし、外に飛ばしています。そうやって空力を良くしています」
世界トップクラスの空力性能を実現しただけのことはある。CX-30を細かく観察すると、空力的な工夫がいっぱいだ。ひとつひとつの工夫がデザインと見事に融合しているところが素晴らしい。