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シトロエンC5 AIRCROSS:ハイドロニューマチックの現代的解釈 魔法の絨毯のような乗り心地をもたらすカラクリ


シトロエンといえば「ハイドロ」と刷り込まれている自動車ファンも多いだろう。あの独特の乗り心地を現代の技術で解釈し直したのがC5エアクロスSUVに採用されているプログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)。魔法の絨毯ライクという乗り心地をジャーナリスト、世良耕太が試した。


TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

PHCはハイドロニューマチックの現代的解釈

全長×全幅×全高:4500mm×1850mm×1710mm ホイールベース:2730mm 車重:1640kg

「いい!」と聞いていたので、期待値は上がっていた。なにがそんなにいいのかというと、サスペンションである。どんなサスペンションかというと、シトロエンはプログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)と呼んでいる。そのPHCがもたらす乗り心地をシトロエンは、「マジックカーペットライド」と表現している。魔法の絨毯に乗っているかのような乗り心地だと訴えかけているわけだ。




「ハードル上げちゃっているけど、大丈夫か?」と思うと同時に、相当な自信作なのだろうという想像もできる。PHCは複数のユニットを電子制御で連携させて魔法の絨毯のような乗り心地を提供するのではなく、メカニカルな機構のみで実現する。要するに、ダンパーだ。

リヤサスペンションはトーションビームアクスル

 PHCを搭載するのは、シトロエンC5エアクロスSUVである。本国では2017年10月に発表されたC4カクタスのフェイスリフト版で初搭載された技術だが、日本では2019年5月に発売されたC5エアクロスSUVが初出しとなる。




 シトロエンはかつて、ハイドロニューマチック・サスペンションを実用化した自動車メーカーだ。1955年のことである。ダンパー、ステアリング、ブレーキのオイルをひとつのオイルポンプで集中制御するシステムで、サスペンションはコンベンショナルなダンパーとスプリングの代わりに、ガス室に出し入れするオイルの収支によって、荷重によらず車高を一定に保とうとするシステムだった。

プログレッシブ・ハイドローリック・クッション



「シトロエンといえばハイドロニューマチック」というイメージが刷り込まれた層にとっては、「シトロエンは独創的な技術を送り出すメーカー」というイメージが頭の片隅に残っているに違いない。筆者のように。




 ハイドロニューマチックは「非常に複雑な構造で、メンテナンスにコストがかかるデメリットもあった」と、プジョー・シトロエン・ジャポンのプレゼンターは説明した。「シトロエンは反省し、メカニカルな構造にすることによって、お客様の負担を軽くしたいと考えました。得られる乗り心地のメリットはそのままに」




 PHCはハイドロニューマチックの現代的解釈に位置づける技術であり、ダンパーが単独で機能する。電子制御でアクティブに制御するのではなく、パッシブだ。従来のダンパーはバンプ側(縮み側)でフルストロークした際、最後はゴムやウレタン製のバンプラバーが衝撃の吸収を担って変位の終わりを告げる。バンプラバーがある程度は衝撃を緩和するものの、当然ながらダンパーがストロークしているときほどソフトではなく、硬さ、もっといえばショックを乗員に伝える。




 PHCはバンプラバーの機能をダンパーに組み込んでいる。ストロークの位置に応じて減衰力を発生する位置依存型のダンパーを、セカンダリーダンパーとして組み合わせているのだ。つまり、ダンパー・イン・ダンパー。バンプラバーの代わりに専用のダンパーが変位の終わりに向けて減衰していくので、ガツンとした衝撃はやってこない。バンプラバーの役割をセカンダリーダンパーに任せることで、ストロークが微小な領域では、減衰力を極めて小さく(つまりソフトな方向に)設定することができるという。




 これが、魔法の絨毯のような乗り心地をもたらすカラクリである。C5エアクロスSUVの場合、フロントは縮み側/伸び側双方にセカンダリーダンパーを搭載。リヤは縮み側のみに備えている。

PHCの技術は、1994年のパリ・ダカールラリーで優勝したシトロエンZXラリーレイドで開発した位置依存ダンパーがベースになっている

 シトロエンの説明によると、PHCの技術は、1994年のパリ・ダカールラリーで優勝したシトロエンZXラリーレイドで開発した位置依存ダンパーがベースになっているという。その後、WRCに参戦する各マシンにも同じ技術が受け継がれている。創業100周年を迎えた2019年、1月のモテカルロラリーで、シトロエンはWRC通算100勝目を挙げた。多分にマーケティング的な意味合いがこもっていると知りつつも、PHCにラリー車両の技術が受け継がれていると知れば、俄然興味が湧くというものだ。

弟分のC3エアクロスより大人っぽいが、お洒落さ変わらず タッチスクリーンは8インチサイズ

シートの出来のよさはさすが
ハーフレザーシート


 C5エアクロスSUVは弟分のC3エアクロスSUVと同種のカジュアルなセンスで内外装がまとめられているが、兄貴分(全長は340mm長い)だけあって、遊び心を感じさせながらも大人っぽい雰囲気を漂わせている。一例がシートだ。一部ではあるが、ファブリックを使っているし、ストライプが入っている点もC3エアクロスSUVと共通しているが、グリッドパターンのレザーがシックなムードを生み出している。




 そのシート、フレームに載せるウレタンパッドは高密度(つまり硬め)とし、その上に15mm厚のスポンジを載せた構造とした。だから、タッチはやわらかいけど、その奥で体をしっかりと支える。PSAグループに属するどのブランドのクルマに乗ってもそうだが、「やっぱり、フランス車はシートが違うよね」という良き伝統は受け継がれており、このクルマの美点のひとつだ。

エンジン 形式:2.0ℓ直列4気筒DOHCディーゼルターボ 型式:BlueHDi2.0 排気量:1997cc ボア×ストローク:85.0×88.0mm 圧縮比:16.7 最高出力:177ps(130kW)/3750pm 最大トルク:400Nm/2000rpm 燃料:軽油 燃料タンク:52ℓ

タイヤは235/55R18のミシュラン LATITUDE TourHP

最小回転半径は5.6m トランスミッションはアイシン・エィ・ダブリュ製の8速AT 1速:5.518 2速:3.183 3速:2.050 4速:1.492 5速:1.234 6速:1.000 7速:0.800 8速:0.673 後退:4.221 最終減速比:2,953

 肝心の乗り心地だが、1640kgという軽くはなく、重心が高いクルマにしては確かに良好で、電子制御満載の凝ったシステムではなく、メカニカルなシステムを持ったダンパー単体でこの乗り心地を実現していると思うと、感慨が深い。ハイドロニューマチックのように独特な乗り心地ではなく、当たり前だがフィーリングはコンベンショナルなダンパーの延長線上で、懐の深さを感じるといったところが正直な感想だ。




 魔法の絨毯はさすがにハードル上げすぎの感がなきにしもあらずだが、路面を問わず快適なのは確かで、ひび割れの多いざらざらした路面を好んで走りたくなる。技術のトレンドを追いかけつつも流されず、独創性を忘れない、シトロエン100年の伝統は生きている、と感じた。

燃費:WLTCモード 16.3km/ℓ  市街地モード 13.8km/ℓ  郊外モード 15.9km/ℓ  高速道路モード 18.1km/ℓ

シトロエンC5 AIRCROSS SHINE BlueHDi


全長×全幅×全高:4500mm×1850mm×1710mm


ホイールベース:2730mm


車重:1640kg


サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式


駆動方式:FF


エンジン


形式:2.0ℓ直列4気筒DOHCディーゼルターボ


型式:BlueHDi2.0


排気量:1997cc


ボア×ストローク:85.0×88.0mm


圧縮比:16.7


最高出力:177ps(130kW)/3750pm


最大トルク:400Nm/2000rpm


燃料:軽油


燃料タンク:52ℓ


燃費:WLTCモード 16.3km/ℓ


 市街地モード 13.8km/ℓ


 郊外モード 15.9km/ℓ


 高速道路モード 18.1km/ℓ


トランスミッション:8速AT


車両本体価格:431万9000円

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